第39話 信用の条件
アリアに対する謝罪と、関係を改善したいという申し出は、なんとか受け入れて貰うことが出来た。
誠実であろう、という俺の努力が実を結んだ結果を嬉しく思うが、それ以上にラースを赦してくれたアリアの寛大さや優しさに感謝するばかりだ。
「ありがとうございます」
お礼を伝えるために、再び深く頭を下げる。
すると、アリアは、
「構いません。………それと、軽々しくしている訳ではないと分かりましたが、やはり頭を下げるのは控えて下さい。貴方にされると、落ち着きません」
感謝に対して短く応えた後、そう告げた。
俺の気持ちは伝わってはいるが、それでも今までのラースとのギャップや爵位が上の人間からということもあり、頭を下げられるのは慣れないのだろう。
「承知しました」
貴族としての振る舞い方の必要性は理解しているし最近では大分慣れたが、令人の感覚として頭を下げるなど普通の事なので、難しくはある。
だが、アリアにこうまで言われては今後は控えた方が良いだろう。
話は一段落したがこれで終了という訳でもなく、今後のことについて、ふいにアリアが口を開く。
「貴方が改心したという事や私達の関係について、受け入れはしましたが、一つ条件をつけさせて下さい」
条件、という言葉を使った意味は理解出来る。
つまり、俺が本当に変わったかどうかを確かめるために、ある程度の試験とか課題とか、そんな感じのものを提示するのだろう。
「無論です。どのようなものでしょうか?」
条件について承諾し、それが一体どのようなものかを尋ねる。
すると、アリアはなぜか呆気に取られたような表情をした後、
「…………随分と即決ですね。私が無理難題を提示したらどうするのですか?」
と、告げた。
その言葉でアリアが驚いた表情をした理由が理解出来た。
確かに条件を確かめもせず承諾するのは、普通なら愚かな行為と言える。
しかし、それは、
「一先ずとはいえ、受け入れて下さっただけでも感謝してもしきれないことです。アリア様のお気持ちに応えるためにも、仮に無理難題であったとしても、私に出来るのは乗り越えるために努力することだけですので」
いくら条件付きとはいえ、受け入れてくれたことはアリアの優しさがあってこそだ。
その条件がどんなものでも、俺が文句を言うことなど出来るはずも無い。
ならば、後はクリアして見せるだけだ。
まあ、アリアならばそんなことはしないと思ってはいるが。
俺の言葉を受け、アリアは、
「………そう、ですか。……まあ、そこまで無理難題を言う気はありませんので、ご安心を」
と、少し驚きつつそう告げた。
どうやら思っていた通りに難し過ぎる条件ではないようだ。
では、具体的にどのようなものだろうかと思い、アリアに尋ねる。
「それで、その条件は具体的にどのようなものでしょうか?」
すると、アリアは、
「貴方が本当に変わったのだと判断するために、一定の期間を設けて、何らかの形で変化を証明して頂こうと思います。……具体的には、そうですね…」
どうやら俺が思っていた通り、改心したことの証明として、期限を定めて変化を示すといったことが条件のようだ。
具体的にはまだ決めていないようで、アリアはしばし考え込むしぐさを見せる。
しばしの熟考の後に、アリアは、
「………物事の変化は目に見えないものよりも、目に見えるものの方が認識がしやすく、その変化も分かりやすいものだと思いませんか?」
と、突然そんなことを尋ねてきた。
一先ずアリアの言葉はその通りだと思うし、何も間違ったことでは無い。
しかし、なぜそんなことを今告げるのか一瞬理解出来なかった。
だが、少し考えたところでアリアが何が言いたいのかは分かった。
彼女らしい理知的、というか大分遠回りな言い回しではあるが、つまり、
「………成程、つまりそれは人の変化でも同じであり、内面よりも外見の変化の方が分かりやすい、ということでしょうか?」
と、俺の解釈を告げると、それは間違っていなかったようで、
「理解が早くて助かります。内面の変化は時間を掛ければ分かるものではありますが、今回のように短い期間を定めるのならば、外見の変化の方が条件として適しているでしょう」
と、肯定を返してくれた。
これに関してもアリアの言葉は正しいと思う。
相手の人となりはある程度時間を掛けなければ、深くまでは分からないだろう。
それに今の俺はそもそもが信用がない状態であるし、手っ取り早く変化を示すためには目に見えない内面よりも目に見える外見の方が良いだろう。
「………では、その期間と変化の内容はどのように致しましょうか?」
そしてまだ明らかになっていない期間と、変化を示す方法について尋ねる。
正直、外見の変化については分かり切ったようなものだが、期間については分からないしアリアが決める事なので、その言葉を待つ。
すると、
「一月後、またここにお伺いします。そして再び会う時までに、私が納得する程に体型を改善して頂きたいと思います。とはいえ、理不尽な判定は誓ってしないとお約束します。見て分かる程度に変わっていれば、それで十分ですので」
と、そう告げた。
ラースに対して外見の変化ということで分かってはいたが、やはり痩せるといった旨の条件だった。
そして期間については一ヶ月で、それまでにアリアが納得出来る位に痩せなければならない。
自ら語った通り、アリアなら理不尽な判定はしないだろうが、具体的な数値などで判断しない以上、認められるためには妥協せずに痩せなければならない。
とはいえ、この条件は俺にとってそこまで難しいものではない。
今までも体型改善の運動やトレーニングは毎日欠かさず行ってきた。
一ヶ月という期間があるので、これからは何も気にせず取り組むことは出来ないが、やることは今までと変わらない。
トレーニングを始めてから今まででも、ある程度は結果が出ているので、あと一ヶ月ということならば十分だろう。
「承知しました。では、アリア様にご納得して頂ける結果を示してみせます」
アリアの提示した条件を承諾し、そう告げる。
するとアリアは静かに頷いた後に、俺の方を見て怪訝そうな表情をする。
どうしたのだろうと思っていると、
「………そういえば、少し痩せられましたか?」
と、そう尋ねてきた。
それで先ほどのアリアの表情の理由も分かった。
痩せるといった旨の話をしたことで、よく見れば俺が少し痩せていると分かったのだろう。
俺自身変化を感じてはいるが、まだ三週間程なのでそこまで明らかなものではない。
とはいえ、確かに結果は表れているため、アリアも話の流れもあり気付いたのだろう。
「ええ、実は倒れて改心した日以降、トレーニングを続けていまして」
そう告げると、アリアは少し驚いた後に納得したような表情になる。
そして、
「既に体型改善に取り組んでいるとは驚きました。では、一月後の結果も期待出来そうですね」
と、告げた。
表情の変化が無いので、それがちょっとした冗談なのか、俺にプレッシャーを与えているのか、それとも何の他意も無く大真面目に言っているのかが分からない。
とはいえ、まだ冗談を言えるような仲ではないし、アリアのことだから恐らく単純に言葉通りの意味だろう。
考えて分かるものでは無いし、いずれにせよ俺がすることは変わらない。
なので、
「ご期待に応えられるよう、努力します」
と、そう言う他無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます