第34話 気の休まらない日々

 アンナとの話も一段落着き、肩の荷が下りた気分だ。

 今後の暮らしも離れで続けることが決まり、結果は俺の理想通りとなった。

 アンナも離れでの暮らしを続けたいと言ってくれたため、お互いにとって非常に良い形で落ち着いたと言って良いだろう。


 ただ、俺たちの間に流れる空気は何とも言えないものになっている。

 いや、悪いことなんて何一つ無いため、決して悪い空気ではない。

 しかし、今までの話は言わば、これからも貴方と二人きりで暮らしたい、とお互いに言ったようなものなので、なんというか非常に気恥ずかしくある。


 アンナは少し俯き、頬を朱に染めながら恥ずかしそうにしている。

 俺も似たようなものだが、どちらかというと安堵の感情が強い。

 両親との話からずっと悩んでいたことだったので、丸く収まって本当にほっとしている。


 とはいえ、いつまでもこの空気ではアンナが可哀想なので話を変えようと思う。


「先も言ったけど、父上と母上からの話はもう一つあるんだ。その話をしても良いかな?」


 二人からの話は、認められたことや今後の暮らしについてだけではない。

 アリアの話もしようと、そう尋ねると、


「あっ、はい。そういえば、お話は二つあると仰っていましたね。何でしょうか?」

 

 俺が、話は大きく分けて二つあると言ったことを思い出したのか得心がいった様子のアンナ。


「急な話ではあるんだけど、明日アリア様が屋敷に来られるようなんだ。いつも通り、離れにお通しすると思うから、アンナにはお茶の用意なんかをお願いしたくてね」


 そうアリアが明日訪れることを告げる。

 いつも通り、というのは勿論これまでもアリアが屋敷に来ることはあり、その時はラースが暮らしている離れに通していた。


「アリア様が……。かしこまりました。………あれラース様、アリア様の呼び方を変えられましたか?」


 俺の話を聞き、アンナは快く了承してくれた。 

 ただ、俺が「アリア様」と呼んだことが気になったようでそう尋ねてくる。


 アンナの疑問は当然だろう。

 ラースはアリアのことを家格が下ということもあり、当たり前のように「アリア」と呼び捨てにしていた。

 婚約者だからそこまで問題は無いとは思うが、それでも親しい間柄で無いのに、他家の令嬢を呼び捨ては中々に難しいと思うが。

 

 それに、一応俺からすれば初めて会う人だ。

 流石に馴れ馴れしく接することは出来ない。

 貴族相手ならどの爵位でも「様付け」はありふれたものだし、一律にそうすれば良いだろう。


「婚約者とはいえ、礼儀は大切だからね。これまでの俺はとても失礼だったけど、改心した今とあっては呼び捨てはどうかなと思って」


 フェルディア伯爵家の人達に関しても、転生する前まではセドリックや騎士・使用人達のことは呼び捨てにしていた。

 けれど、今は「さん付け」で呼んでいるが、改心したからと違和感は持たれていないし、今回もそのパターンだと納得してくれるだろう。


「………そういうことでしたか。確かに、まずはアリア様とも関係を修復しなければいけませんからね。勿論、今のラース様ならば大丈夫だと思っていますが」


 納得しつつ、アリアとの関係を気にするアンナ。

 両親との話の時にも思ったが、アリアとの仲は現状、とても良いとは言えない。

 アリアは普通にラースのことを嫌っているだろうし、まずはきちんと謝罪して改心したと告げなければいけない。


「そうだね。しっかりと謝罪して、これから関係を良く出来るように頑張るよ」


 そう告げると、アンナは安心したように笑みを刻んでくれた。




 アンナとの話が終わった後は出戻りになってしまうが、今後の暮らしについての報告を両親にしに行った。

 まだ、二人とも寝る前だったようで報告自体は問題なく行えた。


 今後も離れでの暮らしを続けると言うと、セレスは非常に残念そうにしていたが。

 関係も修復出来た息子と一緒に暮らしたかったのだろう。

 ライルもすぐに許可を出しつつも残念そうにしていた。


 そんな二人の様子を見ると申し訳なく思うし、俺自身二人と共に暮らせないことは残念に思っている。

 しかし、離れでの暮らしを選んだのは俺自身なのだから、俺がそう感じるのはお門違いだろう。

 

 代わりと言うのも少し違うが、これからも食事などを一緒にしても良いかと尋ねると、二人は快諾し嬉しそうにしてくれた。



 両親の話やアンナとの一件、悩まされることが多く、明日もアリアが訪れると気は休まらないが、一先ず今日を無事に終えることが出来たことに安堵し一日を終えた。

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