第28話 努力の賜物
アンナとの買い物から数日が経ったとある日。
いつものようにトレーニングを行い、その日は剣の型を確認して貰おうと、セドリックに付き合って貰っていた。
「………素振りに関しては、もう私が確認する必要も無さそうですな。完璧です」
今までは素早く振ると、些細ではあるがどうしても本来の型からズレが生じてしまっていた。
だが、今は流れるように振るっても綺麗に振ることが出来るようになっていた。
俺も正しく振れているという自信はあったが、こうしてセドリックに太鼓判を押して貰えると、やはり安心する。
「ふぅ………ありがとうございます」
流石に毎日続けていれば慣れるもので、規定の回数もある程度余裕を持って終わらせることが出来るようになった。
日々のトレーニングと合わせて、大分基礎体力も付いてきたようだ。
「ラース様の日々の努力の賜物ですな。一日中ずっと鍛錬に耽るなど、騎士でも継続して行うのは難しいでしょう」
と、セドリックがそう讃えてくれる。
確かに体型改善を第一に生活している俺は、一日の大半を運動に当てているし、身体を鍛えるということもどこか楽しくなってしまい、最早ただのダイエットとは言えなくなっているかもしれない。
とはいえ、
「ありがとうございます。ただ、元が元ですからね。俺はこれくらいやらないと、満足のいく結果は得られませんから」
そう。元が酷いだけに、これだけやってもまだまだ納得のいく結果は得られていない。
慣れからか体力は大分付いた自信はあるが、体型の方は、確実に痩せてきてはいるが流石にすぐに形に現れることはない。
元から見たら体重も落ちているだろうし、見た目としても痩せているとは思うが、それでもまだ太っている部類だ。
とはいえ、
(まあ、まだ一月も経ってないからな。焦る必要はない。続けていれば結果は出てくるんだ)
まだそれほど経っている訳ではないし、早く痩せたいとはいえ結果を急ぐ必要もない。
このまま継続させることに注力しよう。
と、そんなことを考えていると、
「………………その、お疲れ様です。ラース様」
と、ふいに声を掛けられた。
声の方向を見れば、コーディーやレクター、またその他にも数人の騎士がいる。
俺が鍛錬をしているのは騎士達の訓練場であるため、騎士達が居るのは当然と言えば当然だ。
今も訓練をしていて丁度終了した所なのだろう。
ただ、まさか声を掛けられるとは思っていなかったのでかなり驚いてしまう。
とはいえ、俺に話し掛けてきた事は明白だし、いつまでも黙っている訳にもいかないので、
「………ええ、皆さんもお疲れ様です」
そう告げると、
「お、お疲れ様です」
「お疲れ様です」
その場にいる騎士達が次々に挨拶をしてくれる。
騎士達は用件はそれだけだったのか、軽く会釈をして立ち去っていく。
一体今のは何だったのだろうかと思っていると、
「………これも、ラース様の努力の賜物ですな。日々懸命に鍛錬に励む姿を見て、あの日の言葉が本物だったと、皆思い始めたのでしょう」
と、笑みを浮かべつつ告げるセドリック。
その言葉で先程の騎士達の行動の意味も、ようやく理解出来た。
あの日の言葉、というのは俺が使用人や騎士達に向かって謝罪し、改心したと告げた事だろう。
そして、確かに俺は家の敷地内や訓練場で毎日トレーニングをしていたので、騎士達がそれを普段から見ていてもおかしくはない。
その様子を見て俺が改心したということを信じ、俺のことを受け入れ始めてくれたのかもしれない、ということだ。
何より、たった一言ではあるが向こうから声を掛けられたというだけでも今までとは大きく違う。
まだぎこちないし、とても気軽に話せるような仲ではないが、初めの頃と比べたら見違えるように関係は良くなっている。
そんな確かな成果を感じ、俺は、
「………有難いことです、本当に」
そう告げる他なかった。
騎士達との関係の変化を嬉しく感じていたが、いつまでも感慨に耽っている訳にもいかない。
「本日も指導して頂き、ありがとうございました」
と、今日も素振りに付き合ってくれた事に対してセドリックにお礼をすると、
「指導と呼べる程のことはしておりませんが。……あとは、本日は私からラース様へお話もありましたので」
そう告げるセドリック。
「お話ですか。何でしょうか?」
セドリックの方からも話があったとは予想外だったので少し驚いた。
何だろうと思って尋ねると、
「正確にはライル様とセレス様から、ですな。私はその伝言役です」
どうやらセドリック自身は伝言を頼まれただけで、用があるのはライルとセレスの二人らしい。
「父上と母上からですか。どのような用件なんでしょうか?」
「詳しくはお二人が直接お話しするとのことですが、そのことを踏まえ本日の夕食をご一緒にどうか、とのことです」
どうやら詳細に関しては二人から直接伝えられ、そのために夕食を一緒にということらしい。
ということは、恐らく夜は三人で夕食を食べることになるのだろう。
それ自体は構わないし、二人とはトレーニングの時などにたまに顔を合わす程度で、転生初日以降しっかりと話す機会は無かったので良い事だと思う。
ただ本館で二人と共に夕食ということは、アンナとは一緒に食べられないということになってしまう。
いや、別に一回くらい別々で食べても問題ないし、常に一緒に居たいなどとは思っていない。
しかし、アンナとの食事の時間は俺にとって一日の楽しみでもあったので少し残念にも感じてしまう。
とはいえ、先程も思ったように二人と食事というのも魅力的な誘いではあるし、そもそも断れるはずも無い。
なので、
「承知しました。では、夜に本館に伺いますね」
そう了承し、そこでトレーニングは終了した。
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