第26話 選んだ道
時刻は夜。
買い物から帰ってきて、現在はアンナと共に夕食を食べている。
いつも通りアンナの作る食事はとても美味しい。
だが、そのアンナの様子は少しおかしい。
あの雑貨屋から何か考え込んでいるような様子だとは思っていたが、一体どうしたのだろうと思っていると、
「あの、ラース様。少し宜しいでしょうか?」
と、アンナが話しかけてきた。
「ああ。どうしたの?」
すかさず返答すると、
「……今日訪れた雑貨屋でのお二人との会話。なぜ住民の方々の話が本当だと仰ったんですか?」
その言葉を聞き、アンナが今まで何を考えていたのかは理解出来た。
あの時、俺が態々噂を肯定したことが気になったのだろう。
だが、それは、
「それは勿論、住民の人達の話は何も間違っていないからだよ。事実俺は前までとても褒められた人間では無かったし」
理由としては、これに尽きる。
住民の人々の話は全て真実だからだ。
「ですが、それでも今は……改心、なされていますし、態々自らの印象を悪くすることは無かったのでは?」
尚もアンナはそう言ってくる。
アンナの言うことは分かる。
そもそもがラースが悪いのであって、俺が何かした訳でもない。
俺からしても自分が悪くないにも関わらず、印象を下げたいとも思わない。
まあそれを言うことは出来ないし、そんなことは今更なので思っても仕方のないことだが。
と、それはともかく、
「そうだね、俺自身別に印象を悪くしたい訳ではないよ。今の俺のことを好意的に思ってくれたことは素直に嬉しいからね」
「ならっ………」
「………誠実に生きる。改心した時に、俺はそう決めた。過去の俺を隠して、二人の評価を素直に受け取ることは"誠実"とは言えないと思ったんだ。過去の俺を知っていても、それでも受け入れて貰えることが成長した証だと思う。……そのぐらいじゃないと、今までの俺の行いを償うことは出来ないし、これから胸を張って生きていけないと思うんだ」
今の俺は改心して、それを認めて貰うために誠実に生きている。
それを実現させるためには、過去の悪行を知られても尚、受け入れて貰える位でないと駄目ではないかと考える。
そこまでする必要があるのかと問われれば、確かに絶対とは言えない。
例えば極端な話だが、今後出会う全ての人にそうするか、と言えばそれは絶対に無い。
また、ラースが全く関係の無かった人にまで負い目を感じる必要も無いと思う。
ただ、それでも俺はあの時、あの場ではそうするべきだと思った。
人の良いあの二人に、嘘を吐くような真似はしたくはなかった。
「………そこまで、するんですか?」
俺の言葉が理解出来るものではあるけれど、納得しきれないといった様子でそう尋ねてくる。
「するべきだと、俺は思ったんだ」
俺の意志を伝えるために、強く告げる。
すると、
「………………貴方は、辛くないんですか?」
アンナの言葉を受け、考える。
辛いか辛くないかで言えば、辛いだろう。
俺は聖人でも無ければ、他人からの悪意を気にしないでいられる程鈍感な訳でもない。
他人がしたことの償いを俺がさせられているのだから尚更だ。
けれど、
「………大丈夫だよ。俺が決めたことだから」
こんな悪童に転生して、選択肢なんてあってないようなものだったけれど、それでもこの生き方を選んだのは紛れもなく俺自身なんだ。
ならばもう、乗り越える以外に道なんて無い。
すると、それで俺の覚悟が伝わったのか、
「…………はい。ラース様のお考えは理解出来ました。そこまでお考えだったならば、私の言葉など不要なものでしたね。申し訳ありませんでした」
軽く笑みを浮かべつつ、そう頭を下げるアンナ。
納得してくれたことは嬉しいが、何も謝られるようなことではないため、逆に焦ってしまう。
「いや、アンナが謝る必要なんてどこにも無いよ。俺を気遣ってくれたことは凄く嬉しい。寧ろ心配を掛けてしまって、こちらこそごめん」
そもそもアンナは俺のことを気遣って、ああ言ってくれていたのだろう。
過ぎるくらいに優しいアンナらしいと思うし、それ自体は非常に嬉しいものだ。
「では、お互い様ということにしましょうか」
いつもなら自分が悪いと主張しそうなアンナだが、俺が焦っていることが分かったのか、そんな配慮をしてくれる。
お互い様ということにして、空気を回復させようとしてくれているのだろう。
「ああ、そうだね」
俺もそれに乗り、おかげで一時は暗くなっていた空気も大分良くなったと感じた。
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