太陽の花園
Tsuyoshi
第1話ラガーマン五十嵐太陽、誕生!
桜が舞い散る春の陽光に照らされ、威風堂々とそびえ立つ桜(おう)華(か)学園高等学校。校舎からグラウンドに続く通り沿いには桜並木道が淡いピンク色に染まっていた。
『今年も春が来た・・・・・・』
校長室に続く廊下の脇には数多のトロフィーや優勝旗がずらりと陳列棚に鎮座している。
『我が桜華学園、伝統のラグビー部にとって、春は単なる序章に過ぎん』
陳列棚の傍には『常勝 桜華学園ラグビー部』と刺繍された部旗が飾られているが、だいぶ色がくすんでしまっていた。
『しかし、ここ十年近く高校ラグビー最高峰の花園(はなぞの)出場を逃しとるわけじゃ・・・・・・常に勝利を収めるじゃと? 常勝なぞ、もはや過去の栄光ぞ』
校長室の立派な両袖デスクを背にして、還暦を過ぎたであろう男性が窓の方を向いていた。
「この桜葉紋次郎・・・・・・教職人生も今年が最後なのだ」
広々としたグラウンドは第一から第三と三つに分けられ、その中央にある第二グラウンド、ラグビー場を桜葉は窓から見下ろしながら眺めていた。
「おお、やっとる、やっとる。我が校の猛者共(もさども)が。なんとしても、今年こそは悲願の花園へ行ってもらわなければ・・・・・・」
彼の眺める先ではラグビー部が練習に励んでいた。緑草が広がる芝のフィールド、ゴールラインの中央にはゴールポスト二本がそびえ立ちクロスバーと三位一体となってH型を作っていた。部員の一人がゴールポストの中央を目掛けてボールを大きく蹴り上げる。が、
「し、しまった!」
ボールはゴールポストの枠を大きく外し、高々と空に弧を描いて柵を越えてしまう。得点するには、二本のゴールポスト枠とクロスバーを越えた凹の枠にボールを入れなければならないのだ。
「ま、これからじゃ。これから・・・・・・」
桜葉は振り返り、ゴホンと咳払った。
校舎とグラウンドを挟む通りに、ジャージを着た黒髪セミロングの女子生徒が、スポーツ飲料がいっぱいに入ったカゴを両手で抱えて歩いていた。彼女は奥山華凛、学園一年の十五歳だ。
そんな彼女の後を付きまとう金髪の男子生徒が一人。
「おい待てって! 最後まで話、聞いてくれよぉ・・・・・・」
華凛はすました顔で声を無視して歩く。声の主は五十嵐太陽。華凜と同じ学園一年だ。彼は食い下がる様子でしつこく声を掛けていた。
「な~、華凛ちゃん・・・・・・」
「だぁかぁら、私、そんなチャラチャラしたのはタイプじゃないの」
華凜は背後の太陽に振り返りもせずに言い放つ。太陽は自身の髪や制服、背負ったギターケースを触り、
「ぐっ、これのどこがチャラいんだよ」
やや大げさに身振り手振りしていた。そんな彼に華凛は冷徹な早口で、太陽の容姿を的確に指摘する。
「そのライオンみたいな爆発金髪と点線みたいな眉毛に・・・・・・『ズンダレ』まともに制服も着られないヤンキーかぶれの―――」
「うぬぅ・・・・・・ズンダレ? コレか?」
太陽はだらしなく着ているダボダボの制服を摘まむ。
「そのナンセンスなファッション感覚に付け加えて強くもないのに粋がってるとこが、チャライのよ」
「せっかく高校でイメチェンしたのに・・・・・・じゃあ、コレ直したら俺と付き合って―――」
太陽の突発的な告白を受け、華凛は立ち止まって振り返る。
「そういう問題じゃないわ。第一、そんな能天気な答えしか出ない性格も嫌い」
彼を見る彼女の目は鋭く、嫌悪に満ちていた。
「うぐっ……」
何も言い返せない太陽に、華凛は踵を返して再び歩き始める。
「じゃ、私、部活があるから。太陽も他に何か打ち込めるもの見つけたら」
太陽は遠ざかって行く華凛の背をを目で追いながら、
「お、俺が今一番打ち込めるのはっ!」
遠ざかる彼女に向かって叫ぶが、華凛は両耳にパタッと蓋をしたかのように、何も聞こえない振りをした。それに太陽はカーッと頭に血が上る。
「なーっ! あー、くそ、なんだよ・・・・・・アレのどこがカッコイイってんだよ」
グラウンドでタックル練習をするラグビー部を見て、太陽は吐き捨てるように背を向けた。
「ま、太陽にラグビーの良さなんか頭カチ割られたって分からないわよ」
鼻で笑う華凜の背後で、飛んできたラグビーボールが太陽の側頭部に直撃する。
「ごはッ!」
太陽はその衝撃で飛ばされ、校舎の植木に頭から突っ込んだ。
「あ、マネージャー。この辺にラグビーボール飛んできませんでした?」
ラグビー部員が華凛のもとに駆け寄ってきた。先程飛ばしたボールを探しに来たようだ。
「ううん。飛んできてないよ」
華凜はボールなど知らないといった素振りで首を振った。
「あっれ~、おかしいな。確かこの辺りだったと思うんスけど・・・・・・」
彼は頭を掻きながら、キョロキョロと辺りを見回してボールを探す。
一方、太陽はぶつけた頭を押さえていた。
「ああ、分かんねぇなぁ・・・・・・」
桜の木陰からする太陽の声に、華凜と部員が気付いて植木越しに覗き込む。
「「ん?」」
「誰じゃあ! こんなオムライスボールで遊んでるやつぁ~~~~~~~~!!」
そこには頭に絆創膏を貼った太陽がラグビーボールを持って怒りをあらわにしていた。ラグビー部員を見るや否や、彼は両目から炎を発するがごとく部員にボールを投げつけた。
「ごはっ!」
「あっ・・・・・・!!」
ボールは見事、部員の顔面に直撃した。のけぞりながら痛そうに顔を押さえる部員を見た華凜は、キッと太陽を睨みつける。
「なははははは・・・・・・どうだ思い知ったか!」
憂さが晴らせて高笑いする太陽。そんな彼の顔面に、ふいにドリンクボトルが飛んで来て、
「どはッ‼」
顎にクリーンヒットする。太陽は吹っ飛び、頭上に星が回っていた。
華凛はカゴを地面にドスンと置いて、目を回している太陽に向かって歩いていく。
「頭だけじゃ足りなかったかしら? 何がオムライスボールよ。ラグビーの事、なんにも知らないくせに。部員まで八つ当たりするなんて、最低!」
太陽に対して怒りを露わにする華凜。
「つぅ・・・・・・てて。ん?」
華凛は顎を押さえて起き上がる太陽の前に立ちはだかり、太陽も自身に覆いかぶさる華凜の圧を感じる影に気付いて彼女を見上げた。
「五十嵐太陽! 今度ラグビーを侮辱したら、本当に嫌いになるからね!」
「・・・・・・・・・・・・!!」
華凜の言葉に衝撃と稲妻が走る太陽。去って行く華凛の後ろで太陽はガックリ膝を付いて放心状態になっていた。
第二グラウンドでは、ラグビー部の激しい練習が行われていた。鬼気迫る掛け声を上げながら、激しいスクラムをする部員達。スクラムを組むフォワードの後ろに控えるバックス陣。スクラムからバックス側に掻き出されたボールを鮮やかなパスワークで回している。
場外に出たボールをラインアウトからスローワーが放つ。それをリフター二人に支えられたジャンパーが高々と飛び上がり、ボールをキャッチする。
「ナイスキャッチ!」
ジャンパーの動きに合わせて、華凛が活き活きとガッツポーズをしながら部員達に明るく声掛けをしていた。
(たく、あんなガツガツしたスポーツのどこがカッコイイんだよ・・・・・・)
グラウンドから少し離れた草むらからひょっこり顔を出す太陽。筋肉の鎧を纏っているような強靭な肉体のラグビー部員達を見て、身震いしながら草むらから出る。
(ぐ・・・・・・あんな人間離れた怪物達とグラウンドでデスマッチなんて御免だぜ)
すると太陽はエレキギターをケースから出し、一端のギタリストのように構えて格好つけた。
「やっぱ、男はロックだ。魂こもった曲作りゃあ、華凛ちゃんだって、きっと!」
しかし、ここで太陽はハッと首を傾げて気付く。
「・・・・・・いや、待てよ。それじゃ俺の自己満だけか? んー」
太陽は俯(うつむ)き考えながら、グラウンドの端を行き来する。その時、前を見ていなかった為に壁のようなにものにぶつかり、そのはずみで尻もちをついた。
「いで・・・・・・!!」
太陽は見上げて思わずギョッとなる。壁と思っていたのはラグビー部キャプテン、三年生の奥山優大の巨大な背中だった。
「おお、大丈夫かの?」
熊のような巨躯がゆっくりと振り返り、太陽に手を差し出す。彼の顔は身体に見合って熊のように厳ついが、表情は柔らかかった。太陽は差し出された手を掴んだ。
「お、おう。て、手ゴツいな・・・・・・」
「んん? キミ、もしかしてラグビー部の見学に? 一年生じゃの?」
優大がハッとした表情を浮かべて、太陽の肩に大きな手を乗せる。
「へ?」
「ワシはラグビー部キャプテンの奥山優大じゃ。見学なら結構結構! ささ、こっちじゃ」
優大はそのまま強引に太陽を引っ張っていこうとするが、太陽は慌てふためきながら、
「ち、違うっす。俺は・・・・・・」
「最初は誰だって恥ずかしいもんじゃ。大切なのはとにかく勇気を出して飛び込んでみること」
「はぁ? だー、かー、らー、俺はっ」
太陽は優大の手から逃れようと藻掻くが為す術もなくそのまま引き摺られて行った。
快晴の空の下、華凜の驚く声が響く。
「えぇっ! 見学!?」
優大は笑いながら、猫の首を掴むように太陽の首根っこを摘まんで華凜の前に突き出した。
「コート近くでためらってたから連れて来たんじゃ。見学の間頼むぞ、華凛」
(か、華凛!?)
「えー、でもこいつ・・・・・・」
華凜は唇を尖らせて、あからさまに嫌そうな表情を見せる。
(呼び捨てだとぉ! このマウントベアーめ、華凛ちゃんとどーゆー関係だ⁉)
華凜と優大が何やら話しているが、太陽はそれどころではなかった。二人の距離感が気になって、彼女達の話が耳に入ってこない。
「え? 前からの知り合い? なんだよ、それならワシにも紹介してくれや。水臭いのぉ」
「ん~、ごめんね。優ちゃん」
(カーーーーーー!!)
都合の悪い言葉は聞こえてくるもので、優大を親し気に呼ぶ華凜の言葉に、太陽の脳天に雷が落ちる程の衝撃を受けた。『優ちゃん』の文字が何度も繰り返し反芻され、太陽は力なくその場に倒れ込む。
「ん? どうした、一年坊」
「つ、つまりこうゆうことか・・・・・・」
太陽はヨロヨロと起き上がり、隣り合う優大と華凛をじっと見つめる。
(この熊大将をブチのめさない限りは、華凛ちゃんが俺に振り向いてくれることはねえってわけだ・・・・・・)
優大と華凛はブツブツと独り言を呟く太陽を見て、頭上にハテナマークが浮かぶ。
「ならば!」
太陽はふいに優大の隣に立って、何を思ったか背比べを始める。しかし、明らかに二十センチ近く差がある事にショックを受ける。しかしまだ太陽は諦めない。続いて優大の横腹を掴もうとするが、筋肉に覆われている腹は掴めずに焦る太陽。
(な、なんだ、この腹!? 硬くて掴めねぇ・・・・・・!!)
優大は太陽の妙な行動に焦って、彼を見下ろしながら目で追う。
「ど、どうしたんじゃ急に!」
太陽は優大の顔を見上げて息を呑む。そしてそのまま、ゆっくり五、六歩下がって行く。
(恐れるなぁ・・・・・・太陽! 春は目の前だ)
優大は太陽の奇妙な行動に首を傾げて後ろの華凛を見る。
「なんじゃ、変な奴じゃのお」
「そ、変な奴なの! だから早く・・・・・・あっ、優ちゃん!」
優大の背後に突進して来る太陽が目に映り、華凜はハッとして優大に声を掛けた。
「ん?」
「どらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
鬼気迫るような気迫と勢いで、優大目掛けて猛突進して来る太陽だったが、
(・・・・・・・・・・・・‼)
目前に突き出た優大の巨大な手の平に気付きハッとする。
「あっ・・・・・・!!」
太陽の爆発金髪頭をボムッと押さえる優大の手に、それを唖然と見つめる華凜。太陽は優大に頭を押さえられながらも諦めずに走り続けるも、全く動けずにその場で土埃を上げるだけだった。
「ふぬぬぬぬぅぅぅ~~~~~~~~」
「がはははは。不意打ちは卑怯者がするもんじゃぞ、一年坊。男なら正々堂々と真正面から向かってこんかい」
華凜は豪快に笑う優大と太陽を見比べる。
(これじゃあ、大人と子供のじゃれ合いじゃない・・・・・・)
優大に押さえられて動けずにいる太陽を見つめ溜め息を吐く。
(たく・・・・・・身の程を知れっつうの。チームの花形、ナンバー8(エイト)を背負う優ちゃんに勝てるわけ、ないじゃない)
「ぐっそぉ・・・・・・」
敵わないと気付いていながらも、太陽は歯を食い縛りながら優大を押し続けていた。
夕日に染まる住宅街をトボトボと小さく丸まって歩く太陽の背中があった。
「くそぉ・・・・・・何が優ちゃんだ。あんなのに俺が負けるはずが・・・・・・」
唇を尖らせる太陽の目の前にヒラヒラと落ちてくる桜の花びら。
「ん?」
花びらに気付き、ふと見上げると満開に咲いた桜が見える。太陽は静かに桜を眺める。
(思えば、俺の桜はずっと枯れたまま咲きゃあしねえ・・・・・・幼稚園の頃からずっとだ―――)
太陽の目に、じんわりと涙が滲んだ。
『太陽は幼少期の時期を思い返す。まだ幼く可憐な女の子だった華凛がクラスの園児達の前に立って転入の挨拶をしていた。
「はじめまして。おくやまかりんです。みんな、よろしくおねがいします」
そんな華凛に、太陽はうっとりと見惚れていた。
(その頃の転校生ってのはなんか新鮮な感じで、その時初めて夢中になれたのが、奥山華凛)
小学生に上がった太陽と隣同士の席に座る華凛。彼女の隣で太陽はガチガチに緊張している。
(でも近くにいればいるほど緊張して喋れなくて・・・・・・あー格好悪い、俺)
中学生になり、体育祭のリレー種目。太陽がバトンゾーンで前走者を待ち構えていた。待っている間に太陽の横を一人、二人、三人とどんどん走者が駆け抜けていく。 それに遅れて華凛がバトンを持って、最下位で走って来た。その瞳には涙を浮かべて・・・・・・。
太陽は「大丈夫、俺に任せろ」と華凛からバトンを受け取ると一気に猛ダッシュした。一人、二人と抜いていく。華凛や観客から湧き上がる歓声。皆、興奮して叫んでいる。
ついに太陽が三人目を抜いて、一着でテープを切ってゴールした。
(これがきっかけで少しずつ喋れるようになったんだっけ。最初は何でも笑顔で応えてくれて。でもあの日から・・・・・・)
華凛が体育館裏で独りポツンと立っている。太陽に呼び出され、彼を待っているようだ。彼女も彼の気持ちを察してか、少し落ち着かない様子で地面を見つめていた。
彼女を呼び出した当の太陽は、体育館裏の物陰から華凛をソワソワしながら見つめていた。緊張もピークに達し、足がガクガクと震えていた。』
彼女への告白の時の思い出と共に、太陽の頬を涙がツーっと流れた。
「俺が華凛ちゃんを呼び出しておきながら、告白する勇気なくて逃げ出してしまったばかりに・・・・・・今やこの有様だ」
自分を踏み倒してツンと冷めた顔の華凛を想像した太陽は、顔を振って涙と共に雑念を払う。
「うう・・・・・・やっぱ、男は勇気と決断力。そして、タイミングだな」
そう呟いているところに複数の下卑た笑い声が聞こえてきた。
「ワハハハ・・・・・・間抜け過ぎる、こいつ」
「ん?」
太陽が声の方へ注目すると、公園が目に入る。
夕暮れの公園では不良が三人、しゃがみ込んで何かを取り囲むようにしていた。
「おい、動くな」
「お座り。待て」
「ハハハ・・・・・・」
太陽が不良達の背後に近づいて行くと、彼らは子犬を囲んで悪戯をしていた。
「そこもっと上だって」
「待て、焦んなって」
「あはははは・・・・・・オカメ犬誕生だぜ」
自分より大きな生物に囲まれて、子犬は怯えて尻尾を丸め震えていた。しかし、不良達はそんな子犬にお構いなしと言わんばかりに、容赦なく顔にマジックでオカメの様に落書きしている。
「次は鼻ヒゲだ!」
マジックを持つ不良の背後に立ち止まる太陽。彼の爆発頭の影に不良が気付く。
「ん?」
彼が気付いた瞬間、振りかぶる太陽の足が不良の尻を蹴り飛ばした。
「・・・・・・!? 何すんだ、テメェ!」
仲間が不意打ちを喰らい前のめりになったのを見て、太陽にいきり立ち睨みつける二人。しかし、太陽は怯まず、頑として不良達の前に立ちはだかった。
「ヤメロ。弱いモン虐めて楽しむな!」
しゃがんでいた不良の一人が立ち上がり、
「はぁ? うるせ、ゴラァ!」
と、太陽の頬を殴る。だが、太陽は踏ん張って体勢を崩さず、殴ってきた不良の肩を掴んで彼の鼻に頭突きで反撃した。
「んなヘナチョコパンチ、痛くもねえんだよ!」
頭突きを貰った不良は鼻血を噴き出して後ろに飛ばされる。
「オラァ!」
そこに先程太陽に尻を蹴られた不良がとび蹴りで太陽に不意打ちをやり返す。蹴りは太陽の背中に直撃した。
「どはっ」
これには太陽も踏ん張れず地面に倒れ伏せてしまった。これが好機と不良達は倒れた太陽を取り囲んで四方八方から蹴りを入れ続ける。
「オメェなんか、ヤンキーの端くれにもねぇくせに! ナメんな、この金髪ボンバーが!」
太陽はうずくまりながら、彼らからの執拗な攻撃を耐えていた。
その頃、公園の前を優大が小動物用のケージを大事そうに抱えて通りかかっていた。ケージの中にはつぶらな瞳をした愛らしいゴールデンハムスターがじっと丸まっている。
「おお~、大丈夫でちたかぁ、サクラちゃん。んー、さっきはお腹がグルグルしてきつかったでちゅねぇー。でも、病院でお薬貰ったからもう大丈夫・・・・・・」
ハムスターのサクラを愛おしそうに見つめ、その顔に似合わない赤ちゃん言葉で話し掛ける優大。そんな彼の耳に子犬が激しくキャンキャンと吠える声が聞こえてきた。
「んん? なんじゃ?」
鳴き声は公園の方からしている事に気付き、優大は公園に立ち寄る。すると、そこには不良達に袋叩きに蹴られている太陽がいた。
「あ、あいつは! サクラちゃん、ちょっとここで大人しくしてて。お兄ちゃん、すーぐ戻って来るから」
驚いた優大はサクラに優しく話し掛けた後、公園の入り口にあるベンチにケージを置いた。
そして突如走り出し、不良達に向かって突進していく。先程の温和な表情とは打って変わり、恐ろしい熊のような顔で不良達に怒声を放った。
「おい、お前らぁ! そこで何しとんじゃあーい!!」
不良達は向かって来る優大に気付いて焦る表情を浮かべた。
「げっ、桜華の巨人!」
「に、逃げろ! あいつはヤベー」
彼らは慌てふためいて一目散に逃げていく。優大は荒い息を吐きながら、不良達が去っていったのを見送った。
「大丈夫か?」
優大はボロボロになった太陽を心配するようにそっと抱き起こした。そんな太陽はゴホゴホと咳をしながら、苦笑いを浮かべる。
「さすが・・・・・・あいつら、あんた見ただけで逃げて行きやがった。華凛ちゃんが好きになるわけだぜ」
「ん?」
太陽の言葉に優大は、はて、と首を傾げた。
それからしばらくして、ようやく起き上がれるようになった太陽は、ベンチの傍にある手洗い場で子犬の落書きされた顔を洗っていた。子犬も嬉しそうに尻尾を振っている。
「がははははははは・・・・・・。ワシが華凛と付き合っとるじゃと?」
「まさか、イトコだったなんて・・・・・・」
ベンチにどっかりと座る優大が腹を抱えて笑う。太陽は自分の勘違いに顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに呟く。
「それより、お前、優しいんじゃのおー」
「いや・・・・・・俺はこんなのが許せないだけで」
優大が大人しく洗われている子犬を優しく見つめる。太陽は照れくさいのを隠すように唇を尖らせる。
「でも暴力で解決しようとするのはいかんなぁ」
(アンタのも脅しだろ)
チラッと横目で優大の巨躯を見上げる。にこやかな優大の笑顔が温かく見えた。
「う・・・・・・でも、誰かが守ってあげなきゃ、こいつみたいに弱い奴が救われないだろ? これが、俺なりの正義」
「正義、か・・・・・・」
「な、なんだよ。今時クセえってのか?」
「いや、そういうの、ワシも好きじゃ。のぉー、サクラちゃん」
優大は微笑みながらケージのサクラを眺める。サクラは優大に応えるようにコクコク頷く。
(なんか、スゲー違和感・・・・・・)
太陽は優大とサクラを交互に見て汗を垂らす。
「十五人が相手を尊重し合い、協力して自分を上回る相手を打ち破る」
「ん? って、ラグビーのことかよ・・・・・・」
優大は急に真顔になり、真っすぐに遠く広い空を見つめる。
「そうじゃ。個々は弱くともお互いを助け合う正義が無限の力を発揮させる、とな」
「ふーん・・・・・・でも、なんか、カッコイイな、それ。ラグビーって、そんなもんなのか?」
「それは実際にラグビーに触れなきゃ分からんもんじゃ。どうじゃ、お前もグレイトな男になってみんか?」
ラグビーに興味を示した太陽に、優大は親指を立ててニカッと白く輝く歯を見せた。
翌日、桜華学園一年五組の教室では、女子生徒達が机を囲んで雑談している。教卓前の席に座る華凛はラグビー雑誌を開いて熱心に読んでいた。そんな彼女の背後から女子生徒が二人、雑誌を覗き込んできた。
「華凛は本当にラグビー好きだよね。いつも研究熱心だもん」
「まーね。だって男達があんなに体張ってゴールを、目標に向かって突き進んでいくのよ? 最高にカッコイイじゃない」
クラスメイトの言葉に、華凜は瞳を輝かせながらラグビーの魅力を語る。そんな華凜に、クラスメイトの一人が微笑みながら話を切り出す。
「うん。あ、そういえば―」
「―――ええっ!?」
桜華学園の校舎に華凜の驚愕した声が響いた。
「アイツがラグビー部に!?」
華凜は驚いた顔でクラスメイトの二人に聞き返す。二人は頷きながら華凜に答えた。
「本当らしいよ」
「うん、さっき廊下でキャプテンに入部届け出してるとこ見たって」
「冗談じゃないわよ。誰があんな奴・・・・・・」
「あ、華凛!」
華凜はムッとした表情で勢いよく立ち上がり、呼び止めようとするクラスメイトを尻目に走って教室から出て行った。
その頃、一年七組では太陽が教室中央の窓側の席で、片肘をついて外をぼうっと眺めていた。
それから太陽は机に寝そべり、頭を抱える。
「とは言われたものの、はっきし言ってやってく自信ねえ・・・・・・」
そこに勢いよく教室のドアが開いて、華凛が太陽を大声で呼ぶ。
「五十嵐太陽!」
太陽はビクッと跳ね起き、他の生徒達も驚いて彼女に注目する。華凛はキッと太陽を睨みつけていた。太陽はそんな華凛と目が合い、ビクビクしながら彼女に声を掛ける。
「よ、よう・・・・・・」
華凛はそれを無視して、ズカズカと教室に入って来た。思わず彼女に道を開ける生徒達。
「どういう心境の変化かしら?」
太陽の前に威圧感を剥き出しで立つ華凜は、バンッと太陽の机に両手を叩きつけた。
「ぜーったいに、認めないからね!」
「な、なんだよ、俺がどの部活に入ろうが勝手だろ・・・・・・」
太陽は華凜から視線を逸らし、再び片肘をつく。
「伝統ある桜華学園ラグビー部に、アンタみたいな根性無し・・・・・・これーっぽっちも必要ないんだから」
「なんだと! 実力も見ねーで決め付けんなよ」
華凜の言葉にカチンときた太陽は、立ち上がって彼女を睨みつけた。そんな太陽を華凜は更に煽る。
「実力? ふ~ん・・・・・・じゃあー、見せてもらおうじゃない」
「おお、どんとこいっつーの」
太陽と華凜は共に激しい火花を散らして睨み合っていた。
それから放課後のグラウンドでは太陽の挑戦が始まろうとしていた。華凜が堂々と腕を組んで太陽と対峙している。太陽と華凛の周りには、二人の対決を見ようと野次馬が群がっていた。
華凛はラグビーボールを正面に放り投げ、それをキャッチする太陽。
「いーい。そのボール持って五十m先のゴールラインにトライできたら太陽の勝ちよ。この最強のフォワード陣、桜華三連山を抜いてね」
「桜華三連山?」
華凛の背後から『桜華三連山』と呼ばれた、朝倉、青島、龍崎の三人が現れる。彼らは背丈が低いが横に太い体付きをしており、まるで重戦車のようだ。
(なんだ、こいつ等は! 背は小させぇが横にデケー!! 肉だるま見てぇだ)
太陽は三人の重戦車の迫力に怯み、ゴクリと息を呑んだ。
「あんなのとまともに激突したらそれこそ病院通り越して墓場行きだぜ・・・・・・」
良からぬ想像をしてしまい、太陽の足が竦む。華凛は太陽が動けないのを見て、
「あら、どうしたのかしら? 怖気付いて足が竦んでるじゃない」
鼻で笑って挑発する。
(どうせ立ち向かう勇気すらないんだから)
「う、うるせー」
そこに優大が野次馬の中から、ひょっこりと顔を出して現れる。
「おお、やっとるのぉ~。太陽クン、この間ワシにやったみたいにドーンとじゃ、ドーンと行くんじゃ!」
未だ震えの止まらない太陽は、優大の声援を受けて声のする方を見る。すると野次馬の中で拳を揚げている優大を見つけた。
(ドーンとって・・・・・・くそぉ、でもここでやらなきゃまたあの時と同じだ・・・・・・)
体育館裏でぽつんと独り、俯いて待ち惚ける華凜の姿が太陽の脳裏によぎる。
(今度こそ、ここでチャンスを掴むんだ! じゃなきゃ、あれから前に進めねぇ!)
太陽はグッとボールを力強く握り締めると地面を強く蹴り上げた―――。
そして真っすぐに桜華三連山に立ち向かって行く太陽。
「えっ、嘘・・・・・・本気?」
優大と野次馬が一気に注目する。華凛も太陽の行動に驚き、胸にあてた手を握り締める。
「おおおおおおおおおお!!」
朝倉と青島の二人が、激走する太陽を止めようと、彼に向かって横並びで突進して来た。
そんな間近に迫る朝倉と青島に、カッと目を見開く太陽。
(・・・・・・見えた!)
「……!!」
「なっ……!!」
太陽は朝倉と青島の隙間を縫うように、稲妻のようなステップで鮮やかに抜き去った。これには思わず驚き、振り返る朝倉と青島。そして華凜と優大もまた驚愕の表情を浮かべていた。
「どうだ、俺はどんな狭い隙間でも僅かにありゃあ見逃さねぇのさ!」
太陽は得意気にニヤリと笑みをこぼし、そのまま右へステップを踏む。
「横がガラ空きだぜっ! 足には自信があるんだ。お前らのその体型じゃ俺には追いつかねえ。この勝負、貰ったぁ!」
「甘いぜ!」
「何ぃ!?」
勝利を確信していた太陽目掛けて、竜崎がまるで砲弾のように飛び掛かってきた。
「いいっ!!」
「その脚力は認めよう! だが、桜花三連山は三人で一つ! 二人に気を取られていたお前にオレは死角と見た!」
「うおっ!」
太陽は竜崎に両足の太腿をガッシリと掴まれてしまい、彼のタックルで豪快に倒される。
太陽の快進撃を一瞬で覆した竜崎に野次馬達も息を呑む。
「さ、さすが桜華学園ラグビー部。伝統ある強豪校だけに、もの凄いタックルだ」
重量級のタックルをまともに喰らってしまった太陽は、グラウンドで大の字になって気絶してしまっていた。
「・・・・・・・・・・・・」
そんな太陽を見下ろして、華凜は物悲しそうに見つめていた。
夕方、太陽は公園のブランコに乗って、キィ・・・・・・キィ・・・・・・と静かに揺れていた。先日、彼に助けられた子犬が、太陽の靴をクンクンと嗅いでいる。
「もう諦めよっかな・・・・・・華凛ちゃんの事」
子犬が寂しそうに呟く太陽を見上げた。太陽は子犬の頭を優しく撫でた。
「そいや、お前、まだ名前決めてなかったな。んー、そうだな・・・・・・ナツとかどうだ? ここなつき公園だから」
「全く、センスないわねぇ」
「・・・・・・!!」
突然の声にハッとして見上げると、そこには華凛の姿があった。太陽はバツが悪そうに彼女から視線逸らす。
「な、なんだよ・・・・・・またいちゃもんつけかよ」
「そのワンちゃん、太陽が助けたんだってね。優ちゃんから聞いたよ」
華凛は子犬に近づき、しゃがんで頭を撫でる。
「だから何だよ・・・・・・」
「いいとこあるじゃん」
「え・・・・・・」
ぶっきらぼうに答える太陽を見上げ、華凜がほほ笑む。思ってもいなかった彼女の優しい笑顔に太陽はドキッと胸を高鳴らせた。
「ねえ、もう諦めるの?」
華凛は立ち上がって太陽に背を向ける。
「え?」
突然の問い掛けにキョトンとする太陽に振り向く事なく、華凜はそのまま続けた。
「本気で好きだっていう気がまだあるんだったらさ、最後まで貫き通してみたら?」
「・・・・・・!!」
含みのある華凜の言葉に、太陽は驚いた顔で彼女の背中を見つめた。
数日後。快晴の青空の下、桜華学園の第二グラウンドではラグビー部員達が優大を先頭に列を成して内周をジョギングしていた。練習後のクールダウンだ。
「よーし、今日の練習はここまで。グラウンドに挨拶じゃ!」
「はい!」
優大の号令でジョギングを終えて部員達が大声でグラウンドに挨拶する。
ベンチに座っている華凛は新入部員登録表と書かれたノートにペンで新入部員の名前を書き込んでいる。しかし、その中に太陽の名前はない。
「よし、新入部員はこれで全員か」
優大が汗を拭きながら華凛の前に来て、少し寂しそうに呟く。
「あいつ、今日も練習来んかったの・・・・・・」
「もうあんな奴どうでもいいわ。結局根性無しなのよ。大事な約束なんか、平気で破る奴なんだから・・・・・・」
華凜は太陽の話題に眉をひそめてノートをパタンと閉じた。
「大事な約束? ワシは、ちと期待しとるんじゃがの。あの稲妻のような鋭いステップ・・・・・・あんなに打たれ強くてタフな奴はそうおらんぞい。それに動物が好きなやつじゃ!」
しかめっ面の華凜と目を輝かせて話す優大の二人のもとに近づく足音が一つ。
「まあ・・・・・・でも、思いは行動で表すもんでしょ?」
華凛が腕を組んで顔を膨らます。それと同時に、止まる足音、そして、
「たのも~~~~~~~!!」
太陽の威勢の良い声がグラウンドに響く。華凛と優大が驚いて声のする方を見る。
「た、たのもぉ? て、あんた・・・・・・太陽⁉」
二人の目の前には、爆発金髪アフロをバッサリと短髪に切ったジェットモヒカン姿の太陽がいた。もみあげから襟足を刈り上げトップは長めの金髪が剃り立つ様がまるで燦燦(さんさん)と照る陽光のようだ。太陽は優大に向かって、バッと頭を下げる。
「俺に、ラグビーを教えて下さい!!」
グラウンドに立ち籠る砂煙。前回の華凜の時と同じように、ボールを持った優大と対峙する太陽。華凛は向かい合う太陽と優大を見つめていた。
「がはははは・・・・・・。爽やかになったのぉ。じゃが、無断欠席はいかん」
「うぐ・・・・・・」
痛い所を突かれて一歩後退(あとずさ)る太陽に、豪快に笑う優大がラグビーボールを放り渡す。
「入部祝いじゃ。このワシを抜いてトライを決めてみい!」
「えっ!?」
ボールを受け取った太陽は困惑の表情を見せる。
「そのぐらいの覚悟決めて戻って来たんじゃろう? 次は、真正面からじゃ」
ニッと白い歯を見せて、太陽を真っすぐ見つめる優大はドンと胸を叩いた。
(・・・・・・最後まで貫き通してやるさ。それが、俺の想いだ)
あの日、夕暮れの公園で華凜に言われた言葉が太陽の脳裏に浮かんだ。太陽は華凛を見つめて頷き、自身の気持ちを奮い立たせる。それからグッとしっかりボールを握り締めて優大に曇りのない眼(まなこ)で真っすぐに見据えた。
「い、行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
覚悟を決めた太陽の足が大地を蹴る。立ちはだかる優大に真正面から向かって行く。
「太陽・・・・・・」
華凜が期待と心配の入り混じった瞳で太陽を見つめる中、
「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ドォォォンと激しい衝突音を立て、太陽が優大に激突する。凄まじい衝撃が走り、太陽の視界は徐々に辺りが真っ白になって行く―――。
―――視界が薄っすらと戻って行くと、どこかの天井らしき光景が太陽の目にぼんやりと映った。
「気がついた?」
すぐ真横から華凜の声がした。太陽が横を向くと、ベッド脇の椅子に座り、こっちを見つめる華凜の顔が次第にはっきりしてくる。どうやらあの後、意識を失ってそのまま保健室に運び込まれていたらしい。
「全身が、頭が割れるように痛い・・・・・・」
太陽は起き上がろうとするが、全身の激しい痛みと骨が軋む感覚で、起き上がれずにずるっと力が抜ける。
「そりゃそうよ・・・・・・トライ決めるまでって、何度も優ちゃんにぶつかって行くんだから」
少々呆れた様子で華凜は優大と太陽の幾度に亘(わた)る激突を思い返す。
光速の稲妻ステップで優大を翻弄し抜き去ろうとする太陽に、背後から巨大熊が襲い掛かるような強烈なタックルを喰らって吹き飛ばさる。それでも太陽は立ち上がった。そしてまた吹き飛ばされる。それでも太陽は諦めずに何度も立ち上がった。優大から何度弾き飛ばされようが、太陽は咆哮(ほうこう)を上げ、何度も何度も・・・・・・。
「―――最後まで貫けって、言ったの誰だよ」
華凜の呆れ顔を見て、ムスッとした顔をしてそっぽを向く太陽。
「・・・・・・高校生になって、少しは成長したか」
「なっ・・・・・・・・・なにを!」
華凛の言葉にムッとなった太陽は、彼女の方に勢いよく顔を向ける。すると華凜は椅子から立ち上がり、
「部員名簿、名前書いといたから」
そう言って椅子から離れて入口へ向かった。
「えっ……?」
キョトンとする太陽を背に、華凛は戸をスライドして開け、去り際に一言、
「ラガーマン、五十嵐太陽。なかなか、カッコよかったぞ」
彼に振り返って可愛らしい笑顔を見せた。
「あっ……!!」
華凜の不意打ちに顔を赤くする太陽。華凛は保健室から出て行き、戸を閉めた。
太陽は照れ臭そうに窓の外に目をやった。花びらがはらはらと舞い散る桜の木を眺める。
(まだほんの蕾かもしれねぇけど・・・・・・あの子が夢中になれるもんに少し触れられた気がする)
「よっしゃあ!! こうなったらとことんやってやるぜ。目指すは、甲子園だぁ!!」
太陽はグッと拳を固く握り締めた。そして気合を入れて勢いよくベッドから跳ね起きる。
が、その拍子にベッドから滑り落ち「どはっ」と床に体を打ち付けた。
「花園でしょ・・・・・・もう」
戸を背にして、どこか嬉しそうに微笑む華凜。
向かい窓の外に見える満開の桜。その中にある遅咲きの小さな蕾が春風に揺れていた―――。
太陽の花園 Tsuyoshi @Tsuyoshi-k
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