第9話 黒猫亭④ 幸運をこの手に
「なに、その幸運…いや豪運!? でもシャドウウルフだって、光玉が光ったとしてもそれだけじゃ倒せないよね?」
「そこは、儂も良くわからん。スクットが臭いでシャドウウルフを感知してそれに向かって光玉を投げるとほんの一瞬だがシャドウウルフが見えて全員で一斉攻撃で倒した。そもそも見える事も意味が分からなかったが倒したのは事実だ」
「ああ、それは簡単。あの光玉は光を放つときにその空間の魔力を消費して光るんだけどダークゾーンの闇って黒い魔力みたいなものだから黒い魔力を消費していつも以上に光ったはず。まあ僕も偶然知ったんだけどね…もしかしたらシャドウウルフ達も黒い魔力で出来ているのかも…うーん、今度検証が必要だなぁ…ってなに、なに?」
ダナンの説明を聞いてジョーが光玉でシャドウウルフを倒せた原因を呟いていると4人がジョーを覗き込むように見ていた。
「ちょっと確認だけど、ジョーって35階層に行ったことあるの?」
「いや、もしかしてすでに35階層を攻略している?」
「「「「まさか?」」」」
「ははは、ばれちゃった? てへぺろ」
「「「「えっーーーーーーーー」」」」
突然のカミングアウトにその後色々な事を質問されたが、固有スキルだからの一点張りで乗り切った。さすがに固有スキルと説明されてはそれ以上は誰も踏み込んでこない、この異世界で個人が授かっているスキルいついて他人が聞くの忌避感を覚えるほどマナーが悪いらしい。セーフティルームからの戦闘ゼロでの帰還の実績もあり、パーティーに熱烈勧誘されたが「一人が気楽なんだ」とはっきりと断った。
35階層まで落とされて25階層のセーフティルームに戻って来たなら、それなりに戦闘もあるし休憩も必要なので4日(35階層から30階層で2日、30階層から25階層で2日の計算)はかかるかとなりジョーは納得した。
疑問が解けたジョーは晴れやかな気分になり、その晩エール(もちろん自分で冷やした)をいつも以上に飲みかなり酔いが回ってから宿屋に戻った。黒猫亭からは大分距離があるが大通りであれば衛兵の巡回もありそれほど危険はない。
ダンジョンの入り口のある中央広場を通り過ぎ、通称”職人通り”を15分程進むとジョーの定宿である黄金の鍵亭についた。先ほどまでいた黒猫亭も良い宿屋だが、黄金の鍵亭は商人を主の顧客としているのでシンプルながらとても洗練された外見をしている。入口も宿屋専用と食堂専用があり宿泊客以外も食事に訪れる客も多くいる。
「ただいま戻りました」
「あら、ジョーさん。珍しいですね、そんなにお酒を召し上がっているなんて珍しいですね」
黄金の鍵亭の次男さんの奥さんであるエルちゃんが出迎えてくれた。家族経営であるので食堂と宿屋のカウンターと時間や曜日によって担当が入れ替わるのであまり長話はしないが黄金の鍵亭の全員と結構仲が良かったりする。
「うん、スクット達?と楽しいお酒を飲んでました!明日からの目標も見つかって上機嫌です!」
酔っているせいかいつもより少し大きな声で返答をして敬礼までしまった。初めて見た敬礼をエルは不思議そうに見ていたが酔っぱらいを相手にしてもしょうがないと
思ったのか「それは、良かったですねぇ」と営業スマイルを返してくれる。
営業スマイルでも嬉しかったジョーは「ありがとうございます」と深々頭を下げ元気に2階にある自分の部屋に戻った。入った瞬間清潔感を感じるほど良く掃除がされていて、シーツも毎日取り換えてくれる。ベッドと小さな机とワードロープだけの異世界版ビジネスホテルの様な部屋だがジョーは安心感をなぜか感じるのであった。
「さてと、まずはアルコールを分解しないと。スキル【病気知らず】…よし」
ジョーがスキルを発動すると今まで感じていた酩酊感がきれいさっぱりなくなる。意識がはっきりしたジョーは再度部屋の中を確認し留守中に私物などが無くなっていないかを確認する。
「…よし。親父さん達を信頼はしているが100%信用はしてはいけないからな。信用できる仲間が欲しいが今の俺には無理だな…はぁこの世界に来てもう3年か…」
ベッドに横になり天井を見上げ手の甲についた桜の花のあざを見つめた。
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