第8話 黒猫亭③ 落とし穴の先には

「えっ?あのダンジョンでのカエルのモンスターって、33階層より下で出る”チシャフロッグ”くらいのはずだけど…巨大ってどのくらい大きかったの?」


「大きさ?たぶん29階層で倒したハイミノタウロスくらいかしら?もっと大きかった?」


ジョーの質問にナタリーは漸く顔を上げて答えつつ、ローに確認をした。ローも「そのくらいだったと思う」と同意した。


「それって、レアモンスターじゃない?”チシャフロッグ”ってヘルハウンドくらいじゃなかった?」


「たぶんそうだと思う、僕達も突然落ちて、突然目の前に現れたモンスターと戦闘だったから良く確認が出来なかったけど…これがドロップしたからね」


ローがナタリーの話を引き継ぎ答えテーブルの上に一つのポーチを乗せた。ポーチは茶色の皮で出来ているありきたりな腰のベルトにつける物だった。しかし目を凝らして(魔力を見ると)見ると薄いオレンジ色の魔力を纏っていた。


「えぅえ?これって、マジック「ストップ」」


ジョーが取り出されたポートを確認しポーチの正体を口にしようとした所キャシーが飛びつくようにジョーの口を押えた。しばらくそのままでジョーはもごもごと言葉を発するが落ち着きを取り戻し今度は小声で言う。


「これって、マジックポーチだよね?そのでっかい”チシャフロッグ”を倒したらドロップしたんだね?」


ジョーの小声の問いに4人は小さく一度うなずき肯定した。マジックバッグやマジックポーチなどの容器大きさよりも多く入れられるマジックアイテムは一般的に知られているくらい有名だが、かなりなレアアイテムだ。このマジックポーチがどのくらい物を入れられるかわからないが、例えば馬車一台分でも入れる事が出来れば金貨2000枚はくだらない。


ローが周囲を気にしながら足元に置いてある袋に片づけた。


「でも、”ビッグチシャフロッグ”との戦闘だけじゃ3日も戻ってくるのが遅れる理由にならないよね?」


「そうだ、直接の理由ではない。儂らが落ちた階層が問題だったんだ…落ちた先は35階層…通称常闇の階だった…」


「それは…確かに…」

常闇の階と呼ばれる35階層は、階層全体が闇で普通の松明や魔法の光では闇を払う事は出来ない。35階層をクリアするためには34階層にいるランタンジャックがドロップする常闇のランプが必要になる。


闇ランプは唯一常闇の階の闇を照らすことが出来、これが無いと闇の中手探りで進み、モンスターとの戦闘も闇の中で行う事になりほぼ全滅する。


「良く生きて戻ってこれたね…普通はここに居られる事がありえないと思うけど…」


「私たちは運が良かったのよ。1つ目は”ビッグチシャフロッグ”の部屋が34階に上がる階段に近かった事、2つ目は暗闇ではあったけどスクットの鼻が利いた事、3つ目はあなたが緊急時に使えとスクットに渡していた”光玉(ひかりたま)”があった事ね。この3つの偶然が重なっていなかったら命を落としていたでしょうね」


キャシーが表情を硬くして35階層を脱出できた理由を教えてくれた。他の3人も35階層での出来事がフラッシュバックしたのか体を強張らせていた。3つの説明を聞いてもジョーが納得できないと言う表情をしているとキャシーが説明をつづけた。


「もちろん、その3つがあっても35階層からの脱出の説明にはなっていないわ」


「そうだね、あれは神が奇跡を起こしてくれたんだと思うんだ。偶然にも僕たちが35階層に落ちた数日前にAランク冒険者パーティ月光が35階層を攻略していて万が一の場合に備えてダンジョンの通路に臭い印をつけていてくれた事、暗闇の中で遭遇したモンスターが光に弱い”シャドウウルフ”だけだった事だね」


ローがキャシーの説明を引きつぎ、次に起きた奇跡を教えてくれた。確かに、35階層を踏破するために獣人がパーティーメンバーにいる場合、モンスターには分からないが獣人にはわかる臭いで作られている”臭い印”が使われることがあるが、3日もするとダンジョンに吸収されてしまう。


それに35階層を攻略できる冒険者パーティーなんてこのスプーナーの冒険者ギルドには5パーティーくらいしかいない。そのうちの獣人が参加している”月光”が同時期に35階層を攻略しているなんて…あとは出てきたモンスターがシャドウウルフだけなんてそれこそありえない。35階層にはほかにもシャドウバッドやダークパイソンそして最も危険なシャドウスライムなどが徘徊しているのだから。

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