第7話 黒猫亭② モフモフ

「やっと来たかジョー!お前が早く来ないから沢山働かなきゃいけなかったんだぞ、俺の飲み代はジョーのおごりな!」


「はぁ?何を言ってるの?そんなこと言うなら延長料をすぐさま支払ってもらおうか?」


ジョーが目を座らせ両手をワキワキさせると危険を感じたスクットが顔を引きつらせて逃げ出そうとするが、ジョーは素早く立ち上がり襟首を捕まえ椅子に無理やり座らせるとスクットの首から背中に伸びた毛をわしゃわしゃと撫で始める。


最初は抵抗しようと体を強張らせていたスクットだったが、すぐに体から力が抜けジョーの膝に頭を預けゴロゴロと喉を鳴らし始めた。


男の獣人が男に膝枕をされ首や頭を撫でられゴロゴロと喉を鳴らすという人によっては気味の悪い、人によっては御馳走な様子を食堂にいる客たちは生暖かい目で見ていた。ジョーはそんな視線などガン無視で心ゆくまでモフモフを楽しみ続けた。


「もー、いないと思ったらこんな所に…いつ見ても自分の男が他の男に撫でられて喉を鳴らしている姿は分かっていても無性にイライラするわね」


ジョー達のテーブルに追加の料理を運んできたカレンがスクットとジョーの姿をみて少し怒気をはらませながら指摘をする。


「あ、カレン。ありがとう!」


「もう、そんな輝くような笑顔で私を見るのやめてくれる?モヤモヤしている自分がみじめになるわ」


「大丈夫、カレンは可愛いし。どお、こっちで一緒にモフモフしない?気持ちいよ」


「えっ、いいの?それじゃ・・・」

なぜか顔を赤らめながらカレンはジョーの隣に椅子を持ってきて座る。ジョーはスクットを撫でる手を動かしたまま起用に椅子をずらし立ち上がるとカレンの膝にスクットの頭を載せ替える。


そして首筋のあるポイントをカレンに教え撫でる手も後退した。カレンに後退した後もスクットは目を細めながらゴロゴロと喉を鳴らし続けついには子猫の様に

「にゃ、にゃ」と泣き始める。


カレンはそのスクットの様子にとても満足しているのか満面の笑みを浮かべつつも瞳をウルルさせていた。もうそうなると2人はピンク色のオーラが出ているではないかと錯覚するほど甘~い雰囲気を漂い始めた。


「・・・ねぇ?カレン?カ・レ・ン?」


「は、はい?」


「とても良い雰囲気の所悪いんだけど、そろそろ仕事に戻った方が良いと思うわよ。さっきからあなたの妹達が店の中を忙しく走り回っているし、段々とあなた達に向ける視線に殺気がこもり始めているから」


キャシーが砂糖を口いっぱいに入れたような表情でカレンに忠告をする。カレンは突然現実を認識したように急に立ち上がった、もちろんスクットは床に落ち「痛てー」とか文句を言い始めるが、顔を真っ赤にしたカレンに引きずられる様に厨房に消えていく。


「ああっ、僕のモフモフが・・・」


「何を馬鹿な事を言っているの、せっかくの料理が冷めちゃったじゃない!あー、この甘ったるい雰囲気を吹き飛ばす辛い物が食べたくなったわ。

 マギーちゃーん。こっちにジャガイモと肉のカラカラ炒めとエールをジョッキで3杯、お願いねー」


キャシーは近くを通りかかった黒猫亭の次女のマギーを捕まえ注文を追加した。


・・・


「さー、改めて乾杯しましょう。無事の帰還に!はい、カンパーイ」


「「「カンパーイ」」」

スクットを除いた5人で飲み直しの乾杯を行い、宴会を続ける。ジョーは冷めて少し硬くなった肉串をゆっくり噛みしめ飲み込み、塩味が残る口の中を冷やしたエールで

流すを繰り返していた。岩窟のメンバーも大分お腹が膨らんだのか食べるのをやめ、飲みに集中していた。


「そういえばさ、なんでセーフティールームに戻るのが遅くなったんだ?」


ジョーが今回の冒険の疑問点についてストレートに質問をした。一瞬4人の表情が硬くなるが、小さくため息を付いた後ナタリーが原因を話し始める。


「うーん、簡単に言うとトラップに引っかかったのよ。29階層のボス部屋でハイミノタウロス達を倒した後、出現した宝箱の回収を終えてセーフティルームに戻ろうとしたんだけど…ハイミノタウロスが結構余裕で倒せたのもあってどうせなら少しだけ30階層を見ていかないかってなってね。30階層に下りて行ったの…」


ナタリーはそこまで話すとひときわ大きなため息をつき、エールをあおる。


「…それでね、30階層も29階層までと同じ石壁のダンジョンが続いていたんだけど階段を下りた直ぐのルームに私がスイッチを見つけね…罠を確認した後、押しちゃったのよ…そう、全部私が悪いの…」


そこまで語るとナタリーは額を机の上にゴンとなるほど打ち付け黙ってしまった。ローとキャシーが「そんな事ない」「そうよ、みんなで決めたのだから」と慰める。


ナタリーは反省の姿勢のまま「ありがとう」と返答をするが姿勢を崩さず話をつづけた。


「いいえ、罠を発見できなかった私の技量不足よ。これは揺るがないわ、30階層の情報も事前に入手うしていたし罠が無いと思い込みその発見したスイッチを押したの…その後は突然今までいた床が消えて下の階層に落とされたわ…はぁ


 どのくらい落ちたかはよく覚えていないけど、私は罠が発動したことに気持ちを持っていかれていて着地に失敗し足を負傷した。みんなはちゃんと着地したのにね…

 …着地した先は巨大なカエルのモンスターが3匹待ち構えていたの…」

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