第4話 召し上がれ。
「おいおいおい、何だこのいい匂いはジョー?」
「味噌だよ、この前東の国から戻った商人に分けて貰ったんだ。初めてだと思うけど食べてみてよ」
ジョーは背負い袋から少し大きめの木製の椀を取り出しよそっていく。スープをよそい終わる頃には持参のスプーンを手にテーブルの前に全員が集まっており「よし」の合図をまつ子犬のように目の前に配膳された椀から立ち上る香りによだれがたれそうになっていた。
「それでは召し上がれ、お代わりは1杯分くらいはあるから遠慮なく言ってねってもう食べてるか」
何日かぶりのまともな食事に岩窟のメンバーは一心不乱掻き込む様に食べる、ただ1名だけ種族の性か椀に息をこれでもかと吹き込み必死に冷まそうとしているスクットがいた。何とかスープを冷まさせてスクットが食べ始める頃には他の4人が同時にお代わりするのだった。
「「「「美味しかったー、ありがとうジョー」」」」
「初めて食べたけど独特の風味が癖になりそう!」
「干し肉にこの茶色のスープが良くあっていた」
「たぶん、豆から作られた調味料だと思うが豆からこんなにも美味しい調味料が出来るなんて…」
「干し肉と干し野菜でこんなに美味しいのだから普通の食材で作ったらどんな味になるかすごく楽しみ」
ナタリー、ダナン、ロー、キャシーが順番にスープの感想を言う。スクットはまだ食べているので他のメンバーの感想にうなずいて同意だけしていた。
「口に合って良かったよ、お粗末様でした。もう1日早ければ生野菜で作れたんだけどね…ごめんね」
「「「「いやいやいや、ダンジョンの中で温かいスープを飲めるだけ幸せだって」」」」
岩窟のメンバーが一様に首を振り、ハモリながらこの異常で幸せな状況を説明する。
「そうかなー、いついかなる時でも暖かく栄養があり美味しい物を食べないと心が病気なっちゃわない?」
岩窟のメンバーは『何をこいつは力説しているんだ?』と首を傾げながらジョーを見つめていた。そんな事をしているうちに腹が満たされ緊張が解ければ眠気が襲ってくるのは必然で岩窟のメンバーは個々にマントを広げてごろんと横になり静かな寝息を立て始めた。
「あーあー、歯も磨かずに寝ちゃったよ。これだから冒険者は…さて俺はちゃんと歯を磨いて片づけをして寝ますか」
誰も聞いていない事を良いことにジョーは冒険者を少しだけディスったあと使い終わった椀を生活魔法の【浄化】で綺麗にして片づけ、歯を磨き、自分にも【浄化】を
掛けた後、パジャマに着替えてテントに入った。
「これで仕事終了だね。無事にスクット達が戻ってきてよかったよ、俺の癒しが一つ無くなる所だったしね。明日はちゃちゃっと地上まで戻って酒盛りかな?…おやすみなさい」
ジョーは今日1日の事を振り返った後、静かに眠りについた」
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「やったーーー!戻って来たぁー!!」
ダンジョンの出口を出て夕暮れ間近の赤い太陽の光を体全体で浴びながらスクットが大きな声で叫ぶ。他の岩窟のメンバーもそんなスクットの姿を涙ぐみながらうなずきながら見ていた。
「しかし、25階層のセーフティルームからこんなに早く戻ってこれるなんて…ありえない」
「そうだ、しかも地上に出るまで一度も戦闘をしてないし…あの人はいったい何者なの?」
ナタリーとキャシーが後ろで何かを取り出そうとごそごそと先ほどまで背負っていた大きな背負い袋をあさっているジョーを横目で見ながら小さい声で呟いた。
「ダナン、今日は黒猫亭に直帰だろう? 明日の夜に行くからその時依頼料の清算を頼むね。あとこれ、あの調子じゃ今晩無事に戻って来た反動で深酒しそうだから
スクットに盛っておいて。ただの睡眠薬だから体に害もないし回復力を高める効用もあるみたいだから逆に元気になるかもね。それじゃ」
「おい、おいおい。お前はどうするんだ宿に帰らないのか?」
「ああ、同時に受けた依頼の納品に冒険者ギルドに行ってからな。ただ戻って来ただけだからあんまり疲れてないし、期日も迫っているからね。また明日」
ジョーはあっけにとられているダナン達をしり目に冒険者ギルドがある北地区の方向に歩いて行った。
「やっぱりジョーは異常だ。いくら戦闘が無かったとはいえ3刻以上歩き通しだったはずなのに…」
「「「何者断だろう(ね)」」」ロー以外の3人は声をそろえジョーが歩いて行った方向を眺めるのだった。
「お前ら、早く帰ろうぜ!俺はもう腹が減ったよ、のども乾いたし今夜は久々に飲んじゃうぞーーーーおっーーー!」
スクットが少年の様な笑顔で今夜は一杯飲むぞ宣言をする、ダナンはジョーから託された薬を最初の一杯に仕込む事を心に誓うのだった。
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