第2話 トラ男はどこに?

「はぁ、はぁ、はぁ、いくらジョーでも約束の日からすでに3日が過ぎている…1日や2日ならいざ知らずもういないのではないか?」


「ジョーなら絶対にいる、それよりダナンこの道であっているのか?そろそろやばいぞっ!」


「ええぃ、俺はナタリーじゃないんだ、わからるはずないだろうっ!」

ダナンの道を迷っていると言う叫びに一同は絶望に陥る、最初に歩みを止めてしまったのはすでに限界に達していたキャシーだった。キャシーはその場に手を付きハァハァと大きく呼吸を見出しながらパーティーの方を見て首を振る。その後ろに3頭のヘルハンドが口の端から炎の息を漏らしながら走り寄っていた。


「ちっ、ダナンっ!俺がケツ持ち(しんがり)をする、キャシーを連れてセーフティルームにいるジョーを呼んできて来てくれっ!」


前を走るダナンに怒号を飛ばし、抱えていたナタリーをローに預けキャシーの前に出ると背中から両手持ちの大剣を引き抜き中段に構えた。ヘルハンド達は1頭を先頭に

走る勢いを緩めず立ちはだかるスクットに向かって同時に飛び掛かる。


「たかが火を履く犬の分際で士族で若手最強の俺をなめるなっ!」

スクットは大剣を真横に振るい大剣の腹で飛び掛かってくる先頭のヘルハンドを野球のボールの様に打ち返す。虎獣人の筋力でフルスイングされ先頭のヘルハンドは後続の2頭を巻き込みながらはじき返された。


その間にダナンはキャシーを背負いその場を急いで離脱する、スクットは目の端でそれを見送りヘルハンド達の追撃に備える。


弾き飛ばされたヘルハンド達は2度ほど地面を転がったがすぐに体制を整え牙をのぞかせながらうなり声を上げながら一歩、一歩慎重にスクットとの間合いを詰めてくる。


単独では倒せないと初撃で学習したのか同時に飛び掛かり攻撃を行ため、ダンジョンの通路いっぱいにヘルハンド達が広がる。


スクットは大剣を上段に構え真ん中の1頭に集中し静かに息を吐く。そしてヘルハンドが体を沈み込ませ跳躍をする瞬間、最速の踏み込みで一歩前に出て上段から大剣を振りぬいた。


大剣の剣先は狙い違わず飛び掛かってこようとしていたヘルハンドの眉間をとらえ両断しヘルハンドは通路へ頭から落ちチリへと返った。

「しまったっ!」


先頭のヘルハンドに集中しすぎいつも以上の冴えを見せた一刀はダンジョンの床までも切り裂き剣先が床に食い込んでしまった。仲間が倒された事にもひるまず左右から

同時攻撃を仕掛けてくる。


スクットは床から抜けない大剣を手放し両腕で顔と首を防御した。右からの1頭の首を狙った噛みつき攻撃には防御が間に合ったが、左からの1頭の鋭い爪によるわき腹への直撃を食らってしまった。ヘルハンドの鋭い爪はハーフプレートを引き裂きわき腹をえぐられ血が噴き出す。わき腹を攻撃したヘルハンドが攻撃の勢いのままスクットを通り過ぎ2頭で挟み撃ちの状態をつくる。


「ちっ、頭の回るイヌコロめっ。勝負はこれからだかかってきなっ!」


左のわき腹の痛みを耐え腰に差したショートソードを抜き壁を背にするように一歩下がり前後挟み撃ちの状態を左右挟み撃ちの状態へ変え、目線をやや下にして左右を同時に見てヘルハンド達の次の攻撃に備えた。


ヘルハンド達はほぼ同時にスクットに飛び掛かって来たが左側の方が一瞬早く動いたのでスクットは右手に持っていたショートソードを左手に持ち替え突きで迎撃をする。


スクットの攻撃は狙いを違わずヘルハンドの喉に突き刺さるがカウンター気味に入った攻撃は深く突き刺さってしまった。スクット本日何度目かの「しまったっ!」と

思った瞬間時間がゆっくり流れ始める。


ゆっくりと流れる時間の中で右側のヘルハンドが首を狙って飛び掛かってくるのを見てわき腹を守っていた右腕を持ち上げようと動かすがゆっくりとしか動かすことが出来ず「ああっ、俺死んだかも」と思い始めた。


ダナンとローは心の中で「「スクット、すぐ戻る。それまで持ちこたえろっ!」」と叫びながら疲労でもつれる両足を必死で動かしセーフティルームへ急ぐスクットから離れ2回ほど通路を曲がると正面から左右に揺れる光源が近づいてくる。

「ちぃっ、この急いでいる時に。ロー、キャシーを頼む!ここは俺が」


背負っていたキャシーをローに預け背中から戦斧を取り出し戦闘態勢をとる。

「おーい、俺だー、トラ男~生きてるか~?」


近づいてくる光源の方向から気の抜ける声が聞こえてくる。まだ距離が離れているので顔の判別は付かないが間違いなくジョーの声だった。ジョーと呼ばれた男が顔の判別がつく距離まで近づいてくる、ダナン達を確認すると笑顔になったがすぐにスクットがいない事に気づき表情を険しくした。


「おい、トラ男はどうした?一緒じゃないのか?」


「スクットは、俺たちを逃がすためにヘルハンド達と戦闘中だ。俺達はすぐに戻るからナタリーとキャシーを頼む」


「いや、俺が行った方が早い。手持ちのポーションを渡すからみんなは先にセーフティルームへ戻っていてくれ。道順は壁に印をつけてきたからたどれば迷わないはずだ。じゃあなっ!」


ジョーはダナンとローにポーションを渡しダナン達が来た道を全速力で走っていく。ダナン達はただ、ただジョーが間に合う事を祈るだけだった。

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