奴隷等級

 今このガキ、なんつった?

 確か、俺を好きだとか…………言ったような。


「…………な、なあキャンベルさん。 あんた今なんて…………」

「「「え……えええええ! こ、ここここの奴隷が! せ、セシリア様の…………想い人!?」」」 


 うるさい。

 俺より驚くなよ、逆に冷静になっちまうわ。


「な…………なななな! せ、セシリア様今なんと……! なんと仰いましたか! この奴隷の事が……好きと仰ったんですか!?」


 ………………もう良いです。

 俺は聞いてるだけにするので、話はお前らで進めてください。


「なんかもう大丈夫そうだし座ろ……」

「ぷいー」

「えぇ、そうしましょう」


 うり坊と適当な木の根本に腰を下ろすと、リヴィアが隣に座ってきたので、


「ちけえよ」


 ジロッと睨み少し距離を空けていると、セシリアが腕組みしてルエルに言い返した。


「そうです、何か文句でもありますか?」


「セシリア様には申し訳ありませんが、その通りでございます。 あの奴隷がそれなりの血統ある奴隷ならまだしも、どこの馬の骨か分からない奴隷に好意を寄せるのは看過できませんゆえ……どうか」


 そりゃそうだ、お付きの者なら当然の反応だ。

 奴隷にだってランクがある。

 種馬に選ばれるのはA等級以上の奴隷のみ。

 俺も一級貴族のルルモンド家の出自ではあるが、世間体の体裁の為、最低ランクのE等級にされている。

 ボロボロの服装や、この鉄製の首輪に、ウルフの烙印がその証拠だ。

 ルエルもそれで俺がどこぞの馬の骨奴隷と判断したのだろう。

 だから反対をしている。

 同僚の騎士達も同じだ。

 こんな最低等級の奴隷がお嬢様の相手には相応しいとは思っていない顔を見せている。

 だがセシリアだけは違い、なにやらふんぞり返っていた。

 そしてそんな彼女から、自信満々な声色でこんな言葉が飛び出したのである。


「それは貴女の間違いよ、ルエル。 確かにユキト様の身に付けている物はE等級奴隷の物。 けどユキト様の出自は…………詳しくは言えませんが、第一級貴族なんです。 本来の等級なら間違いなくS等級。 なんの因果か企みかは判りかねますが、ユキト様の身元はこのセシリアが保証します。 なので馬の骨等と言わないでください」


「こ、この奴隷がS等級の奴隷……!? そ、そんなまさか…………。 いえ、ですが言われてみればどことなく気品があるような気が……。 あの艶のある黒髪といい、宝石のような黒目といい…………」


 んな訳あるか。

 どんな因果律が働いたのか知らないが、黒髪、黒目、醤油顔は日本人の特徴そのまま、俺は転生してしまった。

 しかも一般人バリバリの顔で。

 だから、そんな奴の顔に気品なんかある筈がないのだ。

 ルルモンドの血筋のお陰で、元の顔よりかはクオリティは上がったが、それでも一般人に整形を施した程度。

 決して気品なんか持ち合わせていない。


「でしょう?」

「流石はセシリア様、お目が高い」


 その目は節穴では。

 確かにルルモンド家の血統だからそれなりの奴隷だが、見てくれはEかD等級が妥当。

 ある程度の戦闘が可能な事や、家事全般がメイド並みというのを加えてようやくC等級あるかないかってところ。

 二人が思うような奴隷ではない。


「へえ、ユキトさんは良いとこの出なんですか。 ちなみにどこの家の生まれなんですか?」

「言うわけないだろ」


 言ったら最悪アルメイダに処分される可能性がある為、俺は即答。

 何故か自分には教えてくれると思っていたリヴィアは、がっくし肩を落とした。

 それはどうでも良いとして。 

 大事なのは、ルルモンド縁の者以外には公表していない俺の存在を、どうしてセシリアが知っているのか。

 そっちの方が重要だ。

 過去を出来るだけ鮮明に思い出してみたが、やはりセシリアの存在はない。

 そして、その疑問は俺だけじゃないらしい。

 

「きゃはははは! ねえねえ、奴隷くぅん! ルビーお姉さんともお話ししようよぉ! ふひひひひ!」


 騎士の中でも飛び抜けたヤバい女。

 ピンクのサイドテール奇人が話しかけてきたのである。

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