共闘

 何故だ。

 どうしてこの女は俺を……奴隷を守ろうとする。

 意味が分からない。

 そんな事をするメリットなんてないハズだ。

 その疑問と猜疑心が瞳に現れていたのだろう。

 リヴィア・アーランドと名乗った女は、横顔を緩ませると、こんこんと語りだした。


「──本当なら助けるつもりはありませんでした。 貴方が他の奴隷と…………他の男と同じようなつまらない人間なら」

「そ、それはどういう……」

「そのままの意味です。 貴方がもしあの時我が身かわいさに身をあけ渡したり、うり坊を引き渡していたら助けず見捨てていたでしょう。 ですが貴方は矜持を示しました。 人として、そして男としての。 だから助けました。 だって貴方みたいな面白く、気概のある人を死なせるのは大変惜しいですからね」


 なるほど、それが理由か。

 今までの奴隷、ひいては男は従順な物でしかなかった。

 そこへ俺という今までとは違う男が現れた事で興味をそそられた…………という所だろう。

 

「そうか…………そりゃどうも。 助けてくれた事には感謝するよ、ありがとう。 でもあんたも女だ。 感謝はするが信用してやるつもりはない。 そこは分かってるよな」

「ふふ、もちろん。 私が欲しているのは簡単に手に入る男ではなく、貴方のような自分と対等な男性ですから。 まあちょっと年齢が幼すぎるので、せめてあと五年は欲しいところですが」


 それを聞いてホッとした。

 もしショタコンだったりしたら、この戦闘の後ヤバいからな。

 お持ち帰りされる可能性大だ。

 正直、女なんてものを信用するのはメスゴブリンに犯されるよりも癪。

 だが、そこは信用してやっても良いかもしれない。

 性癖は嘘をつけないからな、と。


「じゃあ、あと五年待ってな。 俺は五年後に売りに出される予定だ、奴隷市場にな。 あんたは一応恩人だし、買わせてやっても良いぜ」


 そう心にもない言葉を告げると、リヴィアがふと微笑み、こんな事を訊ねてきた。


「それはよい情報をいただきました。 ではその時に向けてアニエス金貨を貯めておきますよ。 ところで…………お名前はなんと言うのですか?」

「はあ? この状況で名前って、あんたな……」


 周囲には敵だらけなのにどういうつもりかと訊ね返すが、リヴィアは本気らしくウズウズしている。

 流石はS級冒険者というか、なんというか。

 最初はハッタリかもとも思ったが、この状況でこれだけ余裕なのを鑑みると本当なのかもしれない。

 なんだか悩んでいたこっちの方がバカみたいな気がしてきたので、俺は呆れながら。


「…………ユキトだ」

「素敵なお名前ですね」

「素敵って…………あ?」


 言ったその直後、それは唐突に起きる。


「これは…………まさかスキル……か? やっぱり武器ごとにあるのか」


 それとはまさしく脳裏に浮かんだスキルに他ならない。

 予想はしていたが、やはり武器一つ一つにスキルがあるらしく、ロングソードも例外ではないようで。


「スキル名は…………【スピニングブレード】?」


 しかもなかなかどうして、この周囲を囲まれた今の状況ではうってつけのスキルだったのだ。

 スキルの名称は【スピニングブレード】。

 読んで字の如く回転斬りなのだが、当然スキルな訳だからただの回転斬りじゃあない。

 なんと…………いや、それは実践で試してみるか。

 何故なら騎士達がジリジリと近付いてきているからだ。


「どうしましたか、ユキトさん。 なにやら独り言を呟いてましたが……」

「いや、なんでもない。 ほら来るぞ、リヴィア!」


 俺はリヴィアに警告するなり身を捻り、回転斬りを放つ為、溜め行動を取る。

 流石に構えを取れば何かしてくるかも、と警戒して襲撃のタイミングをずらせるかと思ったのだが…………考えが甘かった。


「あの女は隊長に任せて、私達はあの奴隷を殺すわよ!」

「えー、もったいないなぁ。 腕一本くらい切り落とせば大人しくなるんじゃない? あんな将来有望な種馬の男の子なんて超レアじゃん。 生かして騎士団で飼おうよ~」

「そういう訳にもいかないでしょ。 隊長と副隊長の命令だし、殺さないと。 一応騎士団の仕事として殺すからあの子の主人からお咎めはないだろうけど、面倒は無いに越したことはないし。 生かしてもし主人に報告なんかされたら、そっちの方が面倒よ」

「きゃはははは! だよね、だよねえ! 確かに勿体ないけどさあ! あたしはセックスよりも殺す方が気持ちいいんだよねえ! 今からあの子の歪む顔を見るのが楽しみ……だよねえ!」


 ちぃっ!

 俺が子供だから攻撃の動作を行っていても、舐めているのか一気呵成に飛びかかってきたのである。

 だが飛んで火に入る夏の虫。

 全員がスピニングブレードの範囲に入ってくれた。

 このまま全員やっつけてやる────と。


「うおおおおおお!」


 俺は剣を振り抜…………こうとしたのだが、思いもよらない人物の大声により動きを止めてしまった。


「もうお止めなさい、ルエル! 騎士団の人達も! それ以上、ユキト様を弄ぶのは私が許しません!」


 それは騎士達も同じだった。

 まさかの人物の怒声に、ルエルを含む騎士達も動けなくなったのだ。

 その人物……自分達のボスである、セシリア・キャンベルの命によって。

 しかし、ただ一人だけ。

 例によってルエルだけは違い、理由をセシリアにたずね……。


「セシリア様、何故止めるのですか。 こ奴らはセシリア様と騎士に反逆した者達。 相応の処罰が…………」


 るも、当のセシリアは意にも介した様子はない。

 それどころか先程までの気弱そうな態度はどこへやら。

 貴族然とした堂々たる振る舞いと顔つきで、ルエルないし騎士全員にこう言い放ったのである。


「処罰などさせません! このセシリア・キャンベルがずっと片思いしている惚れた男ですもの! 絶対に死なせてたまるものですか! それとルエル、貴女はどうやらそこの冒険者さんに助けられたみたいですね! ええ、そうです! 先程は驚きの余り出遅れましたがリヴィア様のお陰で、命拾いしましたんですよ! もし殺していたら、お母様にお願いしてルエルを殺さなくちゃならなくなるところでしたからね! ふん!」


 ……………………はい?

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