幕末自衛隊
第47話 黒船と異国の兵士
痛い・・・首が痛い・・・
俺は・・・何をしてるんだろう?
思い出せない・・・
夢か?
ほんの少し意識が戻って来た。
恐る恐る目を開ける。
俺はうなだれるような格好で両手をだらりと下げたまま、椅子からずり落ちそうになっていた。
長時間こんな格好でいたのだろうか?首の後ろ側に筋肉痛のようにズキズキ痛む。
「なんだ?どうして俺はこんな格好で・・・ここはどこだ?・・・あれ?どうしてたんだっけ?」
目を覚ます前までの事が良く思い出せない。
「あれ?左肩が重い・・・」
そう思いながら首の痛さを我慢して左を向くと、女性の頭が肩に乗っている。
「は?誰だ?・・・あ、美月だ・・・そうだ、俺は空母に乗って、磁場発生装置が作動して・・・つーことは、帰ったんだ!元の世界に帰れたんだ!!」
何とも言えない安堵感が頭の中を満たしていく。
「そうか、帰れたんだ・・・」
まさに奇跡としか言いようがない。
磁場発生装置が正常に動作する確率はほぼゼロに等しいという話だったが、今生きているという事は元の世界に帰る事ができたのだ!
「おい!美月!しっかりしろ!大丈夫か?」
俺の肩に乗っていた美月の頭をそっと持ち上げて椅子の背もたれに戻し、肩をゆすってみた。
「う・・・・・ん・・・え?あれ?ここどこ?どうして・・・え?」
俺の時と同じく、美月もすぐに頭が回っていないようだ。瞼は開いているが、意識がハッキリしていない。
「あれ・・・え?飯田・・・さん?え?え?え?私、生きてる?え?うそ!マジで?帰ったの?帰って来れたの?」
「そうだよ!帰ったんだ!元の世界に!」
「うわ~~!やったんだね!帰って来たんだぁ!!」
俺と美月は思い切りお互いを抱きしめ合った。美月はボロボロ泣いていた。俺だって泣きたいほど嬉しい!
「皆は、大丈夫かな?」
CICを見回すと、俺の横に座っていた石田と凛子はコンソールに突っ伏すような恰好で気絶している。
前方のコンソールでは川村と朝倉、その横のレーダーコンソールでは大谷が椅子に座ったまま、やはり気絶している。
入口ドアの前では、吉野が床に倒れており、その向かいのテーブルの前には森本が車いすに乗ったまま、だらりと両腕を下げて目を閉じていた。
どうやら俺と美月がいち早く目覚めたようだ。
「う・・・うう・・・あれ?どこだここ?」
「うーん・・・何だ?どうしたんだ・・・」
「ん?ん?・・・あれ?・・・」
すぐに皆の意識が戻って来た。
俺の横に居る凛子も目覚めたようだ。
「ううう・・・え?あれ?・・・アタシ、なにしてる・・・ん?あれ?飯田っち、何してるの?・・・あ!・・・夢じゃないよね?夢じゃないよね!」
「凛子、おはよう!大丈夫?俺達、帰れたみたいだぞ!元の世界に帰って来たんだ!」
「うそ・・・マジで?ホントにホント?帰ったんだ!帰れたんだぁ!!やったやったやった!!」
そのうちに他の者も次第に目が覚めたようだ。
その時の反応を見ていると何だか可笑しい。
まず、自分がどうしたのか?どこに居るのか?自分の時もそうだったが、現状が瞬時に理解できない。ものすごく強烈に寝ぼけているような感覚なのだ。
そしてだんだんと記憶が戻って来るに連れ、状況を理解できるようになってくる。
すると、自分が生きている事に驚き、周りを見て他の者が居る事に驚く。そして状況を完全に理解すると嬉しさのあまり思いっきり叫ぶ者、笑いだす者、腕を組んで静かにニヤニヤする者・・・
とにかく無事に帰って来れたのだ。
「みんな!やったぞ!帰って来たぞー!」
珍しく川村が興奮気味に叫ぶと、全員が拳を上げて「うおぉ~~!!!」と叫ぶ。
田島に至ってはよほど嬉しかったのだろう、目を真っ赤にして半泣き状態だ。
その時ふと気づいた。
何かこう、床が、いや、部屋全体がゆっくりと上下に揺れているのだ。なんだこれは?ここは一体どこなんだ?
「川村さん、何か揺れてません?この部屋?」
俺はちょっと不安になって川村に確かめてみた。
「ああ、どうやらこの艦は海上に転送されて来たようだな。たぶん実験が行われた小笠原諸島付近だろう。そうだ!甲板へ出てみるか!」
「行こう行こう!」
「元の世界の空気、吸いに行こう!」
俺達は全員でCICを出ると通路横の階段を駆け上がり、狭いハッチから外へ出た。
「え?」
「?」
「なんだありゃ?」
「は?」
船首の右手に大きな山が見えるのだが、その山の頂上付近から白い煙がもくもくと立ち上っている。
左手を見るとほんの数キロ先の海沿いに、小さな家々が立ち並ぶ街並みが広がっていた。
そしてその大きな山の手前の海上に、奇妙な形の黒い大型船が数隻浮かんでおり、時折その大型船からドーンと言う音と共に煙が吐き出されているのが見える。
「あ、あの山は・・・さ、桜島だ」
俺の横で車いすに座っている石田がつぶやいた。
黒い大型船は沿岸に向けて艦砲射撃をしているようだが、その沿岸からも大型船に向けて大砲らしき砲撃が断続的に行われている。
「さ、薩英戦争・・・薩英戦争だ・・・間違いない」
薩英戦争って、あの幕末に起きた薩摩藩と大英帝国(イギリス)の間で起こった戦闘の事か?
いや、何で俺達の目の前でそんな事が起こっているのか?
何で石田はすぐに薩英戦争だと気づいたのか?
「石田さん、何で薩英戦争だって分かるんですか?」
俺は不思議に思い、石田に尋ねてみた。
「俺さ、鹿児島の出身なんだ。俺の曾祖父の家が薩英戦争の艦砲射撃による火事で全焼したんだ・・・オヤジに聞いた話だけどね」
石田は遠くに見える黒い大型船を見つめたまま、神妙な面持ちで答えた。
もし石田の話が本当だとすると、俺達は現代へ帰らずに過去へ来てしまったと言う事なのか?
いや、過去と言ってもどの世界の過去だ?
昨日まで居た世界の過去か?
俺達の生まれた世界の過去か?
あるいはまた別の世界の過去なのか?
イヤな予感がしてきた。
さっきまであんなに喜び勇んでいたのに、やっと帰れたと思っていたのに・・・
皆も同じ予感を感じているようで、全員が唯々沖に居る大型船をボーっと見つめている。
「みんな、一旦CICに戻ろう」
川村に促され、俺達はCICに戻った。
「どうやら俺達は過去へ転送されてしまったようだ・・・そして、その過去ってのがどの世界の過去なのか・・・どうしたものかな・・・」
川村は腕組みをしながら渋い顔で話すと、突然ハッと気づいたように引き出しの中から双眼鏡を取り出し、急いで部屋を出て行った。
川村が出て行った後の部屋では誰も口を開く事無く、皆がうつむいている。
いきなり絶望のどん底に突き落とされた気分だ。
3分ほどで川村が帰って来た。
「みんな、聞いてくれ。俺達が昨日まで居た世界は文字がアルファベットと数字だけだったよな?俺は今、甲板に出て双眼鏡で沖合に停泊している漁船を見てみたんだ・・・・・漁船の船首に書いてある船名がアルファベットだった。その漁船は大漁旗を掲げていたんだが、その大漁旗の文字もアルファベットで書かれていた・・・憶測だが、ここは本来俺達が居るべき世界の過去ではなく、昨日まで居たあの世界の過去らしい・・・ったく、ぬか喜びさせやがって・・・」
やっぱりそうだったのか・・・嫌な予感ってのは当たるもんだ。俺達はただ単に過去へタイムスリップしただけだったのだ。
「あの、ちょっといいですか?」
「ん?何だ?石田君」
「あの、自分は鹿児島出身なんで薩英戦争の話は子供の頃から聞かされていまして・・・この薩英戦争ってのは、最終的には薩摩藩が勝ったって事になってますが、何も関係ない一般市民がかなり犠牲になってるんです、イギリス艦からの艦砲射撃で。実は自分の曾祖父の家もこの艦砲射撃で焼失しまして・・・これは爺さんから聞いた話なんですが、市民にもかなりの死傷者が出たらしいんです。それで、あの、ちょっとお願いと言うか・・・これから数時間後にイギリス艦が町を攻撃すると思うんですが、そのイギリス艦をこちらで攻撃して、町への艦砲射撃を阻止する事ってできませんかね?」
石田の突拍子もない発言に、皆が顔を見合わせた。
「この艦であの黒船を攻撃する?・・・まあ、対艦ミサイル1発撃ち込めば・・・いや、それじゃ粉々になってしまうな、ファランクスを少し撃ち込めばあんな木造船はあっという間に火だるまになるだろうが・・・でもそんな事したら歴史を変えてしまう事になる」
「町を攻撃するイギリス艦は7隻の内の2隻だけなんです、その2隻の内の1隻でもこちらが攻撃して沈めれば、イギリス側は驚いてて退却すると思うんですが・・・いずれにせよ薩摩藩の抵抗と弾薬や燃料の消耗でイギリス艦は撤退する事になるんです。だから町への攻撃を止めるだけだったら・・・これから大勢の市民が家を失い、死人が出る羽目になろうとしてるんです、それをこの艦の武器を少しだけ使う事で阻止できるんですよ!何とかなりませんか?」
石田の話を聞いた川村は困ったような顔をして、いつもの腕組みをして考え込んでいる。
確かに石田の言う通り、ほんの少しこの艦の武器を使う事で大勢の命を救うことが出来るかもしれない。でも歴史を変えてしまうかも・・・確かに歴史は変わるが、変わる事と言えば、イギリス艦の艦砲射撃で多くの市民が死ぬ筈が死なずに済む・・・恐らくこれだけなんじゃないか?
「よし・・・石田君、君の気持は良く分かった。もしこの後、イギリス艦が町を攻撃し始めたらそれを阻止しよう。だがこちらが沈めるのは1隻だけだ。何隻も沈めてしまったら、どんな影響が出るか予想もつかないしな」
そんな事して大丈夫なのか?
「あの・・・えっと・・・」
ふいにドアの方から女性の声がした。
ドアの方を見ると・・・そこには下はグレーの戦闘服、上はTシャツ姿の小柄な女の子が困ったような顔をして突っ立っている。
白いTシャツの右わき腹にどす黒い血の痕が滲んでいた。
「動かないでっ!!」
一番近い場所に居た吉野が女の子に向けて咄嗟に小銃を構える。
すると女の子は素直に両手を上げて頭の後ろで手を組み、その場にしゃがんだ。
あれ?もしかして、この子が俺を撃ったのか?
でも今ここに居るって事は・・・・・・・・え~~っ!連れてきちゃったのか!?あの世界から、いっしょにこの空母に乗って転送されてきちゃったのか?
つーか、今まで全員この子の存在を忘れていたのか!?
それって、かなりヤバくないですか?
「ひょっとして、あの子が俺を撃ったの?」
俺は隣に居る美月に聞いてみた。
「うん、あの子がね、あ、そうか!飯田さんは撃たれて意識が無くなっちゃったから知らないよね。あの時すぐに吉野さんが応戦して、その弾があの子の脇腹に当たって応急処置して・・・」
「で、すぐに敵の爆撃機が来るって分かって皆あの子の事どころじゃなくなっちゃたんだ?」
「そうみたい・・・私も忘れてたよ。えへへ」
「えへへ、じゃないよ」
あの子は俺達の世界の人間じゃない、それに兵士とは言え、見た所まだあどけなさが残る女の子だ。歳は20歳にも満たないんじゃないか?
「撃たれた脇腹は痛いか?まだ出血しているようだし、もう少し安静にしていた方がいいんだが・・・それからあの時は君が発砲したのでこちらも応戦せざるおえなかった、怪我をさせてしまって申し訳ない。弾は貫通していたが銃創からの出血が酷くてね・・・幸いにも君の居た世界の病院から持って来た輸血パックがあったからそれで輸血をした。それから薬も君の世界の物を使ったから治りも早いと思う」
川村が女の子に話すと彼女は感極まったのか、表情がみるみるうちに崩れ、目から大粒の涙を流して泣き出した。
「あああ、ゴメンゴメン、もちろん俺達は君に危害を加えるつもりは全く無いんだ・・・えーと、銃やナイフは持ってないよな・・・よし、ここへ座る事ができるか?」
川村に促され、彼女はゆっくりと起き上がる。撃たれた脇腹が痛そうだ。傍に居た吉野が彼女を介抱しながら椅子に座らせた。
「大丈夫?傷は痛い?痛かったら遠慮しないで言ってね」
「ありがとう・・・」
吉野の言葉に、彼女はほんの少しだけ笑顔を見せた。
「じゃあ、君の名前と年齢を聞かせてくれるかな?」
「名前は・・・美空ひばり・・・です」
「「「「えーーーーーーっ!!!」」」」
全員が一斉に驚き、声をあげる。
いや、美空ひばりって・・・お嬢かよ!
そう言えば、爺ちゃんから美空ひばりのCDをmp3にしてUSBメモリーに入れてくれって頼まれた事があったなあ・・・
「え?・・・」
彼女も彼女で俺達の反応に驚いた様子だ。ま、そりゃそうだ。
「美空・・・ひばり、さんだね・・・なかなかいい名前だね。ハハハ・・・で、歳はいくつかな?」
「来月で20歳になります・・・」
俺は院長先生が話してくれたあの世界の日本の事を思い出した。あの世界の日本では国民全員に男女関係なく兵役義務があり、大学進学をしない者は高校を卒業するとすぐに徴兵されて軍隊に行かなければならない。確か徴兵期間は4年か5年だったかと。
「そうか・・・まだ新米の兵隊さんだね。で、その新米兵士の君がなぜこの艦に居たのかな?」
「あの・・・私達の部隊はこの船の調査をしていて、私は船内通路の見取り図を書くためにそこの通路に居たんですけど・・・皆さんが来たから横のパネルの中に隠れていて、それで・・・パネルの隙間から逃げる隙を窺っていたんですけど、銃を持った見張りの人がずっとドアの前に立ってて出られなくて・・・でもしばらくしたら見張りの人が床に座ったから逃げようと思って、でも見つかっちゃって、私、撃たれる!って思っちゃって、咄嗟に発砲しちゃって・・・すみません、本当にごめんなさい、うぇ~ん!!!!」
彼女はまた感情がいっぱいいっぱいになって泣き出してしまった。まだ去年まで高校に通っていた19歳の女の子だ。しっかりしていろと言う方に無理がある。
「そうかそうか、うん分かった分かった、泣かなくてもいいから、ね、おじさんたちは君をいじめてるワケじゃないんだ、色々聞いておかないとさ、困るしね、ね!だから泣かないでね!大丈夫だから、ね!あ、お腹空いてないかな?ノド渇いてない?・・・えーっと、美月、ちょっと冷蔵庫に中に何か飲み物あるだろ?持ってきてくれないかな?」
「はーい」
川村が迷子を保護した警官みたいな感じになっている。こんなにあたふたしている川村を見るのは初めてだ。何かちょっと微笑ましい。
彼女は美月が持って来た水のボトルを受け取ると、ものすごい勢いで飲み干した。相当ノドが渇いていたんだろう。
「脇腹、痛いでしょう?ゴメンね、私、小銃なんて撃った事なかったから・・・でも死ななくて良かったな、本当にゴメンね」
吉野が申し訳なさそうに彼女に謝っている。屈強な兵士ならまだしも、こんなあどけない女の子を撃ってしまったんだ。もし俺だったら罪悪感でたまらないだろう。
「あの・・・あの人・・・私が撃っちゃったんですよね」
彼女は俺の方を見てポツリとつぶやいた。
「うえぇ~~ん、ごめんなさいごめんなさい!わ、私、銃なんてあまり訓練してなくて、あの時どうしたらいいかわかななくななななぁぁぁぁぁ~うえ~~ん!」
またまた泣き出してしまった。泣き出す彼女の横であたふたする川村。彼女を抱きしめて頭を撫でる吉野。
「だいじょーぶだいじょーぶ!気にすること無いって!この人今まで何回も撃たれたり刺されたりしてるけど全然へーきだからさ、今回もケツ撃たれただけだから全然オッケー、問題無い!ひゃはははは!」
「凛子!人を何だと思ってるんだよ!俺だって銃で撃たれりゃそれなりに痛いし、キツイんだぞ!」
「あああ、やっぱり痛いんですねぇぇぇ、ごめんなさいごめんなさいうぇぇぇ~~ん!!!」
「あーーーっ、飯田っち!泣かした!飯田っちがこんなカワイイ子をなーかーしーたー!」
「おいおい、あんまり泣くとまた出血するぞ、吉野さん、彼女を仮眠室に連れて行って寝かせてやってくれないか?それからもう一度傷口の具合も診てやってくれ」
「わかりました、じゃ、あっちの部屋に行こうね、歩けるかな?」
「はい、すみません・・・」
吉野と共に、彼女は仮眠室に入って行った。
「でもやっぱりあっちの世界の人間なんだな、あんなに出血して輸血までしたのにもう自力で歩けるほど回復してるなんてな・・・ひばりちゃんねぇ・・・名前はちょっとアレだが、初々しくてかわいいねぇ」
田島が無精ひげの伸びた顎を触りながらつぶやくと、凛子が待ってましたとばかりに突っかかる。
「あーーっ!田島さんっ!何言ってんですか!この脳筋ロリコン!本当に若い子が好きなんだから!」
「別にロリコンじゃねぇよ、だってひばりちゃんカワイイじゃん。あんな子を軍隊に入れて銃持たせるなんて、本当にけしからんな!」
「けしからんのは田島さんです!ったく・・・帰ったら奥さんに言いつけるからね!」
「またそれかよ・・・はいはい、わっかりましたぁー」
異世界から彼女の世界に来てしまった俺達が、今度は彼女を連れて過去へ来てしまった・・・このややこしい話をどうやって彼女に説明するんだろう。
説明して彼女が理解したとしても、彼女はそれを受け入れる事が出来るのだろうか?
異世界の人間といきなり過去へ飛ばされたなんて、すぐに納得できるわけが無いよな・・・
「あの、川村さん」
「ん?何だ?」
「彼女の事も含めて、俺達これからどうなっちゃうんでしょうか?」
「そうだな・・・彼女の事はちょっと厄介だな。いずれにせよこの状況を説明して、彼女がそれを聞いてどう思うかだな。それから俺達が今居る場所だが、多分昨日まで居た世界、ひばりちゃんの世界の過去に来てしまったんだと思う。原因は例の磁気発生装置のトラブルだと思うが、それはこれから石田君と共に原因を調べて何とかすると・・・是が非でも装置を直さないと帰れないからな」
「じゃあ磁気発生装置が直るまでここに居なきゃならないって事ですよね?」
「まあそうなるな。そこでちょっと問題があってな・・・食料なんだが、元々この艦に積んでいた食料、と言っても戦闘食糧と院長先生の病院から持って来た米や缶詰だがな、この人数だと一週間分あるか無いかって感じなんだ。修理がすぐに済めば問題無いが、恐らく原因究明するだけでもう少し掛かりそうな気がする。となると、どこかで食料を調達せにゃならん」
「つーことは、上陸して食料を探さなきゃならないって事ですか?」
「そうだ」
「でもココって、幕末の鹿児島ですよね?俺達がいきなりこんな船でこんな格好で上陸したらマズくないですか?」
「確かにその通りだ。そこで、この薩英戦争がカギになる。・・・石田君が言っていたように、この後イギリス艦によって町が砲撃されるだろ?それをこの艦の武力で阻止すると。この狭い鹿児島湾の中での出来事だ、俺達がイギリス艦を攻撃するのが沿岸からも、薩摩藩の船からも良く見える筈だ。いきなり現れた得体の知れないでっかい船が一瞬でイギリス艦を火だるまにしたら、そりゃもう大騒ぎになるに違いない。すぐに薩摩藩の使いがこの船に差し向けられるだろう。そこで食料の調達交渉を行う。俺達はイギリス艦から町を守ってやったんだ、米の一俵や二俵くれてやったって安いもんだろ?」
石田が川村にイギリス艦への攻撃を提案した時、恐らく川村はこの食料の問題を考えたうえで攻撃を決断したのだろう。
そうこうしている内に吉野が仮眠室から出てきた。
「吉野さん、どうだった?彼女の様子は」
「はい、もう大丈夫みたいです。傷口ももう完全に出血が止まって、明日には抜糸できそうですね」
「さすが、あっちの世界の人間だな。俺達に比べて回復が超人的だ。あと、彼女と何か話したかな?」
「はい、ちょっと話をしたんですけど・・・彼女って戦争孤児らしいんですよ。彼女の世界では15年前に朝鮮戦争があって、それに彼女のご両親も予備役で招集されて二人とも亡くなったらしいです。それから彼女は施設に預けられて、まあここからはありがちな不遇な女の子の物語って感じみたいですが・・・その預けられた施設でもあまりいい思い出は無かったようですね」
「戦争孤児か・・・俺達の世界の日本では考えられんな・・・それ以外に何か話した?」
「えーと、ざっくりと、本当にざっくりとですが私達がどこから来たか、なぜここに居るのかを簡単に説明しました」
「で、彼女の反応は?」
「それがですね、また泣き出すかと思ったんですが意外にケロッとしていて”ふーん”って感じでした。私もちょっとビックリしたんですけど」
「そうか、吉野さんありがとう。それから今後は君が彼女の面倒を見てやってもらえると助かるんだが・・・」
「はい!了解しました。任せてください!じゃあ私は彼女の包帯を交換する用意してきます!」
何だか心なしか吉野の様子が嬉しそうに感じる。
「ね、ね、飯田っち」
「何だよ、凛子」
「なんかさぁ、ヨッシー嬉しそうじゃない?」
「うん、俺もそう思った」
「ヨッシーカワイイ子好きだもんねー。ひばりちゃんってさ、雰囲気が美月にちょっと似てない?」
「ああ、そう言えばそうかもね」
「あ、飯田っち、ひょっとして今度はあの子狙ってたりするんでしょ?」
「お前なぁ、こんな状況で何言ってんだよ!んなワケあるかよ。こんな状況でそんな事考えられるメンタルが俺にあったら、俺は俺を褒めてやりたいよ」
確かに彼女は雰囲気が美月にちょっと似てるかもしれない。色白で華奢でフワッとしていて泣き虫で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます