第41話 三人娘

「あれぇ~、二人ともここで何してるんですかぁ?」


後ろを振り返ると美月が立っていた。


「また私、凛子さんの時みたいに仲間ハズレなんですかぁ?」


美月は両手を腰に当てながら、ちょっと口を尖がらせている。


「わぁ~、美月ちゃん、来たんだぁ!」


吉野は俺と話していた時とは打って変わってパッと明るい表情になった。何か納得できんなあ・・・


「吉野さんも眠れなかったんですかぁ?私の部屋、窓開けてても風が入らないから今夜は暑くて暑くて・・・・・屋上は風が吹いてて気持ちいですね。来て大正解だぁ!」


美月はタンクトップの胸のあたりを右手でパタパタさせながら、左手に持ったタオルで額の汗を拭っている。

えっ!?美月さん、ひょっとして君、ノーブラ?


「美月ちゃんってホントにカワイイなぁ~。華奢なのに出てるトコは出てて、色白で肌もきれいだし髪もふわふわで・・・私なんか毎日外でバイクばかり乗ってるから肌荒れとか酷くて・・・」


「え~っ、そんなこと無いですよー、吉野さんだって美人さんじゃないですか!ね、飯田さんっ!」


「え?あ、ああ、そ、そうだね、吉野さん、び、美人さんだよね」


「ん?飯田さん、なんでどもってるの?あ~、吉野さんがいつもと違って今日は髪下ろしてて色っぽいから、それ見てドキドキしてるんでしょ!いつもながら分かりやすいなぁ、飯田さん!」


違う!キミがノーブラでそんなふうに服をパタパタさせてるから、目のやり場に困ってるんだよ!こら、こっち向くな!いや、向いて欲しいけど。

その横で、俺と美月を見ながら吉野がニヤニヤしている。


「美月ちゃん、あのね、飯田さんはね・・・えっと、美月ちゃん、今日は下着付けてない、よね?」


「え?下着?・・・あ、ブラ着けてないや・・・」


今頃気づいたのかよ・・・。

だからキミは天然って言われるんだよ。


「あ~~~っ!飯田さん、ひょっとして私の胸、ジロジロ見てたでしょ!」


「じ、じ、ジロジロなんて見てないぞ!チラ見だ、チラ見」


「やっぱり見てたんじゃないですかぁ・・・まあいいや、飯田さんにはもうハダカ見られちゃったし、素っ裸で膝枕までしちゃったしなー」


うわ、み、美月、吉野さんの前で何てこと言い出すんだよ!

つーか、その言い方だと俺が変態みたいじゃないか!


「え?、二人とも何があったんですか?ハダカ見られちゃった?全裸で膝枕?ななな何ですか?ソレ?」


吉野がドン引きしながら俺と美月を交互に見つめている。そりゃビックリするわ。


「いやぁ、あの・・・ちょ、ちょ、ちょっと特殊な状況で・・・何て説明したらいいか・・・ハハハ」


「ふーん、特殊な状況ですか・・・ふーん」


ほら!吉野さんが疑ってるじゃんか!

美月!何で余計な事言うのよ。


「おーい!キミ達!こんな時間にナニしてるんだぁー!」


声のした方を振り向くと、今度は凛子がニヤニヤしながらこちらへ歩いて来る。


「あーっ、凛子さんも眠れなかったんですかぁ!私も眠れなくて屋上へ来てみたら、飯田さんと吉野さんも眠れなくてココへ来たんだって!」


「私の部屋、この真下なんだよね。三人がヒソヒソ話してる声が聞こえて来たからねー」


そうか、凛子の部屋はこの真下なんだ。俺達の部屋にはエアコンが無いからこの時期は夜と言えども窓は全開だし、それじゃどうしたって聞こえるよな。


「あれ?美月ブラ着けてないじゃん!でもいいなあ美月は胸あって。私なんてペッタンコだからね」


「凛子さん、別にペッタンコじゃないじゃないですかぁ。背高くてスタイルいいし、羨ましいですよー、ねえ吉野さん」


「うんうん、凛子さんてスタイルめちゃめちゃいいよねー、モデルさんみたい!」


「えー、そうかなあ?運動ばっかしてるから太らないだけだよ。ヨッシーだって太過ぎず細過ぎず、理想的な体型だと思うけどなあ」


なに君ら三人で褒め合ってんだよ。

ひょっとして心の中では『でも私が一番だからー』とか思ってんだろ!おー怖い怖い。

女三人集まると怖いわー。


「でもさー、なんで美月ブラしてないの?」


「あ、えーとですね、今晩は暑くて眠れなくて、屋上に涼みに行ってもたぶん誰も居ないかなーって思って。だったらノーブラでもいいかなーって。暑いし。あはは」


「ふーん、アンタ大胆だねー。ちなみにさ、美月って、胸何カップなの?」


「えっ?ブラですかぁ?えーと、Fですけど・・・」


「F!今『えふ』って言った!?ねぇヨッシー、Fだって!美月Fカップだって!」


「大きいですね・・・」


「ね、ね、スゴイよね!いいなあ、F!ちなみにヨッシーは?」


「私は・・・Dですけど」


「D!でぃーですかあ!もう十分巨乳やん!うわー、二人ともいいモノ持ってて・・・あたしゃ羨ましいよ・・・」


「凛子さんは・・・どれくらいなんですか?」


「え?私にソレ聞く?巨乳のあなた達が私にソレを聞く!・・・・・あたしゃ・・・寄せて上げて盛りに盛ったBだよ・・・」


「凛子さん知ってます?日本人女性の平均カップってBなんですよ!だからそんなに気にする事ないですよぉ!」


「えっ?そうなの美月?本当なの、それ?」


「ウソです」


「ちょっと!美月!あんたの胸、凛子姉さんにちょっと触らせてみ!前から触ってみたいと思ってたんだよねー、ね、いいでしょ?」


「え!?別にいいですけど・・・」


「あーっ、凛子さんだけズルイですよー!ヨッシー姉さんにもちょっと触らせてよー」


「あはは、いいですよー」


「「うわー!プニプニしてて気持ちイイー!!」」


「飯田っちも触ってみる?」


「はい!」


「「「ダメーーーーー!!!!」」」


「なに調子こいてんの!このスケベ!変態!」

「強制わいせつ罪で逮捕しますよ」

「飯田さんが興味あるのって私の胸だけなんでしょ!」


そ、そんな・・・あんまりだ・・・


「ちなみにさ、私がここへ来る前、飯田っちと美月と吉野さん、三人で何話してたの?」


「あー、私が来たのも凛子さんが来るちょっと前だったんですよー。飯田さんと吉野さん、二人で何話してたんですかぁ?」


「あー、えーと、吉野さんのね、身の上話と言うか、その、まあ、アレだ・・・」


何で女子の方が好きなんですかって聞いてたなんて、ちょっと言いにくいなぁ・・・


「えーとですね、私が何で女性を好きなのかって言う話ですよー」


吉野さん、あっけらかんとしてるなあ。こっちが気を遣ってるのになあ・・・


「あー!それそれ、何でですかぁ?私も聞きたい!何で?何で女の子の方が好きなんですかぁ?」」


美月さんよ、キミも違う意味であっけらかんとしてるな。


「飯田さんにはちょっと詳しく話したんですけど・・・私、小さい時から女の子の方が好きだったんですよね。それが普通だと思ってたんですけど・・・でね、私の家って両親が車好きで、子供にレースをさせてたんですよ。私も小さい頃からカートとか乗ってて。で、色々あって同じカート場に来ていた女の子に助けてもらったことがあって、それで私、その子の事が好きになっちゃって・・・その子がバイク乗り始めたから私もバイクに乗り始めて、で、その子が大学生の時にトラックに煽られて事故って亡くなっちゃったんです。私そのトラックの運転手が許せなくて、警官になって悪質なドライバーをばんばん捕まえてやる!って思って警官になったんです。まぁ、端折って話すとこんな感じです」


「ふーん、そうなんだ。そう言えばこの前に飯田っちとここで話した時、私の事は色々話したじゃん、付き合った男、全員ダメ男だとか」


「あー、そう言えば、私も飯田さんと初めて屋上で会った時に私の事色々話しましたよね、父の仕事の関係で外国で暮らしてたとか」


「飯田っちさぁ、私も美月も吉野さんも身の上話したのに、アンタ自分の事全然話してくれないじゃん」


「そうですよー、飯田さんだけ自分の事言わないのズルイですよー」


いや、そう言われても、そんな面白い話は無いしなぁ。

基本的にずっとダメ人間だから。


「うーん、俺って今まで大した人生送ってきてないしなぁ・・・別に聞いて面白い話なんか無いよ」


「そんな事、話してみなきゃ分かんないじゃないですかぁ!」


「そうだよ、飯田っちって元の世界でどんなヤツだったのさ!」


いや、ホントに面白いエピソードなんか無いんだけどな・・・俺って平凡を絵に描いたような人生だし・・・


「じゃあ取り合えず話すけど・・・オヤジは普通の会社員、オフクロは社会保険事務所のパートで・・・兄弟は無し。1人っ子。だから小さい頃から結構甘やかされて育ったんだ。でもウチは裕福な家庭じゃなかったから贅沢した記憶は無いんだけどさ・・・小中高校と地元の公立学校に行って、大学は東京の三流大学。新卒で小さな広告代理店に就職してうだつの上がらないダメサラリーマンとして現在に至る。以上」


「ふーん・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」


ほらほらほら、反応薄いじゃねーか!

微妙な空気になっちゃったじゃんか!

だから言ったのよ、面白くないって・・・

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