第39話 朝倉
「遅かったじゃないですかー!死ぬほど心配しましたよーっ!」
朝倉を連れて雑木林の茂みから出てきた俺達を見つけると、凛子がイーグルから叫びながら飛び出してきた。
大谷はすぐさまイーグルのRWS席に座り、無線のスイッチを入れる。
「こちらイーグル、感明送れ」
「こちら川村だ、感明よし、どうした!遅かったじゃないか!」
「すいません、ちょっと手こずっちゃいまして・・・パイロットは同行してくれます。すぐに帰投します」
「そうか!待ってるぞ!」
帰りのイーグルの車内、俺と凛子が後部荷台の座席に並んで座り、その向かいに朝倉が座っている。右腕が痛そうだ。
「あの・・・朝倉さん・・・ホント、すみませんでしたっ!」
俺は朝倉に頭を下げて謝った。自衛隊のパイロットだもんなぁ、怒ってるだろうなぁ、怖いなあ・・・
「キミも海上自衛官か?」
下を向いていた朝倉が上目遣いに俺を見ながら低い声でつぶやく。鋭い眼差しだ。怖い・・・
「あの、僕は自衛官とかじゃなくて・・・えー、普通の一般人です」
「えっ!?本当?自衛官じゃないの?一般人なの?」
「はい・・・バリバリ普通のサラリーマンです」
「ホントか?ホントにホントのサラリーマンなの?」
「ホントにホントのサラリーマンです、しかもダメな方の」
「さっき俺を倒した時、ものすごいスピードとパワーだったぞ!昔から格闘技とかやってたの?」
「はぁ、ここ一ヶ月ほど・・・」
「い、一ヶ月?」
「あ、いや、その・・・何て説明したら・・・」
「朝倉さん、彼は自衛官じゃないです。彼が強いのはちょっと理由がありまして・・・まあその件も追々説明しますから」
俺と朝倉の会話を聞いていた大谷がすかさずフォローしてくれた。
イーグルはまったく人気のない夜の奥多摩をひた走る。あと数分で病院の建物が見えて来るはずだ。
吉野が運転するイーグルは病院の裏口を抜けると、地下駐車場へ滑り込んでいく。
地下駐車場の奥では川村、田島、美月が俺達の帰りを待っていた。
「ただいま帰りましたー、あー疲れたー!喉乾いたー、美月ー、水、水!」
凛子が一目散にイーグルから降りて美月に水をねだっている。疲れたって・・・アンタ何もしてないでしょうが。
「朝倉さん、この車、荷台が高くて降りるの大変ですから・・・俺が手伝いますよ」
朝倉に怪我をさせてしまった負い目がある俺は何だか申し訳なくなって、朝倉が車を降りるのを手伝った。
「ああ、すまんね、よっこらしょっと・・・」
朝倉がイーグルから降りたその時だった。
「あーさーくーらぁぁぁー!」
田島の声だ。朝倉の姿を見た田島は速足でこちらに歩み寄ると朝倉の前に立った。
「朝倉ー!お前朝倉だよな!マジで朝倉だよなっ!お前ナニしてんだ、こんなところで!」
「お前・・・た、田島か!?お前こそ何でここに居るんだよ?」
なにコレ?
「あのー、お二人はお知り合いなんですか?」
「ああ!防衛大で同期だったんだ!」
そう言う事だったのか。まさかの偶然だが、これで朝倉も俺達の事を少しは信用してくれるだろう。
「よーし、それじゃあみんな、ご苦労だった。田島は朝倉さんを院長先生のとこへ案内してくれ。すぐに手当してもらえるよう頼んであるからな。他の者は会議室へ集合だ」
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「飯田っち、飯田っち」
俺の右隣りに座っている凛子が肘でつついて来る。
俺達は会議室に集合し、朝倉が院長先生の治療を終えて戻って来るのを待っていた。
「何だよ、凛子」
「朝倉さんってさ、あの戦闘機に乗ってた人なんでしょ?」
「ああ、そうだよ、航空自衛隊のパイロットだよ」
「何だかさー、田島さんに似てない?」
そう言われてみると両名とも背が低めでガッチリとした体型をしている。確かに戦闘機のパイロットと言うよりか、魚市場の仲買人って感じだ。
「戦闘機のパイロットってさあ、もっとこう、カッコイイ感じの人だと思ってたよ、あれじゃ田島二号だよね」
「あ、凛子お前失礼なコト言うなあ、まだ初対面じゃんか」
「なんで!失礼ってなによ!田島二号って言って失礼だって事は、田島さんをディスってるのと同じじゃん!飯田っち失礼だなあ、田島さんに!」
「いやいやいや、そもそも凛子が戦闘機のパイロットはもっとカッコイイ人云々って言い出したんじゃん・・・まあ確かに戦闘機のパイロットって言われてもそんな感じしないけど」
「でしょー!でしょでしょー!戦闘機のパイロットって言ったらさあ、トップガンのトムクルーズとかさ、あーゆー感じじゃん。背が高くてキリっとしたイケメンじゃん!普段は物静かでさ、ひとりでコーヒーとか飲んでてさ、いざ出撃とかなると颯爽とヘルメット抱えて出て行くみたいな・・・あーあ、そんなのを期待してたのになぁ・・・田島さんと同期って事は・・・オッサンやん!めちゃめちゃオッサンやん!」
「お前、良く喋るな・・・戦闘機のパイロットがオッサンだっていいじゃんか。だって朝倉さんが乗ってたのはF-35だぞ。F-35って言ったらまだ日本に数十機しかない最新機種だぞ。それに乗れるって事は、朝倉さんってかなりのエリートだぞ、きっと」
「だったら尚更カッコイイ人が乗ってなきゃダメじゃん!フェラーリにぶよぶよのオタクが乗ってたって絵にならないでしょ!そんなにスゴイ飛行機だったらそれに似合う人が乗ってこそってもんだ!ダメだなあ防衛省。税金はもっとちゃんと使って欲しいわ」
「自衛隊はアイドルグループじゃないんだよ」
「あ、それいいねー!日本を守るアイドル!作ってくんないかなー、ねーねー、ヨッシーはどう思う?」
「私、男性には興味ないので」
ドアが開いて田島と朝倉が入って来た。首に掛けた包帯で吊られた朝倉の右手はギプスで固められている。俺は申し訳ない気持ちでちょっと凹んだ。
「みんな、こちらが航空自衛隊の朝倉さんだ。よろしく頼む」
川村から紹介されると、朝倉はちょっと照れながらペコリと頭を下げた。
「じゃあこれから朝倉さんに俺達の事やこの世界の事、これからの事を説明する。新しい転送者が来た時のいつものヤツだな。皆からも何かあったら補足説明してくれ」
川村が朝倉にこの世界の事や俺達の現状、元の世界に帰ろうとしている事などを説明した。
朝倉は終始無言で川村の説明に聞き入っている。
「・・・と言う訳だ。朝倉さん、この話を信じるも信じないもあなた次第ですが・・・もし納得できないのならここから去っていただいても構いません。必要ならF-35が着陸した場所までお送りします。どうなさいますか?」
「そうですねぇ・・・あまりにも現実離れしていて頭の中が混乱してるのですが・・・まぁ、このクソ真面目な田島が自分を騙してるとも思えませんし・・・」
朝倉がそう言いながら田島の方をチラっと見ると、それまでじっとテーブルを見つめていた田島がほんの少し顔を上げてニヤッと笑った。
「分かりました、自分も協力させていただきます」
また新しい仲間が加わった。
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