第32話 美月救出作戦 Phase6
------- 静岡警察試験研究センター研究棟 1階ロビー --------
美月の身体を支えながら階段を昇り、俺達はやっとの事で1階ロビーへ到着した。
ガラス越しに見える施設の中庭ではイーグルが走りながら砲塔上部の機関銃を乱射しているのが見える。
向かい側の建物や施設の奥の方から兵士が走りながらイーグルに向かって発砲しているが、片っ端からイーグルの機銃掃射でバタバタと倒れている。
俺はポケットからトランシーバーを取り出し、もう一度通話を試みた。
「こちら月光!こちら月光!美月確保!現在正面向かって左側の建物1階ロビー!」
「こちらイーグル!感明良し!10秒後に建物入口を掃射する、どこか物陰に隠れてろ!!」
イーグルのヘッドライトが旋回し、こちらに向きを変えて走って来るのが見える。
えっ!?10秒!?うわー、どこに隠れるんだよ!そんなんいきなり言われたって!!
「キャッ!!!!」
後ろで美月が短く悲鳴を上げた。
ハッとして振り向くと、美月が男に後ろから銃を突きつけられている。この男は・・・スタンガンで気絶させて階段の下に転がしておいた見張り役の兵士だ!何て事だ!もっとしっかり縛っておけば・・・
マズい、機銃掃射まであと数秒しかない!掃射を中止してもらわないと!
トランシーバーのスイッチを押そうとした時、男が俺の腕を蹴り上げた。その衝撃でトランシーバーは俺の手から放れ、地下へ続く階段の下へ転がり落ちて行った。
正面のガラス越しに見えるイーグルのヘッドライトの光がみるみる大きくなって来る。
もうだめだ、間に合わない!
「美月っ!伏せろっ!」
俺は思いっきり叫ぶと美月に飛び掛かり、そのまま床に倒れこんだ。と同時に眩い閃光と機関銃掃射の炸裂音が鳴り響き、ロビーのガラスが一斉に弾け飛んだ。
7.5mm機関銃弾はロビーのカウンターやソファーをズタズタに切り裂き、美月の背後で銃を突き付けて立っていた兵士もその餌食になった。
美月に覆いかぶさるように床に倒れこんでいる俺の背中スレスレに、ヒュンヒュンと音を立てながら銃弾が飛んでいくのがハッキリと感じられる。
機銃掃射はほんの4~5秒だったと思うが、まったく生きた心地がしなかった。
「美月、だ、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ、飯田さんは?」
「俺は・・・取り合えず大丈夫、かな。身体中色んなとこが痛いから良く分かんないや」
「あはは、私も!・・・また助けてもらっちゃった、ありがと!」
そう言うと美月は俺の頬にチュッと小さくキスをした。
こんな状況なのに、キミは余裕あるなあ・・・
「おい!飯田君、美月、大丈夫かっ!」
機銃掃射で舞い上がった埃と煙の中に川村が立っている。
「川村さんっ!10秒とかいきなり言われたって困りますよ!あと1秒早かったら俺達も穴だらけでしたよ!」
「おー、スマン!次回は15秒にしたほうがいいな」
「いや、そうじゃなくて・・・」
「いいから早く車に乗れ!すぐに脱出するぞ!」
俺と美月はイーグルの後部扉から車内に乗り込んだ。大谷が操作する機関銃が休む暇も無く炸裂音を発している。
「お帰りっ!お二人さん!じゃあ帰るぞ!」
田島はアクセルを目いっぱい踏み込み、イーグルを急発進させた。
「ちょっと衝撃が来るからな、しっかり捉まっててくれ!」
破壊された施設入り口ゲートの前に軍用車が2台、バリケードのように塞いでいる。
ガコッっと言う音と共にイーグルの車体が激しく揺れ、金属がこすれるギギギと言う音が車体前方から後方へ走っていく。
「よし、大谷!発煙弾!」
「了!」
イーグルの砲塔後部に設置された擲弾発射機から発煙弾が発射されると、後方で白リンによる白いスモークがもくもくと膨らむのが見えた。
やっと終わった・・・
何とか美月を救出することが出来た。
だが・・・
俺の頭に断末魔の山下の顔が浮かぶ。
飛び出しそうに見開いた目、肉を引き裂く指先の感触、噴き出す血しぶき・・・
人を殺した。
俺は人を殺してしまった。
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