第27話 美月救出作戦 Phase1

「そうですね、今の山下の髪形はもう少し短い感じですね、えーと、耳に掛からない感じで・・・そうそう、そんな感じです」

森本のベッドの横で吉野が俺の髪を切る。そう言えばかれこれ3ヶ月くらい床屋へ行ってないな。山下新之助は今の俺の髪型より全然すっきりした髪型だ。


「それから、山下は監視の兵士にかなり乱暴な口のきき方をしていまして、たとえば拷問中に喉が渇くと入口に居る兵士を呼びつけて飲み物を持ってくるように命令していました。飲み物の到着が遅いと”てめぇ、なにチンタラやってんだ!次も遅れたらぶっ殺すぞ!" とか兵士に向かって大声で怒鳴ったり・・・。とにかく”ぶっ殺す”と言うのが口癖で、すぐに切れるので兵士達もビビッてましたね・・・後は・・・あっ、そうだ、山下は歩くときにいつも両手をズボンのポケットに入れてましたね」


へぇー、テレビで見たときは物腰の柔らかな好青年って感じだったけどなあ・・・。人って分からないものだ。

吉野が俺の髪を整え終えると川村が戻って来た。


「飯田君、この銃を持って行ってくれ。と言ってもハダカで持っていくワケにも行かんしな、少々煩わしいが背中にガムテープで貼り付ける事にしよう。それからこのスタンガンだ。服の上からでも効果はあるが、出来れば肌に直接食らわせた方が効き目がある。それからこのサバイバルナイフも持って行ってくれ。これは右足の脛にテープで貼り付けておこう」


川村はスタンガンとナイフをベッドわきのテーブルに置くと、俺の服の背中を持ち上げ、ガムテープでSIG SAUER P226拳銃を貼り付ける。背中に冷たい金属の感触が伝わって来ると、これから始まる事は現実なのだと言い聞かされているような気がした。


病院地下の車庫の一角、ベニヤ板で仕切られたその中には空母から脱出した時に乗って来た装甲車のイーグルが佇んでいた。

今回は追っ手を振り切るため、いつも使用している病院のワゴン車ではなく、このイーグルで美月の救出に向かう。

イーグルは7.5mm機関銃MG51/71が車体上部砲塔の右側面に外部搭載されており、車内から射撃操作やベルト弾帯の交換を行えるようになっている。また、砲塔後部に6基の76mm擲弾発射機が装備されており、この擲弾発射機からは煙幕弾や対人擲弾を発射できる。


俺と川村が地下車庫へ降りて行くと、田島と大谷がイーグルの脇で腕を後ろ手に組んで立っていた。凛子はその横でなぜかストレッチをしている。


「おい凛子、お前何やってんだ?」

川村が怪訝な顔で凛子に問いかける。


「だって何だか落ち着かなくて・・・身体動かしてないとソワソワしちゃうんですよ!」


「変なヤツだな・・・まあいいか、田島、大谷、弾薬と燃料は問題無いか?」


「はい!問題ありません!」


「飯田君、心の準備はオッケーか?」


「はい、覚悟はできてます」


「よし、行くぞ!」


「あっ、飯田っち、ちょっと待って!」


イーグルの後部ステップに足を掛けた時、俺は凛子に呼び止められた。


「飯田っち、必ず美月を連れて帰って来てね、これ、おまじない」


凛子はそう言うと俺の左頬にチュッとキスをした。


「あー、何で飯田ばっかり!凛子ちゃん俺にはしてくんないの?それ!」


運転席の窓から田島が顔を出し、笑いながら文句を言う。


すると凛子は田島の元へ近づき、田島の頭をポンポンと叩く。


「はーい、田島さんもがんばってくださいねー、戦闘中にエッチな事とか考えちゃダメですよー、奥さんに言いつけちゃいますよー」


「おい、何だよそれ、お前も美月も・・・ったく」


「あ、田島さん、美月にもお説教されたんですかぁ?」


「うっせぇよ、じゃ、行って来るわ」


時刻は22時6分、俺と川村、田島、大谷の4人を乗せたイーグルは、美月が囚われているであろう静岡の静岡警察試験研究センターへ向かって走り出した。

夜空には上弦の月が雲の切れ間に見え隠れしていた。

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