第25話 美月の行方

救出された2人を病室に運び込み、麻酔入り点滴を通常の点滴に交換した。

両足切断されている方が2本ある空母のマスターキーの1本を持っていた自衛官の森本、もう片方の脊椎損傷している方が空母の制御プログラムを管理している八島重工業の石田だ。

2人の意識が戻り次第、情報を聞き出すことになっているが・・・俺はどうしても心の中のざわつきが抑えられず、気分転換に屋上へ出ることにした。

ここから見える奥多摩の景色は本当にのんびりしていて、ほんの数時間前にあんな事をやっていたなんて信じられない気分だ。


「飯田っち」

凛子の声だ。


「飯田っち、大丈夫?」

「あ?うん、大丈夫だよ」

「昨日、あ、今日か・・・えっと、昨晩?あれ?まあいいや、大活躍だったね」

「いや、別に・・・でも美月が・・・」

「うん・・・」

「美月、いまどこに居るのかなあ?大丈夫かなあ?」

「うん・・・でも川村さんが助けた2人が絶対に何か情報を持っているはずだって言ってたし、まだ望みはあるよ。きっと美月だって無事だよ。だってあの子、いざとなるとすっごいシタタカだもん」

「はは、そうだね、あいついきなり大胆な行動するからなあ」


「凛子さーん、飯田さーん、集合ですって!」


吉野が屋上ドアを開けて呼んでいる。


俺と凛子は救出された2人がいる病室へ向かった。脊椎損傷の石田はまだ眠っているようだったが、森本は意識が戻ったようだ。

俺と凛子、そして川村ほか全員が森本のベッドの周りを囲んだ。


「森本三佐、気分はどうだ?俺だ、分かるか?」

「あ、はい・・・川村一佐・・・すみません、じ、自分は・・・」

「いや、謝らなくていい、やっとここに戻って来れたんだ、それでいいだろう?」

「はい・・・ありがとうございます」

「それでな、まだ身体がキツイかと思うが色々と聞きたい事があるんだ、すまんが今からいいか?」

「はい、大丈夫です」

森本は虚ろな目をしながらゆっくりと俺達の顔を確認する。

そして俺と目が合った時だった。


「あっ!山下っ!てめぇ何でここに!お、お前!!!」


突然森本が狼狽えて起き上がろうとする。それを川村が取り押さえる。


「落ち着け!落ち着け森本っ!彼は山下じゃない!顔はそっくりだが別人だ、落ち着け!」

「で、でも、山下だろ!てめぇ何してやがる!」

「違うんだ森本!後で説明してやるから、いいから落ち着け!」


森本は川村に言われてやっと静かになった。


「じゃあ、森本、まずお前と石田が行方不明になった日の事、覚えてるか?」

「はい、空母の状況偵察に行った日ですよね」

「あの日何があった?」

「あの日は・・・石田と2人で山中に残してきた空母の状況を確認しに行きました。午前4時半にここを出発して現地に到着したのは6時ちょっと前だったと思います。自分と石田は空母から約200mほど離れた山の斜面におりまして、ちょうど隠れるのに都合良い岩陰があったものですから・・・陽が昇って明るくなってきたので双眼鏡で空母の様子を確認しました。空母へ入る事の出来る船尾開口部の横に小さな小屋が設置されておりまして、その中に兵員が数名詰めているようでしたが、外で見張っているのは3名でした。甲板上にも小屋が設置されていて、そこにも数名の兵員が居るようでした。艦橋後ろの磁場発生装置のアンテナには損傷は見られず、排気塔からわずかに蒸気が出ていたので、自分達が最後に設定したままの状態で原子炉はアイドリング状態だと思います。空母には特に問題も無い様子でしたので帰ろうと思ったのですが、車に向かう途中の崖で石田が足を滑らせて転落してしまいました。自分が石田の元に辿り着いた時はすでに石田は敵兵に捕らえられており、その時に打ち合いになりまして・・・自分は至近距離から両足に連射を浴び、気が付いたらベッドに縛り付けられていた次第です。石田は崖から転落した時に背中を強く打ったらしく、あれ以来ずっと寝たきりです」


「大変だったな、それですぐにあの静岡共立病院に運ばれたのか?」


「はい、自分達が運び込まれて手術を受けたのは静岡共立病院です、あの病院で手術後一ヶ月ほど過ごし、次に他の施設へ移動しました」

「他の施設?場所は分かるか?」

「車で30分くらいの場所だったので、恐らく静岡共立病院からそれほど遠くない場所かと。ハッキリとした場所は分からないのですが、車から降ろされた時にチラっと外の様子が見えまして・・・施設の向かい側に「GFF57」と書かれた緑色の看板とレンガのような物で組んだ煙突が見えました」

「そうか・・・おい!大谷!院長先生に言って手がかりを探してもらってくれ、緑色の看板GFF57と煙突だ!」

「了」

川村に言われて大谷はすぐさま病室から出て行った。


「それで、施設に運ばれて何をされたんだ?」

「まず、自分たちの居場所を聞かれました。それからどこから来たのかとか、仲間は何人だとか、武器はどんな物があるのかとか、あとはあの空母に関する事ですね」

「そうか、もちろん人権に配慮した取り調べってワケじゃないだろ?」

「はい、もう初っ端から拷問に近い感じでしたね。自分は既に病院で両足を切断されてたのですが・・・その切断面を金槌で・・・」

「うっ・・・マジか・・・」


全員の顔が歪んだ。凛子にいたっては両手で顔を隠してプルプル震えている。


「でも安心してください、重要な事は一切喋ってません。あんなのレンジャーの最終試験に比べたら何てことないですよ、ははは・・・いや、やっぱキツかったかな」

「大変だったな。しかしよく耐えた。それで石田もやっぱり拷問されたのか?」

「石田はずっと意識が戻らなくて、自分も拷問で足の具合が悪くなったので再度静岡共立病院に戻されることになったんです。石田は病院で3回ほど手術を受けて、どうにか意識を取り戻したのが2日前でした」

「じゃあまだ石田は尋問や拷問を受けてないんだな?」

「そうですね、石田の意識が戻ったので、これからまたあの施設に戻されて・・・というタイミングで救出してもらえたんです」

「そうか、ギリギリのタイミングだったワケだ・・・それで、お前が所持していたもう一本のマスターキーだが、奴らの手にあるのか?」

「いえ、自分もそれだけは避けたいと思ってましたから、石田が滑り落ちた崖の岩の脇に咄嗟に差し込んでおきました。多分まだあそこに埋まっていると思います」

「おお!よくやった!さすが最年少で3佐へ昇進しただけの事はあるな」

「いえ、それよりも驚いた事があるんですが・・・自分たちが監禁されていた施設に、あの山下が居たんですよ!」

「山下って・・・さっきお前が騒いでいた山下か?・・・ん・・・山下? ひょっとしてその山下って、あの山下新之助か?ここに連れてきた後に失踪したタレントの?」

「そうなんですよ!あの山下です。しかもあいつは奴らとグル、いや、あっち側に付いていて自分を拷問すらしたんです」

「お、おい、マジかよ・・・」


俺達は互いに顔を見合わせた。どうりで俺の顔を見た途端に騒ぎ出すワケだ。


「山下はすっかり感じが変わってしまっていて、ここへ連れてきた時はオドオドしていて頼りない感じだったと思うんですが、それがもう、何て言うか「自分はいずれこの世界の頂点に立つ」みたいな事を言ってまして、かなり危ない感じで・・・記憶も変になっちゃってるようで、自分と石田の顔も覚えていないようでした」

「一体山下に何があったんだ?あいつ、自分から奴らの元へ行ったのか?それとも捕まって洗脳でもされたのか?・・・まあそんな事はどうでもいいが・・・実はな、森本、ここに居た美月って子覚えてるだろう?」

「あ、はい、水着で転送されて来た小学校の先生ですよね、よく覚えてますよ」

「そう、その美月がな、昨晩の作戦の際に奴らに捕まって拉致されたんだ。一刻も早く美月の居場所を掴んで救出しなきゃならん。森本よ、美月が連れて行かれたのは、お前と石田が監禁されていた施設だと思うか?」

「そうですね・・・自分はあそこと静岡共立病院以外には行かなかったので何とも言えませんが、あの施設に居る可能性が高いと思います」


俺の脳裏にグレーの車の後部座席でもがく美月の姿が浮かんだ。そしてその横には俺と同じ顔、山下新之助が乗っていたのだ。


「あの、俺が美月の乗った車を追いかけていた時、同じ車に俺と同じ顔の男が乗っているのを見たんですよ、あれってその山下新之助ですよね?だったらやっぱり美月は森本さん達が居た施設に連れて行かれたんじゃないですか?」


「えっ?飯田君、山下の姿を見たのか?美月と同じ車に乗ってた?となるとまずはその施設に連れて行かれた可能性が高いな。よし、美月が他の場所へ移動する前にその施設の場所を割り出して救出に向かうぞ!でだな、森本、その施設は軍の施設だと思うが、警備体制はどんな感じだ?」


「自分達が収容されていた部屋は窓が無くて外の様子は全く分からないんです。でも雰囲気は軍事施設と言うよりも病院や研究施設っぽい感じでしたね」


「そうか、このままじゃどんな施設かまったく見当がつかんな・・・だが、奴らにとって森本と石田を奪われた直後だからな、美月も囚われている事だし、警戒が厳重になっているのは間違い無いだろう。外側から急襲するのは難しいかもしれんな・・・」


「美月が、美月がそこに居るんでしょ!早くしないと何処かへ連れて行かれちゃうかもしれないじゃないですか!今こうしている間にも何をされているか・・・川村さん、田島さん、美月を助け出す方法って無いんですかっ!自衛隊でしょ!私達を守ってくれるのが自衛隊でしょっ!早く何とかしてくださいよっ!でないと美月が・・・」

凛子が目に涙を溜めながら訴える。分かっている。ここに居る全員が同じ気持ちだ。俺達は皆うつむいて黙り込んでしまった。

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