第24話 奪還作戦 Phase5
こちらの世界の車はエンジン出力が低いため、せいぜい80km/hくらいのスピードしか出すことが出来ない。しかも先ほど見た様子では乗車しているのは拉致された美月を含めて5名。あの車に5人も乗っていれば60km/hで走るのが精一杯だろう。必死で走れば追いつけるはずだ。
車は静岡共立病院西側100mにある中町の交差点を右折し、駿府城外堀脇の道へ入った。
約50mほど前方を走る美月を乗せた車を追い、俺はありったけの力を振り絞って走る。
もっと早く!もっと早く!
身体中から汗が噴き出てくる。心臓の鼓動が今まで経験したことも無いような速さで脈打ち、ありったけの酸素を要求する。
もうだめだ!もう走れない!いやまだだ!追いつくんだ!
俺は車との距離をジワジワ詰めていく。
車のリアウィンドウ越しに後部座席に乗せられた美月が抵抗して暴れているのが見えた。両脇に乗っているヤツが押さえつけようとしている。
美月の右側に居るヤツの顔がチラっと見えたが、俺はそいつの顔を見て愕然とした。
あの顔は・・・俺だ!!!!!
いや、そんなはずは無い、俺はここに居る!
そしてハッと気づいた。
あれは・・・あれは山下新之助だ! 俺がこちらの世界に来る前に転送されて来て、奥多摩の病院からある日突然失踪したタレントの山下新之助だ!
なぜ彼があの車に乗っている!?
そう思った瞬間、俺の左足に激痛が走った。と同時に足にまったく力が入らなくなり、俺は柔道の足払いを受けた時のように倒れ、その勢いで路上を数メートル転がり続けた。
左肩をしたたかに路上にぶつけ、鈍い痛みが上半身を駆け巡る。
俺は立ち上がろうとしたが、左足の膝が痛くて立ち上がる事が出来ない。
前を見ると美月を乗せた車のテールランプが小さくなっていき、ゆるいカーブの奥に消えて行った。
ちくしょう!ちくしょう!何で追いつけなかったんだ!何でだ!ちくしょう!
悔しかった。あとほんの数メートルだったのに。
「大丈夫か!」
「飯田っち、早く乗って!」
気が付くと1号車と2号車、それに田島の運転するトラックが俺の真横に停まっている。
凛子と吉野が車から降りて来て俺の両腕を掴み、半ば引きずるようにして2号車の後部座席へ引っ張ってくれた。
俺を乗せると2号車を運転している川村は車を急発進させた。
「飯田君、大丈夫か?打たれてないか?」
「大丈夫です、でも、美月が!」
「ああ、分かっている、全員の集合を待っている時に急襲されてしまった・・・」
「美月は、美月はどうなるんですかっ!」
「分からない・・・でもすぐに処分されたりはしないだろう。恐らくヤツらは美月を尋問して空母に関する情報を聞き出そうとするはずだ」
「でも美月は空母の事なんかなんも知らんじゃないですか!」
「そうだな・・・ってことは尋問とかじゃなく、拷問されると考えた方が正確かもしれんな」
「そんな・・・」
「だが、何としても美月を探して助け出す。今回救出した2人が何か知っているかもしれないしな、だからまずは奥多摩の病院に急ごう」
帰りの車内は皆無言だった。
川崎インターで東名高速を降りる頃には東の空が明るくなってきた。
俺達が奥多摩の病院へ到着したのは午前7時20分。
車を降りると初夏の風が頬を撫でた。
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