第19話 奪還作戦 出発
作戦当日は雨だった。
静清医療リネンサービスのトラックが静岡愛徳会病院を出るのが午前1時30分。それに間に合うように前日の20時30分に奥多摩を出発した。
俺の乗った2号車は1号車の後方約100mの距離を走っている。力素エンジンのこちらの世界の車はエアコンが付いていないため、車内はかなり蒸し暑かった。
運転席に川村、助手席に吉野、後部座席には俺と凛子。
全員が緊張しているのが伝わって来る。
「ねえ、飯田っち・・・」
凛子が俺の脇を肘で突きながら話しかけてきた。
「私、うまくやれるかな・・・」
いつも明るく元気な凛子にしては珍しく頼りない口調だ。
「大丈夫、なんとかなるよ、凛子スポーツ万能じゃん、きっと成功するって。そんでさ、みんなで帰るんだ」
「うん・・・あのね、私さ、昔からスポーツも勉強もそこそこ出来てね、行きたい大学へも行けたし、なりたかったスポーツインストラクターにもなれたし、今まであんまり失敗したことって無かったんだ。だから何か新しい事をするって時も不安に感じた事なんて無かったの。でも・・・今回はものすごく不安で、怖くて、うまくやれなかったらどうしようとか、私が失敗してみんなが帰れなくなったらどうしようとか考えちゃって・・・本当に怖いの。飯田っちは、怖い?」
「うん、そりゃ怖いよ。たぶん凛子と同じくらい怖がってると思う。だって俺達一般人じゃん、こんな経験した事ないしさ、怖くない方がどうかしてるよ。でもさ、怖いのは俺と凛子だけじゃないと思うよ。全然そんなふうに見えないけど川村さんだって田島さんだって多分それなりに怖いと思うよ、聞いてみよっか?あのー、川村さんっ、川村さんでもやっぱ怖いっすかー?」
雨の音がうるさくて、どうしても大きな声になってしまう。
「あー?なに?怖い?」
「あのすねー、僕と凛子って一般人じゃないですかー?だからこんな事慣れてなくて、ちょっとビビってるっつーか、怖いなーって。だから百戦錬磨の自衛官の川村さんとかはどうなのかなーって」
「あー、そうか、いや、俺も怖い怖い!すげー怖い!頭の中でシミュレーションするとドキドキするもん。それに自衛官つったって日本の自衛隊は本当の戦争した事無いしな。でもここでの俺達ってこっちの奴らと戦争してるみたいなもんじゃん、俺達だってこんな事経験無いからさ、そりゃ怖いよ。でもな、怖さがなきゃダメなんだよ。恐怖心があるから慎重になれるし、気が緩むことも無いんだ。怖くて当たり前!至って正常!問題無い!」
「あの・・・私から見たら、凛子さんも飯田さんも凄いなって・・・」
助手席の吉野がふいにつぶやく。
「私を助けてくれた時、飯田さんと凛子さんが装甲車の中から私を引っ張り出してくれたでしょう?あの時私、本当に気が動転しちゃって・・・こんな事言うの恥ずかしいんだけど、一応警察官だし、白バイ隊員だからそれなりに厳しい訓練もしてきたのにあんなに取り乱しちゃって、でもあの状況で飯田さんと凛子さんはすごく冷静に私を助けてくれた。本当に凄いって思った。だから今回もきっと大丈夫だと思うよ、私が言うのも変かもしれないけど・・・でも、やっぱりちょっと怖いよね・・・」
俺は川村と吉野の言葉で少しだけ気持ちが楽になったような気がした。
凛子は後部ドアのひじ掛けに頬杖をついて外を見つめている。
車内の蒸し暑さからか、凛子は最初から着ていた黒いシャツを脱いで上半身はタンクトップ1枚になっていたが、汗ばんだ胸元のふくらみに高速道路のオレンジ色の街灯の光が反射してキラキラ光っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます