第17話 飯田っち、大変身

今日は新しい顔と対面する日だ。

ミイラのような包帯ぐるぐる巻きの状態は集中治療室に居た数日間のみで、既に包帯は殆ど外してもらっていた。しかし整形が顔面全体に施されていた為、顔の大部分に薬を塗布したガーゼの様な物を貼っていたのだった。

このガーゼに塗布された薬は俺達の世界には無い薬らしく、人体組織の修復効果が非常に優れているらしい。


院長先生が丁寧にピンセットでガーゼを取っていく。

恐る恐る自分の手で顔に触れてみた。

まだ若干の炎症による腫れはあるものの、傷跡らしき痕跡はまったく感じられない。

「よーし、うまくいったね」院長先生はそうつぶやくと俺に手鏡を渡してくれた。


鏡に映っていた顔は・・・あわわわわ!もう全くの別人!

確かにあの”山下新之助”に似ている。

髪型や顔の輪郭が違うのでパッと見は「そっくりさんか?」って感じだが、初対面で”山下新之助でーす!”って言われたら疑われないかもしれない。

他人から見たら全く違和感は無いのだろうが、長年見慣れた自分の顔が違う顔になっているのは妙な気分だった。少なくとも「やったー!」と喜べるようなか気分ではない。


「飯田っち、もう入ってもいいー?」


ドアの外で凛子の声がしたが、俺が返事をする前にドアを開けて皆が入って来る。


「うわー!?」

「マジで!?」

「おおー、スゲー男前だなあ!」

「きゃはははー!飯田っちヤバイよ、マジ大変身じゃん!きゃはははは!」


凛子は俺の顔を見るないなや、大笑いしている。そんなに笑うなよ。

その横では美月と吉野が目をまん丸くして突っ立っており、川村と田島、大谷の自衛官3人は例の雑誌をペラペラめくりながら俺の顔と見比べている。


「すごい!、飯田っち、大変身じゃん!もうこの際だから髪型も同じにしちゃおう!そしたら美月が惚れ直しちゃうかもよ、ねー美月ちゃーん!」

「ちょ、ちょっと凛子さん何言ってんですか!そんなこと無いです無いです」


美月は凛子にからかわれて顔を真っ赤にしている。


「ほんと、マジで男前になったなぁ!こうなったら田島も整形してもらえば?山下新之助顔に、どうだ?」

「そうっすねー、じゃあそう言う川村さんも整形してもらって飯田君と自分と川村一佐で山下新之助ブラザース組みますか!どう、凛子?」

「はぁ?その岩みたいなガチムチ体型に山下新之助顔?無いわー、マジ無いわー」


次の日、輸血による効果(だと思うが)によって劇的に高まった自分の身体能力を測る為に、大谷に協力してもらってちょっとした体力測定をやってみた。

まずは100m走。

これが・・・自分で走ってビビった・・・あまりにも速いのだ。

3回走った内の最高タイムは4.4秒。時速に換算すると約80km/h。高速道路走れるじゃん。

次に走り幅跳び。

最高飛距離は18m。飛び過ぎて病院の駐車場の端を飛び越えて隣の畑に突っ込んでしまった。助走を長くすればもっと伸びたかもしれない。

次に静止状態から目の前に置かれた物に飛び乗る垂直飛び、いわゆるボックスジャンプだ。

病院の壁面にコンクリート製の梁が突き出ているのだが、この梁の上にジャンプするのは簡単だった。高さは約4m。思いっきりジャンプすれば5mくらいは飛べるかもしれない。

そして最後は重量挙げ。

と言っても病院内にバーベルなど無いので、ヘリから取り外してきた磁場レーダーを持ち上げてみた。

これまでは移動する際に3人がかりで持ち運んでいた物だが、100キロちょっとの重さがあるらしい。

これはさすがに重いだろうと思っていたが、片手で腰の位置まで持ち上げることが出来た。が、下ろそうと思った瞬間、膝に激痛が走った。

どうやら筋力は増大しているが、関節が負荷に耐えられなかったらしい。あまり重い物は持たない方が良いみたいだ。


それにしても・・・いきなりこんな人間離れした力を持つ事になってしまったのだが、まだ力の加減に慣れておらず、以前のようにドカッと椅子に座ってしまって椅子を壊したり、ドアノブを引っこ抜いてしまったり・・・

物が相手ならまだいいが、握手した時に相手の手の骨を粉砕!なんて事になったらシャレにならない。

この馬鹿力、慣れるまではかなりストレスが溜まりそうだ。

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