第15話 新しい仲間

集中治療室から自分の部屋に戻って10日が過ぎた。

もうかなり身体の具合は良くなっている。折れた肋骨や鎖骨は殆ど完治しており、痛みもあまり感じない。顔の包帯はまだ取れないが。

それにしてもこちらの薬の効果には驚かされる。もしもあっちの世界でこんな大ケガをしたら、治療に何か月もかかる事だろう。


「飯田さーん、お昼でーす、入っていいですかー?」


ドアの外で美月の声。俺が自分の部屋に戻ってからも美月が毎回食事を運んでくれる。もう普通に動けるので持ってこなくてもいいと言っているのだが。


「はーい、大丈夫だよー、どうぞ入ってー」


返事をするといつものように食事をのせたトレーを持った美月がドアを開けて入って来た。


「具合はどうですか?まだ痛みます?あ、今日からお薬変わるそうなので・・・コレ、だいぶお薬の種類減ってきましたよ」

「ああ、いつもありがとう。でももう大丈夫だから、食事も自分で取りにいけるし・・・」

「ダメですよ、動けたってまだ目が良く見えないでしょ?階段とか危ないです!」

「あぁ・・・うん、まあそうだけど」


こんなかわいい子に毎回食事を運んで来てもらえるってのも、まんざら悪くない気もするけど。


「川村さんがね、この前転送されてきた人、えーっと、飯田さんが助けた人、吉野さんって言うんだけど、飯田さんに紹介しに連れてくるって言ってましたよ」

「ああ、あの人ね、確か流れ弾に当たってケガしたんだよね。もう治ったの?」

「はい、もう治って、今は私達と一緒に訓練してます」

「そうか、良かったな」


ちょうどその時、ドアをノックする音が聞こえた。


「おーい、飯田くーん、今ちょっといいかなー?」


川村の声だ。


「あ、はーい、どうぞ入ってくださーい」


ドアが開き、川村に連れられて女性が入ってきた。


「飯田君、具合は?もう大丈夫だよなあ、顔以外は。あ、こちら、吉野愛子さん」

「はじめまして、あ、初めてじゃなかったですね、吉野愛子です。この前は助けていただいて本当にありがとうございました」


歳は俺と同い年くらいだろうか?落ち着いた感じの女性だ。


「助けたなんてそんな・・・こっちこそ無理やり車に押し込んですみません。あの時、流れ弾に当たっちゃったんですよね、大丈夫ですか?」

「はい、もうすっかり治りました。こっちの薬ってホントにスゴイですよね。それと、あの・・・あの時は取り乱しちゃって・・・みっともないところをお見せしちゃって、ホントにごめんなさい!」

「いえ、あの状況だったら誰だってああなりますよ!俺だったらオシッコちびっちゃってたかもしれない」

「そうだよなー、俺達が飯田君を保護した時、飯田君は車のシートにうずくまってガタガタ震えてたもんなあ!なあ美月!ははは」

「あーそうそう、飯田さんあの時、うるせーよ!なんなんだよ!とか叫びながら車の中で大暴れしてましたよね!あれ、ちょっと引いたもん」


おい、2人ともそんな話するなよ。せっかく吉野さんを助けて名誉の負傷みたいな事になってるのに。

吉野さんは俺と同い年の29歳の婦警さん、何と女性白バイ隊員だそうだ。朝のジョギング中に転送されたらしいが・・・よく考えるとこの集団って公務員率高いよな。自衛官3人、教員、警官。一般人は俺と凛子だけだ。


川村と話していて思い出したのだが、俺には少し気になっている事があった。

本来ならばもう決行されている失踪者2人の捜索、と言うか、静岡の病院での奪還計画だ。


「あのー、川村さん、例の静岡の病院へ行く話、あれってどうなったんですか・・・と言うか、俺がこんなになっちゃって行けなくなっちゃったんですよね、すみません」


本当に申し訳ない気持ちだった。元の世界へ帰ると言う全員の望みを叶える為の第一歩がこの計画なのだ。


「ああ、それな。実はこの前の戦闘で負傷したのは飯田君だけじゃなくてね、俺も田島も大谷も少々やられてなあ・・・特に田島は左足を骨折してね。だからいずれにせよあの計画は仕切り直しなんだ」


そうだったのか。あの時って結構激しい戦闘だったもんな。


「でもな、いつまでもここでのんびりしてる訳にも行かんしな、飯田君の具合が良くなり次第、できるだけ早く決行する予定で考えているんだ」

「そうですか、分かりました」


そうだ、何が何でも失踪した2人を探し出して、絶対に元の世界へ帰るんだ!絶対に!

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