第14話 超人ハルク!?
それから3日も経つと痛みはかなり治まり、ひとりで歩けるようになった。上半身はまだ包帯だらけでミイラのようだったが。
しかし、ケガの痛みとは別に全身、特に関節が痛み出した。ケガをした箇所だけではなく、身体中の関節と言う関節がキリキリ痛むのだ。場合によってはケガの痛みよりも関節の痛みの方が酷い時もあり、鎮痛剤を打たないと眠れない日もある。
また、まったくケガをしていない箇所、たとえばふくらはぎとか、腿の筋肉などにいきなり激痛が走ったり、熱くなったりすることが頻繁に起こるようになった。
ある時、喉が渇いたのでベッド脇にあるテーブルに置かれたコップを取ろうとしたのだが、誤ってコップを倒してしまった。倒れたコップを戻そうとコップを握ったのだが・・・まるで薄い氷が砕けるように、コップが割れてしまった。
あれ?そんなに力を入れて握った覚えは無いんだけど・・・少し違和感を感じたのだが、あまり気にも留めずに次は割れたコップの横に置いてある水の入ったガラスのボトルを手に取ったところ・・・
軽い!めちゃめちゃ軽く感じる!
たぶん2Lくらいの水が入った厚手のガラスボトルなのだが、まるでプラスチックの空ボトルを持っているようだ。
何なんだ?この違和感。
次は試しに点滴が吊るされているスタンドを持ってみた。このスタンドは転倒しないように基部がかなり重たく作られているのだが・・・
か、軽い!いったいどうしたんだろう?この点滴スタンドがこんなに軽いハズがない。
それから病室内の色々な物を持ち上げてみた。
イス、テーブル、食器棚、どれもこれもびっくりするほど軽く感じる。まるで発泡スチロールで出来ているようだ。
自分が寝ていたベッドさえも片手で持ち上げることができた。
何なんだ?俺は超人ハルクか?
いや、ひょっとしてこの病室の備品って何か訳があって軽く出来ているのかもしれない。
その時、誰かがドアをノックした。
「飯田さーん、お昼ご飯でーす、入っていいですかぁ?」
美月が昼食を持ってきてくれたようだ。
「あー、はい、どうぞ」
美月がワゴンをガラガラと押しながら部屋に入ってきた。ワゴンの上には昼食のトレー、下段には身体を拭くための水の入った大きなタライとタオルが載っている。
「あのさ、変な事聞くけどそのワゴンって重い?」
「え?このワゴンですか?えっと、押すのは別に重くないけど」
「いや、そうじゃなくて、持ち上げたら重いかな?」
「は?持ち上げる?何で持ち上げるの?そりゃ持ち上げたら重いんじゃないですか?タライに水、入ってるし・・・って何で?」
美月は不思議そうな顔で答える。そりゃそうだ、いきなりこんな事聞かれても意味わからんだろうな。
「ちょっと持ち上げてみてよ」
「えー?何言うんですか?ムリですよぉ」
「いいからいいから、ちょっとやってみて」
「いきなり変なコト言い出すんですねぇ、しょうがないなあ・・・うーーーーん・・・」
美月はワゴンの両側に付いている取っ手を持って持ち上げようとしたが、まったく持ち上がらない。
「やっぱり無理ですよぉ、だってこんなにいっぱいお水入ってるし!」
「そうか・・・ちょっとどいてみて」
俺は美月にどいてもらい、右手をワゴンの天板下に添えて持ち上げた。
ワゴンはいとも簡単に50cmほど持ち上がる。ほとんど重さを感じない。
「え、え、えっ?マジ?マジで?飯田さんどうしちゃったんですか?密かに筋トレとかしてたんですかっ!?」
美月は本当に驚いた様子で目をまん丸くしている。いや、この身体で筋トレとかできないし。
「ちょっと院長先生と奥さん呼んできてもらえないかな?」
美月は慌てて院長先生を呼びに行った。
それからすぐに院長先生と奥さんが部屋へ来てくれた。
奥さんに通訳してもらい、俺がここ数日感じていた身体の痛みや違和感の事を話した。すると院長先生は何も言わずに部屋を出て行き、数分後に何かを手にして戻ってきた。
院長先生が持ってきた物は”握力計”。
そう言えばこの握力計、以前田島が顔を真っ赤にして握っていたことがある。
こちらの人間は筋力や身体能力が俺達よりも数倍優れているため、柔道八段の田島でも、この握力計の針はほとんど動かなかったのだ。
俺は院長先生から渡された握力計で握力を測ってみた。
ちなみに俺達の世界の日本人男性の平均握力は約40kg、それに対してこちらの世界の男性平均握力は、何と160kgだそうだ。そして俺の握力は・・・220kg!ゴリラかよ。
院長先生が言うには、なぜこうなったのかは分からないが、恐らくこちらの人間の血液を大量に輸血したからではないかと。それ以外に考えられないと。
握力がこれだけ増加しているという事は、身体能力も上がっているかもしれない。いや、でもこれは一時的なものなのかもしれないし・・・
俺の身体、どうしちゃったんだろう?
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