第13話 ニューフェイス

・・・頭が痛い・・・身体が動かない・・・

全身、特に顔面に酷い痛みを感じていた。瞼を開こうとするがうまく開けられない。

それでも何とか頑張って瞼を開けたが、視界がものすごく狭い。瞼が腫れているのだろうか?

わずかな視界に見えてきたのは病院の白い天井だった。


「あっ、飯田さん、気が付きましたかっ!大丈夫ですか!聞こえてます?」

美月の声だろうか?キーンと言う耳鳴りがしていてまるで遠くの声を聞いているようだ。

「よかったぁー!飯田さん、飯田さん、わかります?美月です!」

喋ろうと思ったが口が開かない。仕方ないので、僅かに動く右手でOKサインを作った。


すぐに俺の周りに全員が集まってきた。

「飯田君、川村だ、分かるか?分かったら右手を動かしてくれ」

俺は右手でもういちどOKサインを出した。

「おおおおお、よかった!本当に・・・」


そして川村があの時に起きた事を話してくれた。


俺と凛子が転送者を車の後部座席に押し込んだ時、ふいに敵兵が俺の背後から襲い掛かった。恐らく駐車場の方へ逃げた3人のうちの1人だろう。

俺はそいつに後ろから首を掴まれ、そいつは車の側面に俺の顔面を叩きつけた。車の側面に2回、後部サイドガラスに2回叩きつけられ、倒れた後も数回蹴られたそうだ。

サイドガラスに叩きつけられた際の怪我で首の動脈から大量に出血したらしく、病院に戻ってくる途中の車内で既に心肺停止状態だったらしい。

病院到着後、体内の約8割に及ぶ血液を輸血した。5時間に及ぶ手術で何とか一命を取り留めたが、2日ほど昏睡状態だったそうだ。


「飯田君の血液型がAB Rh-で良かったよ、他の血液型はこの世界に無いからね。院長先生もこんなに大量の輸血は初めてだと言っていたよ」


「そうですか・・・オレ、助かったんですね・・・あ、あの、身体が全然動かないんですけど、もしかして足が無いとか、腕が無いとかって・・・」

顔に巻かれた包帯と痛みのせいで声が出しにくい。


「ははは、大丈夫だ。足も腕もちゃんと付いてるよ。顔面挫傷、肋骨の骨折3本、鎖骨骨折、頸動脈損傷、内頸静脈損傷、その他裂傷多数、要するに大ケガだ。助かって本当に良かったよ。だが・・・知っての通り、君に輸血された血液はこっちの世界の人間から採血された血液だ。院長先生は問題無いだろうと言っていたが・・・それからもうひとつ、言っておかなきゃならない事があってだな・・・」

川村はそこまで話すと周りの人達の顔を見回した。


「えーと、それからな、飯田君は顔面を4回も叩きつけられて・・・その、なんて言うか・・・顔面がかなりマズイ事になってたんだ」


ああ、そうか、最後の瞬間に視界が真っ白になったんだ。あの時だな。つーコトは、俺の顔ってグチャグチャになったんか!?


「あの・・・俺の顔・・・そんなにヤバイですか?ひょっとして、この先ずっと顔面崩壊したままってコトですか?」

不安だ、ものすごく不安になってきた。


「いや、そんな心配は無用だよ。前にこっちの外科手術のレベルはかなり高いって話しただろう・・・?だから・・・ちゃんと顔面もだな、その・・・整形したんだが・・・」


ん?何だ?このビミョーな雰囲気は?


「え?じゃあ何でそんな”やっちゃった・・・”って感じで話すんですか?川村さん」


「あのさ、飯田君の写真って、俺達持ってないじゃん」


「俺の写真?ああ、まあそうですね」


「顔面を整形する時には見本になる写真が必要らしくてな、でも飯田君の写真、無いからさ・・・」

またまた何か変な雰囲気が漂った。俺のベッドの周りにいる全員が気まずそうにしている。


「あの・・・飯田君の写真が無かったから、この写真を使ったんだよね・・・」

川村がベッドサイドのテーブルに置いてあった女性誌を取り、俺の目の前に差し出した。


は?どういう事?イマイチ状況が把握できない。しばらくその雑誌を無言で見つめていると、凛子が口を開いた。


「この雑誌の表紙のこの人、飯田っちも知ってるでしょ?」

表紙の・・・ああ、この人って少し前にこっちに転送されてきて失踪したって聞かされていた人気タレントの山下新之助だ。


「この雑誌は美月が転送されてきた時にたまたまカバンに入っていたんだけど・・・あの・・・飯田っちの顔面の手術の時に飯田っちの写真が無くて、院長先生に何かいい写真無いかって聞かれて・・・それで、その、この雑誌がたまたま近くにあったの・・・この号って山下新之助さんの巻頭クラビアだったから顔の写真もたくさん載っててさ、院長先生も丁度いいって言ってくれて・・・だからその、ぐしゃった飯田っちの顔は・・・・・この山下さんの顔を見本にしてリニューアルしましたー!わー、新装開店!」


はぁ~?何?じゃあ、俺の顔ってこの山下新之助の顔に・・・せ、整形されちゃったの!?

つーか、たまたま近くにあったからって。


「まあ細かい事はいいじゃないか!山下新之助って言ったら女性に大人気のタレントさんだぞ!だよなあ!」

川村がそう言うと全員がうんうんと頷く。


いや、細かい事じゃねぇし。


「は、早く飯田っちの顔の包帯取れないかなー!早く見たいなー!山下新之助ファンの美月も早く見たいよね、ね!」

「え?あ、えっと、うん、そうですねー、あはは・・・」

いきなり凛子から振られて、美月は微妙に引きつった作り笑いを浮かべている。


「あ、あの、それでだな、前にも説明したが、こちらの医療技術と薬品はとても優れているんだ。院長先生の話だと顔は約一ヶ月、身体の方は2週間くらいで治るそうだ」

いや、川村さんよ、アンタ話を逸らしてないか?

まあ、こんな大ケガしても生きてるんだからいいか。ん?いいのか?


「あ、あの・・・転送されてきた人は、俺達が保護した人は大丈夫なんですか?」


「彼女は問題ない。ただ、流れ弾が足に当たっちまって、今は下の階の病室にいる。ここへ来た時はパニック状態で落ち着かせるのに苦労したよ。でもまあ、転送者も保護できたし飯田君も目を醒ましたしな!取りあえずは一件落着だな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る