第12話 尻手黒川道路

「装甲車を停止させたら、俺と田島は兵員が後部ハッチから出てくるタイミングで敵を掃射する。大谷は前方および上部ハッチから出て来るヤツを打て。飯田君と凛子は車内に居る転送者を確保してくれ。それから皆理解していると思うが、接近戦で奴らに勝つのは100%無理だ。絶対に腕のリーチ内には入るな」

ハンドルを握りながら、川村が指示する。


装甲車は一般車両を3台ほど挟んだ前方約100メートルを40km/hで尻手黒川道路を西に進んでいる。このままの速度で進んでいけば、あと30分ほどで昭和公園の直線だ。

「大谷、一発は田島、一発は飯田君に渡してやってくれ」

川村の指示で、後ろから大谷がガムテープでぐるぐる巻きにされた手榴弾を差し出す。

ガムテープによってハンドボールくらいの大きさまで肥大した手榴弾を受け取った俺は安全ピンの位置を確認した。投げる時は上部についているレバーを握ってから安全ピンを抜く、すると手榴弾内部の遅延薬が燃焼し、その燃焼が手榴弾内部の信管に到達すると起爆する。安全ピンを抜いてから爆発するまで約5秒だ。この手榴弾は外側にベタベタしたガムテープが巻いてあるのでレバーが掴みにくい。手榴弾の取り扱いは川村から教えてもらってはいたが、こうして実戦ともなるとものすごく緊張する。


車は立川公園を過ぎて左にカーブし、立川南通りに入った。昭和公園はもう目と鼻の先だ。

装甲車は間に車を1台挟んだ約50メートル先を、相変わらず40km/hほどで走っている。前方に左に昭和公園の入口が見えてきた。


「じゃあ行くぞ!」

川村が車のスピードを上げた。

前の車を追い抜くと装甲車のリアがだんだん迫って来た。俺は手榴弾のレバーと安全ピンの位置を確認する。

ついに俺達が乗った車と装甲車が並んだ。さらに車は加速し、ジワジワと装甲車を右側から抜いてゆく。

車が車体半分ほど装甲車からリードした時、田島が俺に目で合図する。俺と田島は同時に乗車席左側の窓を開けた。

よし、今だ!俺は手榴弾のレバーを握り、安全ピンを抜いた。そして数を数える。1・2・・・

3で手榴弾を装甲車の前部に向かって投げ込んだ。川村が急ブレーキを掛ける。

車は前輪のサスペンションが一気に沈み、激しいスリップ音を上げながら前のめりになった。その横を装甲車が通り過ぎてゆく。

次の瞬間、眩い閃光とともにボンッ!と言う爆発音が響き、前方10メートル先辺りで装甲車は道路左わきの街路樹に衝突して停止した。

すぐさま自衛官3人は車外へ飛び出し、川村と田島は装甲車後部の両脇、大谷は前方へ走って行く。

俺と凛子は車内で身をかがめながら、いつでも飛び出せるように外の様子を伺っていた。


装甲車の後部ハッチが開き、兵員が出てきた。そこを川村と田島が89式小銃で狙い撃ちする。

兵員は2名が打たれてその場に倒れたが、他の3名は横にあるハッチから逃げ出して団地の駐車場方面へ逃げていく。それを田島が追いかけた。

川村がこちらに合図をする。

俺と凛子はすぐさま車から飛び出し、装甲車の後部ハッチから車内へ飛び込んだ。

装甲車内には若い女性がシートの陰にうずくまっている。

「大丈夫ですかっ!あなたを保護します、すぐに外へ出てください!」

「いやあ!!やだやだ、ちょっと、やめてー!!」

女性は完全にパニック状態で泣き叫んでいる。

凛子と俺で無理やり女性の両脇を抱え、外に引きずり出す。

凛子が先に俺達の車に入り、俺が女性を押し込みながら凛子が引っ張る形でようやく女性を車の中に押し込んだ。

装甲車前方ではパンパンと銃声が響いている。

俺も車内に入ろうとしたその瞬間、ものすごい力で後ろから首根っこを掴まれ、引っ張られた。

仰向けに倒されそうになったその時、視界にグレーの戦闘服とヘルメットを被った兵士の姿がよぎる。

次の瞬間、俺は顔面から車の側面に叩きつけられた。

視界が真っ白になり、キーンと言う音が頭の中に鳴り響く。そしてもう一度激しい衝撃が俺を襲った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る