第11話 新規転送者
「川崎の上の方ですね、たぶん宮前区の辺りかと思います。この辺は起伏があるので正確な位置は掴めないんですが」
「そうか、じゃあ現地で確認するしかないな」
会議室に入ると大谷と川村がパソコンの画面を見ながら話している。
「田島さん、な、何かあったんですか?」
俺はいつもと違う緊張感のある雰囲気に戸惑いながら、部屋の片隅でバッテリーの準備をしている田島に問いかけた。
「ああ、さっきから磁場の変調が起こってるんだ」
田島はバッテリーを携帯バッグに入れながらぶっきらぼうに答えた。
「みんな、ちょっとこっちへ集まってくれ」
川村はそう言うとテーブル上のノートパソコンの画面ををこちらへ向けた。
「30分ほど前から磁場の変調が起こっている、場所は川崎の宮前区周辺のようだ。恐らく転送が起こると思う。すぐに現地へ行って転送者を保護したいと思う。奴らに拉致される前に」
どうやら新しい転送者が来るらしい。
「今回は、俺と田島が先鋒、大谷と凛子が後衛、飯田君にはライトを担当してもらう。美月はここに残って状況監視と無線連絡だ。現地到着までに2時間はかかると思う、各自5分以内に準備!」
田島は既に黒い戦闘服に着替え、左肩にバッテリー、右肩に89式5.56mm小銃を2丁ぶら下げて会議室を出て行った。
凛子が俺の横でお構いなしに下着姿になり、ロッカーから装備を取り出して着替え始めた。
「ほら、飯田っち、ボーっとしてないで着替えないと!」
凛子に言われて俺も慌てて脇のロッカーから黒い戦闘服と防弾チョッキ、ブーツを取り出して着替える。
「飯田君、コレ、ちょっと手伝ってもらえるかな?」
大谷に言われて俺はレーダーを運ぶのを手伝った。このレーダーは海自の哨戒ヘリから取り外してきたもので、かなり重くて大きい。
俺達5人は地下駐車場の片隅に停めてあるバンに乗り込んだ。
「よし、全員乗ったか?大谷、装備の確認は?」
川村が緊張した面持ちで大谷に問いかける。
「バッテリーよし、ハチキュウよし、弾よし、ライトよし、無線よし、揃ってます!」
大谷が答える。
「よし、じゃあ行くぞ」
俺達を乗せたバンは病院の地下駐車場から出て川崎方面へ向かった。弱い雨が降り始めていた。
30分ほど走った所で美月から無線連絡が入った。
「アタッカー、こちら病院、感明送れ」
「病院、こちらアタッカー、病院の感明よし、こちらの感明送れ」
「アタッカー、こちら病院、そちらの感明よし。。。。。川崎方面、雨足が強いそうです、お気をつけて、おわり」
「よし、もう一度、手順の確認を行う。障害無く転送者と接触できた場合は手順A、接触者は凛子だ。転送者が抵抗した場合は手順AZ、薬師は田島。前回の飯田君の時のように転送者を奪取しなければならない場合は手順B、ハチキュウは先鋒が田島、後衛が大谷、ライトは飯田君」
手順Aと言うのは、転送者を何の障害も無く発見できた時だ。この場合は凛子が転送者に話しかけ、こちらの車両に乗るように促す。もし抵抗された場合は田島が背後から転送者に薬物を嗅がせ、強制的に連れ帰る。これがAZ。俺の時みたいに転送者が車両で護送されている場合は、護送車両の前に無理やり出て停止させ、サーチライトを照射して敵の視界を奪ってから転送者を保護する。このサーチライトを照射するのが今回の俺の役割だ。
昭島市を抜け、府中市の街中に入った辺りから雨足が強くなった。
後ろの荷台では大谷がレーダーに接続されたノートパソコンを凝視している。
「どうだー、大谷、位置はー?」
雨音が大きく響く車内で、ハンドルを握りながら川村が大声で聞く。
「あー、ここから、10キロくらいですー、多摩川超えた辺りまで行けばもうちょっと詳しく出せると思いますー」
大谷も雨音に負けないように大声で答える。
多摩川を超え、向ケ丘遊園の入口を過ぎた所で、助手席に乗っている田島が前方上空を指差した。
「あそこ、空の色、赤っぽくないすか?」
数キロ先の上空の空が微妙に赤っぽい。雨雲に遮られて見にくいが、確かにそこだけ雲の色が赤黒くなっている。
「大谷、位置特定できたか!」
「位置特定完了!前方2キロ、東名川崎インター西側!」
川村は車のスピードを上げた。と言ってもこちらの技術で動くこの車はせいぜい80km/hくらいのスピードしか出ない。しかも大人5人と武器や機材を載せているので50km/h出すのがやっとだ。
向ケ丘遊園菅生線を走り、尻手黒川道路の交差点で信号待ちをしている時だった。尻手黒川道路を異様な形の無骨な車両が信号から一本目の路地に入るのが見えた。
「あっ、ヤバイ、あれ軍の装甲車だ!まさか奴らに先を越されたか!」
信号が変わり、こちらも急発進して装甲車の後を追う。
路地に入って数百メートル進むと路肩に装甲車が停まっており、数名のグレーの迷彩服を着た兵士が装甲車の後ろの扉から勢いよく飛び出してくるところだった。
俺達は車のライトを消し、路肩に駐車してあったトラックの後ろに隠れるように車を停めた。
「マズイな、奴ら普通の護送車だと簡単に襲われるのを見越して装甲車で来やがったか・・・後ろに扉があるとするとエンジンは前方だな。陸自の16式機動戦闘車みたいなヤツか・・・さっき目視した限りでは乗っているのは操縦者と指揮を除いて4名か・・・こっちはハチキュウが2丁、ちょっとキビシイな・・・大谷、手榴弾あるか?」
「はい、8発ほど」
「よし・・・奴らは横田基地に向かうはずだ、って事は恐らく尻手黒川道路を使って福生方面に向かうだろう。途中の昭和公園の前の長い直線で勝負をかける」
川村の言葉に全員が顔を見合わせた。
「ど、どうするんですか?走ってる車両の下で上手く手榴弾爆発させるなんて、そんなのムリじゃないっすか・・・?」
田島が腕組みをしながらつぶやく。
「あの装甲車、こっちの力素エンジンだから全力でも50km/h出るか出ないかだろう、まあこっちもそれくらいしか出ないが横に並ぶ事くらいはできるだろう。昭和公園前の長い直線を使って奴らの横に並ぶ。そして手榴弾を前方のエンジンルームの上あたりに乗っけて爆発させる・・・大谷、手榴弾を2発用意!」
「えーっ!? でもどうやってエンジンルームの上に手榴弾乗っけるんですか?落ちちゃいますよ!」
「手榴弾にガムテープを巻き付けるんだ、糊の面を外側にして。できるだけ大きなボール状にしてくっつき易くするんだ」
えーーーっ!? そんなひっつき虫みたいモノでうまく行くんかいな??
「か、川村一佐、マジですか?・・・ん-ーー、まあ作ってみますが・・・」
大谷は荷台のケースからガムテープを取り出し、”ひっつき虫爆弾”を作り始めた。
「田島、様子を見に行って来てくれ」
「了」
川村の命令で田島は目出し帽をかぶり、静かに車のドアを開けると外へ出て行った。約100メートルほど前方ではまだ装甲車が停車しているが、路上駐車している車の陰になってこちらからは状況が把握できない。
3分ほどで田島が帰ってきた。
「後部に搭乗していると思われる兵員は5名、転送者は女性と思われます。転送者は確保されて車両に乗せられました」
前方から装甲車がバックしてくるのが見える。
「全員身をかがめろ!」
川村が叫んだ。俺達は足元の空間に身をかがめた。
装甲車が大きなゴボゴボと言う音を立てながらすぐ横を通り過ぎて行く。
「よし、もういいだろう、奴らを追うぞ!」
俺達の車は尻手黒川道路に入り、装甲車の後を追った。
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