第9話 奪還作戦
「おお!」
「よかったぁー!」
部屋の中が緊張の糸が緩んだような雰囲気に包まれた。
俺以外の全員が喜んでいる。ってそんなに嬉しい事なのか?
「ホントによかったぁ!飯田さんは、出て行ったりしないでくださいね!」
坂口がホッとしたような表情で俺に話しかける。
「え?出て行くって・・・」
「実は飯田さんがここへ来る前、あれは確か一か月前くらいだったかな?転送されてきた人が居たんですよ」
「え?そうなんですか?」
「山下新之助さんって知ってます?」
やましたしんのすけ?? なんか聞いたことあるような無いような・・・はて、誰だ?
美月が見覚えのある週刊誌を俺の目の前に差し出した。
「その表紙の人が、山下新之助さんです」
あ!そうだ、この顔覚えてるぞ!
女性に人気のあるタレントで、大手自動車会社のCMにも起用されていた。
そう言えばテレビドラマのロケ中にいきなり失踪して今も行方が分かっていない筈だ。
「彼は仕事中にいきなり転送されてきて、飯田さんと同じように私達で保護したのですが・・・ノイローゼになってしまい、ここから居なくなってしまったんです。やっと男性が来てくれたんで期待していたんですが」
「特に美月は大喜びだったよね!山下さんのファンだったみたいだし。こっちに来て初めてイイ事がありましたー!って」
坂口が冷やかすような口調で美月に言う。
「そ、そんな事ないですよー!確かにあんな間近で有名人見るの初めてだから・・・ちょっと舞い上がっちゃいましたけど・・・」
「それじゃあ、このメンバーで、これから今後の計画を話したいと思います。これは私と田島、大谷の3人で立案したものですが、意見や疑問点などあったら遠慮なく言ってください」
川村はそう言うと、机の上に手書きの計画書を広げた。
「まず当面の目標は、失踪した石田とマスターキーを持っている自衛官の森本を探し出す事なんですが・・・これは3日前に静岡で発行された新聞です」
川村は2つに折りたたまれた薄茶色の紙を机に広げた。俺たちの世界の新聞より小さいサイズで、印刷も粗い。
「これは鶴吉先生が見つけて持ってきてくれたものです。ここに小さく”不審者2名と警察が打ち合い、不審者2名逮捕、特殊な武器により警官2名が死亡、警官4名と逮捕者が重傷”とあります。恐らくあの2人と見て間違いないかと」
「でも地元の新聞に載るって事は結構大騒ぎになっちゃってるんですよね?今頃軍関係や政府の人たちが確保してどっかへ連れてっちゃったんじゃないですかぁ?」
坂口が不安そうに言う。確かにそうだ、俺が交番へ行った時もすぐに連れて行かれた。もう静岡には居ないんじゃないか?
「俺もそう危惧したんだが・・・ここでまた鶴吉先生にひと肌脱いで貰ったんだ。この事件の逮捕者が静岡のどこかの病院に入院していないか、伝手を駆使して探してもらったところ・・・居たんだよ!静岡市内の病院に!」
どうやらその2名は重傷を負って入院しているらしい。こちらの人間と違い、俺たちは怪我をすると治るまでに時間が掛かる。まだ施設に搬送されていないと言う事は、それなりに大怪我を負っているのだろう。
鶴吉先生の話では、あと2週間くらいは安静が必要な状態らしい。
そしてその日は、自衛官たちが立案した入院している1名を奪還するための作戦のおおまかなブリーフィングが行われた。
今後の予定だが、自衛官以外の男性は俺だけという事もあり、今後一週間は基本的な武器の扱い方や護身術、こちらの世界の習慣などを叩き込んでくれるらしい。
そしてその後、いよいよ奪還作戦が決行される。
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