第7話 Netflix?
「よし、全員揃ったな」
次の日、全員があの大部屋の中央にある長机を囲んで座っていた。
川村を始めとする海上自衛隊のメンバーも、昨日より心なしかリラックスした面持ちである。
「飯田さん、まだ現状を完全に受け入れるのは難しいかもしれないが、ハラを括って割り切ってほしい。あなたの気持ちはここに居る全員が分かっていると思います」
俺も一晩、いや約二日近く寝て身体の疲れは殆ど回復したが、頭の中はまだ半分夢の中に居るような気分だった。
「今日はこれから重要な事を話します。私達が元の世界に帰るためのカギとなる内容です」
川村は少し真剣な目をして俺に話しかけた。この人はどこか人を引き付けるような魅力がある。
「私と田島、大谷は昨日紹介させていただいた通り海上自衛官ですが、3人が別々にこの世界へ転送されて来たのではありません。3人同時に転送されてきたんですが・・・飯田さんは「フィラデルフィア計画」ってご存じですか?」
フィラデルフィア計画?うーん、聞いた事あるような無いような・・・フィラデルフィア何とかって言う映画なかったけ?
「えーと、似たような名前の映画だったら観た覚えがあるんですが」
「フィラデルフィア エクスペリメントですか?」
「あ、そうそう、それです、フィラデルフィア エクスペリメント」
「フィラデルフィア エクスペリメントは、第二次世界大戦中に行われたアメリカ軍による極秘実験をテーマにした映画ですね。この極秘実験がフィラデルフィア計画、あるいはフィラデルフィア実験と呼ばれているんですね」
「はぁ、でも何でそのフィラデルフィア計画の話をここで・・・」
「1930年代にアメリカ軍は、船の周りに強力な電磁場を発生させることでレーダーや肉眼でもその物体を認識できないようにする、早い話が「物体を透明化させる」という研究を行っていました。その後、第二次世界大戦が勃発し、アメリカ海軍は実験の実用化を急いだんです。そして1940年、フィラデルフィアの海軍工廠において、駆逐艦エルドリッジ号に乗員を乗せて大規模な実験が行われました。実験が始まると強力な電磁波を帯びたエルドリッジ号はレーダーから姿を消し、約500km離れたバージニア州の軍港に姿を表したそうです」
またまたNeiflixの映画のようなハナシが始まった・・・
「しかしエルドリッジ号の乗員に多数の死者が出たためにこの計画は中止され、一切の資料も破棄されたそうです、が、その後にソビエトとの冷戦が始まるとフィラデルフィア計画は息を吹き返しました。しかし当時の技術力では思うような成果を得られなかったようです。ここでこの計画が終了していれば良かったのですが、アメリカ軍は極秘裏に実験を続けていました、日本と共同で」
あー、もう完全にNetflixだよ・・・
「中国が倍々ゲームで軍事費を増加させていく中、アメリカとしても何か手を打たなければならないと思ったのでしょうが、大っぴらにアメリカが対抗して軍事費を増やせば更なる軍拡競争に発展します。それを危惧したアメリカ軍はこの実験に目を付けたんです。この技術が実用化できれば、軍事的に間違いなく優位に立つことが出来ると。そして中共との有事の際に最も直接的な被害を被る事が予想される日本も同じように考えたようです。実は・・・日本は極秘に原子力推進の艦艇を建造していました。原子力潜水艦3隻と原子力空母1隻です」
「ええっ!? でもそんなニュース見たことも聞いたことも無いし・・・だってそんなモノ作ってたら絶対ばれるんじゃないですか?プラモデルじゃあるまいし」
「原子力艦艇の建造は、小笠原諸島にある無人島の向島に専用のドックを建設して行われたんです。衛星からも発見されない完全密閉型のドックです。建設は8年ほどを要してアメリカが行いました。そして潜水艦と空母の建造が同時進行で行われ、3年前の2019年にすべての艦艇の建造が終わりました」
「でも、そんなドックを作って空母と潜水艦3隻も作って、今の日本政府にそんなカネあったんですか?いくらごまかしたって隠しきれないと思うんですが」
「ドックと艦艇の建造費用はほとんどがアメリカ持ちです。日本は多分10%も出していないんじゃないでしょうか?でもコレには条件があって・・・アメリカが費用の殆どを出す代わりに、日本は場所と人員を提供する。そして建造した空母を「あの実験」で使用する、と。もちろん乗組員も含めて」
「つー事は、あの「フィラデルフィア実験」をその日本の原子力空母でやっちゃったんですか?」
「そうです、その通りです。そしてその実験で空母に乗っていたのが私達3人です」
そうだったのか、だからここに海上自衛官が3人も居るんだ。
「その実験では小笠原諸島付近からロスアンゼルス沖合1,500kmまでの約5,000kmを移動する計画でした。ですが実際に空母が現れた場所は奥多摩の山中、しかもこの異世界でした」
「そりゃ・・・た、大変でしたね・・・でもいきなりそんな大きな船が山の中に現れたら大騒ぎになるんじゃないですか?」
「そうですね、確かに大騒ぎになりました。最初は私達もここが異世界だとは知りませんし、私達の世界の日本の山中に出てきちゃったと思ったんですよ。他の自衛官が艦から降りて警察と接触したとたん発砲されまして、撃ち合いになりました。もう何が何だかわからんですよ。でも彼らの武器じゃ私達の火器にまるで歯が立たなかったんです。抵抗が収まった所を見計らって、艦に搭載されていた車両2台に出来るだけの武器と弾薬や食料を積み込んで逃げました。そしてその最中にこの病院を見つけて・・・運よく鶴吉先生と奥さんに匿ってもらったんです」
「じゃあ、その空母は今もまだ山の中にあるんですか?」
「ええ、もちろんまだありますよ、彼らによって厳重に警備されていますが」
「でも、危なくないですか?だって原子炉を積んでいるんですよね?」
「大丈夫です。電気の無い世界の彼らにとって、まったく未知の物体ですからそう易々と操作出来るはずがありません。原子炉は隔壁で厳重に守られていますし、艦を再びアクティベートするには2本のマスターキーと3重のパスワードによる認証が必要なんです」
「なるほど・・・」
「あの艦には磁場発生装置が搭載されていて、その装置の作り出す強力な磁場によって離れた場所へ移動するのですが・・・ログの解析をしたところ、磁場発生装置の出力が本来出力されるべき出力を僅かに下回っていました。私達は恐らくそれが異世界に転送されてしまった原因だと思っています」
「あの、自分は物理とかよくわかんなくて、アレなんですが・・・もう一度艦に戻ってその装置を動かせば元の世界に戻れるってコトありません?あ、そんな簡単じゃないか・・・」
「いや、私達もほぼ同じことを考えています。ちょっと難しくなってしまうので詳しい話は省きますが、簡単に言えば磁場発生装置の内部プログラムを書き換えて、こちらへ転送された時とまったく逆の状態を作り出せば可能なのではないかと」
「じゃあ帰れるんですか!」
「まだあくまでも机上の想定の範囲でしかありませんが・・・でも、多分それしか帰る方法は無いんです・・・しかし問題がありまして・・・」
川村の表情が一瞬曇ったような気がした。
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