第6話 メチャクチャな日
部屋の中に安堵の雰囲気が広がるのが感じられた。
「よかったぁ、ちょっとドキドキしちゃったよー」
「だよねー!」
凛子と美月が抱き合ってピョンピョン跳ねている。
そんなに嬉しい事なのか?
「ありがとうございます、飯田さん!まだまだ話しておきたい事は山ほどあるんですが、今日はお疲れだと思うので休んでください。この階に私達の個室があります。と言っても入院患者用の個室を使わせてもらってるんですが・・・川村さんの部屋は、えーと、5号室です。後で食事も運んでおきますので」
「あ、ありがとうございます」
「今日はもう何もありませんのでゆっくり休んでください。あと、決してこの建物から外へは出ないでくださいね」
個室までは田島が案内してくれた。
広くはないがトイレとシャワーも別々になっている。ベッドもセミダブルくらいの大きさで、普段はシングルベッドで寝ている身としては贅沢にさえ感じる。
仰向けにベッドに寝転ぶと身体の節々に痛みを時感じた。かなり緊張していたようだ。
ドアをノックする音。
ドアを開けると美月がトレーに乗った食事を持って立っていた。
「あ、えっと、食事をお持ちしました。あとタオルも」
「ありがとうございます」
「えっと、今日は大変でしたよね。私も同じような感じだったから良く分かります」
「あはは、疲れました・・・まだ何か混乱していて・・・」
「ですよね、えっと・・・あの・・・飯田さんはお仕事は何をされていたんですか?」
「仕事は・・・しがないサラリーマンです。広告代理店の営業マンです」
「広告代理店ですか!なんかカッコイイ!」
「いや、全然良くないですよ、世間一般の方々が思ってるような派手な事なんて無いし・・・あの、香坂さんでしたっけ?えーと確か先生をされているんですよね?」
「ハイ!小学校の教師をしています。休み時間にプールで水泳の授業の準備をしていたら転送されちゃったんです、水着のままで」
「えーっ!マジですか?」
「はい、マジです、全然マジです!幸いにも私は川村さん達にすぐに見つけてもらったので良かったんですけど、あの時はホント、困っちゃいました」
「ですよねぇ、水着ですもんねぇ」
「あの、飯田さんはご結婚とか・・・されているんですか?」
「え?いや、もちろん独り身ですよ、結婚なんて、そんな・・・ダメ男なんで、ハハハ」
「そうなんですね・・・あ、すいません、いきなりヘンな事聞いちゃって」
「いえいえ、全然構わないですよ、もうこの歳になるとたまに聞かれますから」
「すみません・・・あの、お疲れでしょうから今日はゆっくり休んでくださいね」
「はい」
本当にメチャクチャな1日だった。
いきなり変な世界に転送されて・・・普段の今頃はもう出社している時間だ。
本当にこれは現実なのか?
ものすごーくリアルな夢でも見ているんじゃないか?
あ、そう言えばまだ電気料金払ってなかったな。
帰りにコンビニで払おうと思ってたんだっけ・・・払い込み用紙、確かカバンの中に入れておいたよな。
えーと、どこだっけ・・・俺はカバンの中の電気料金払い込み用紙を探した。
「あー、あったーヨカッター!」
って、こんなもの見つけてもここじゃどうしようも出来ないじゃんか!
「やっぱり・・・俺は変な世界へ飛ばされちゃったんかなあ・・・」
スマホのスイッチを押してみた。
いつも通りの画面が現れる。
この世界では電気を通す物が無いって言ってたけれど、あっちの世界から持ってきた物は大丈夫なんだな。
ネットも電話も無いから、スマホなんて持っててもあんまり意味無いけど。
美月が運んできてくれた食事を食べるとものすごく薄味だった。恐らくこの病院の入院患者用に出している食事を流用しているのだろう。
俺は食事を終えてベッドに横たわると、数秒で寝落ちしてしまった。
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