第3話 アクションスターと柔道部

どれくらい走っただろうか?

外はもうすっかり明るくなっており、窓から見える景色は田んぼや畑の中に家々がポツポツと佇むのどかな田舎の風景。

車内は皆無口で、時折運転手と助手席に座っている2人が二言三言話すだけだった。

車は小さな小河に掛かる橋を渡り、その先にある白い建物の駐車場に入り停止した。


「着きましたよ、さあ」


左隣に座っていた人の腕につかまりながら車を降りると、ひんやりした空気が顔にまとわりつく。どうやらかなり田舎の方に連れて来られたみたいだ。

俺たちは白い建物に向かって歩いて行った。

彼らは2人が若い女性であとの2人が男性。男性の1人は背が高く、日に焼けた精悍な顔つきをしている。一昔前のアクションスターみたいだ。年齢は30代後半と言ったところか?

もう1人の男性も日焼けしていたが、背が低くガッチリとした身体つきをしており、いかにも「柔道部出身です!」といった感じだった。

女性の1人は背が高く、かなり明るい茶髪のショートカット、年齢は25歳くらいか?

もう1人の女性は華奢な身体つきで、セミロングの髪の毛を束ねてポニーテールにしていた。白い肌が朝の光に反射してより白く見えた。


建物の裏口らしきドアから中に入ると消毒液の匂いが立ち込めていた。

両側にある部屋の横にはそれそれプレートのような物が吊るされている。

ここは、きっと病院だ。


俺はこれからこの病院で何かをされるのか?

良からぬ薬を飲まされたり、まさか拷問とか!?

マズイマズイマズイ!ヤバイヤバイヤバイ!

また心臓がバクバクしてきた。

隙を見て逃げ出すか?

いや、前にアクションスター、後ろに柔道部が居てガッチリ挟まれている。軟弱ダメサラリーマンの俺がこんなやつら相手に勝てるわけない。


俺たちは古ぼけたエレベーター(動くときにゴボゴボと変な音をたてていた)に乗り、5階で降りた。

エレベーターを降りて左に進んだ突き当りの部屋に入るとそこは大きなテーブルと数脚の椅子、そして大きな棚が置いてある会議室のような部屋。

柔道部がその大きな棚を横にずらすと頑丈そうなドアが現れた。そしてそのドアを柔道部がノックするとドアの向こうから男の声がした。


『だれかっ!』


柔道部が答える。

「夜襲」


『掃海』


「生徒」


『通ってよし!』


ドアがガチャリと開いた。


「さ、どうぞ入ってください」

アクションスターに促されて入った部屋で出迎えてくれたのは優しそうな丸顔の男性。

部屋の床には所狭しと得体の知れない機材が並べられており、片隅には小銃やらナイフやらの武器が立てかけられている。

中央には長机があり、その上にはノートパソコンや電子機器が無造作に置かれていた。


「ずっと車に乗っていたからお疲れですよね?こちらにお掛けになって楽にしていてください。あと、これ、どうぞ」

ポニーテールからマグカップに入ったお茶のようなものを渡された。何となくイヤな予感が・・・あ、やっぱりあの交番で飲んだ変な味のお茶だ。


俺と一緒に帰ってきた4人は着ていた黒い服、いや服と言うよりはサバゲーのタクティカルウェアのような物を脱いで着替えをしている。

丸顔がアクションスターの着替えを手伝いながら、何やら話しをしている。

「川村1佐、お疲れ様でしたっ!ヤツら結構抵抗してきましたか?」

「いやぁ、それがさ、前回の事もあったからもっとガンガン来るかと思ったんだけどそうでもなかったよー。至近距離から打たれたけど、あの空気銃じゃウチの防弾チョッキにゃ歯が立たんよね。でもさ、ふくらはぎに一発くらっちゃってスゲーいてーの」

「大丈夫スかぁ?ちょっと見せてくださいよ、あーっ、結構出血してますって!つーか5センチくらいの裂傷ですよ!早いとこ手当せんと!」

「おう、後で鶴吉先生に診てもらうわ」


「よし、皆着替え終わったか?よし、じゃあこっちに来て彼の前に並んでくれ」

アクションスターが声を掛けると、全員が俺の前に並んだ。


「昨晩はとても怖い思いをさせてしまったと思います。申し訳ありません。私たちはあなたに危害を加えることはありません。あんな状況ですから、ひょっとしたら拉致されたかと思っているかもしれませんがそれは違います。私たちはあなたを保護させていただいたんです」


え?は?なに?なんで?

あなたたちは誰?ここはどこ?これは現実なのか?

たった一晩のうちに起きたことが多すぎて頭が混乱している。

思い起こせば、ラーメン屋に向かう途中のあの出来事から妙な事が起こり始めたんだ。


そうか、やっぱり俺はあの時、事故に遭って死んだのだ!

だからこんなワケの分からん出来事が次々に起こっているんだ!

これは現実なんかじゃないんだな!

やっぱりなー、おかしいと思ったよ。

もう既に俺は死んでいるんだから何をされても死なないよな、だってもう死んでるんだもん。これってある意味不死身じゃね?


「恐らく、今あなたはとても混乱していて、この状況が現実のものだと思えないかもしれません。ですが、残念ながらこれは現実なんです」

こう話すアクションスターの目はマジだった。


「今からこの世界の事について、私たちが知っている事すべてをお話しします。少々長くなると思います。疲れたら遠慮なく言ってください」


「あ、ううう、ひぇー・・・もう、ワケわかんねぇ・・・」

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