通信傍受システム『エシュロン』

 病院に向かい、天音たちと合流した。

 俺は今朝あったことをみんなに話した。中道という男に絡まれたこと、スマホが爆発したこと。組織によるIoTテロの可能性があること。



「そ、そんな……怖い」



 天音が声を震わせていた。そうだな、まさか安全かと思われた対馬でこんな事件が起きるとは思いもしなかった。



「哲くん。やはり『八咫烏』の仕業でしょうか」


 千年世が真っ先にその名を口にする。


「恐らくな。襲撃されるのも時間の問題だ」


「そうですか。ですが、この遠見先生の病院なら見つからないのでは?」

「いや、桃枝の居場所が割り出された。なにかしらの方法でヤツ等は俺たちを追えるかもしれん。それに八咫烏だけでなく、他の組織も動き始めているそうだ」


「……なるほど」


 せめてみんなのケガが回復してから移動したいところなんだがな。向こうは待っちゃくれない。容赦なく俺たちを追跡し、最後まで追ってくるだろう。


 大惨事になる前に手を打っておかねば。


 その為に今日はミーティングをしようと考えた。



「桃枝、未だに特定された原因は分からないのか?」

「う~ん、今調べてはいるんだけどね。通信傍受システム『エシュロン』でも使われていたらお手上げだよ……」


「エシュロン?」


 俺は聞きなれない単語に首をかしげた。なんだその、なんでも願いを叶えてくれそうな神龍みたいな単語。


「哲くんの今、別のことを考えていましたね」

「……う」


 北上さんには見透かされていた。やっぱり、シェンロンではないよな。余計なことを考えてしまった。


「エシュロンとは、アメリカの国家安全保障局 NSAが運営しているらしい、傍受システムです。一時期は盗聴騒ぎで世間を騒がせましたね。……まあ、それはいいとして『エシュロン傍受システム』を使われているのなら……大変です」


「それ……そんなヤバいのか、北上さん」

「特定は容易ということです。我々の電話やメッセージ、ネットに繋がるものなら何でも傍受できると思っていいでしょう」


 そ、それはヤベェな。そんなトンデモシステムがあったとは知らなかった。でも、そう言われるとその昔に日本政府も盗聴されたとか、そんなニュースが一時期駆け巡っていたような。アメリカが批判されていたような。


 ネットで調べてみると、バックドアに仕掛けれた『PRISMプリズム』という監視プログラムによって情報を収集されていたらしい。


 俺と同じく、リコも調べていたようでその内容に驚愕していた。


「……え、今過去の事件を見たんだけど……ゴーグル先生とかヤッホーとか有名どころほとんどが監視対象になっていたっぽいね……」


「ということは、俺たちの座標とかも抜けるわけだ」


 いくら桃枝が天才プログラマーで、凄腕のハッカーだとしても相手が悪すぎるわけか。これが仮に八咫烏だとして、シェンロンのような傍受システムを導入済みで、それを使って俺たちを監視しているかもしれない――というわけか。


「これじゃ、今流行りのVPNを使っても意味ないね」


 桃枝をため息を吐いた。


 ああ、VPN接続か。一応俺たちも使っている暗号通信だ。だけど、それでも傍受システムの前では無意味というわけだ。つまり、裸も同然だな。


 それを証拠に中道にメールが送られていた。



「これからどうするべきだと思う? 北上さん」

「早急に日本を脱出するべきかと。しかし、現状は難しい。ケガ人もいますからね。最低でも、あと一か月は対馬に滞在するしかないでしょう」


 そうだな、今は天音の治療が先だ。


「……ごめんね、早坂くん」

「天音、謝る必要はない。君の体が一番大切なんだから」

「ありがとう、嬉しい」


 ほろりと涙を零す天音。俺には彼女が必要だ。今まで俺をずっと支えてくれた。ここで見捨てるとかありえないだろ。最後まで……幸せにするまで俺が面倒をみる。

 もちろん、みんなも。



 ――それから、更に会議を進めていく。



 桃枝には書記を務めてもらい、みんなからアイディアを出してもらい意見を吸い上げていく。

 そんな会議を一日続け、気づけば日が沈んでいた。



「ふぅ、こんなところだな。お疲れ」



 みんな疲労で脱力する。ほとんど休憩なしでかなり話し合った。その甲斐あり、プランが固まりつつあった。

 もしかしたら、何とかなるかもしれない。



 いったん俺、酒屋の方へ休憩へ。



 その時、白衣を着た遠見先生とばったり会った。



「おや、早坂くん。ちょうどいい話があるんだ」

「先生。俺に話ですか」

「ええ。今後のことなどでお話が」


 それは重要だ。俺も先生に話しておかねばな。これからのことを。

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