天才ハッカーと謎の大男のメール
桃枝が寝た後も俺は情報収集を続けた。けれど、収穫はゼロ。なんの成果も得られませんでしたッ!
というわけで不貞寝した俺。
珍しく北上さんも横になっていた。いや、ホント珍しい。珍百景かな。
壁に背を預けて寝ている光景しか見ていない。いつも警戒ばかりだ。おかげで助かっているけど。
――次の日。
まばゆい日が差し俺は目覚めた。不規則な時間だった割に脳はスッキリしている。
北上さんと桃枝の姿はない。
きっと温泉だろうな。
朝早くから解放されているようだ。朝風呂っていいよな~。俺も行こうかな。
そう思案しているとスマホが鳴った。
【
リコから電話だ。天音がケガしているから、代わりに定期連絡してくれていた。俺は直ぐに通話のボタンを押した。
『もしもーし、てっちゃん』
「リコ。おはよう」
『おはよー。こっちは異常ナシ。報告以上』
「おう、助かる。こっちは怪しい組織が動き始めているかもしれない情報を手に入れた」
『マジで。ヤバくない!?』
「けど、対馬に俺たちがいるってことは分からんはずだ」
『でも、結構テレビで取り上げられたよね……?』
そう、以前に宝島から帰還した時に話題になった。だけど、一時的なものだった。あれからは風化して今はそれほど話題になることもない。某掲示板を除いて。
「大丈夫だ。そんなに長く対馬にいるつもりはない。転々としようと思う」
『それがいいね。留まるのはリスク高いし』
「ああ。それじゃ、午前中にそっちへ行く」
『おっけー!』
通話終了。リコたちの無事を確認し、俺はホッとした。あの病院なら大丈夫だな。居酒屋の地下にまさか病院があるとは誰も思わんだろう。
俺も温泉へ入ろうっと。
気分よく男湯へ向かおうとすると、ロビーが騒がしかった。
なんだ?
ガラの悪い大男が受付のお兄さんに詰め寄っているな。
「おい! このホテルにいることは分かっているんだぞ!」
「――ですから、個人情報をお伝えすることはできかねます」
「個人情報もクソもあるかッ! ヤツは『ピーチ』と名乗る天才ハッカーなんだ! ここにいることは分かってんだよ!」
天才ハッカーの『ピーチ』? なんだろう。すごく覚えのあるような名前。いや、まさかな……。
そんなハズはないと立ち尽くしていると、北上さんと桃枝が女湯から出てきた。
大男はチラリと桃枝を見た。
「…………」
「…………へ?」
桃枝は見知らぬ男からにらまれ、焦っていた。
「うおおおおおおおッ! ピーチ! てめえええええ!」
「な、なになに!? あなた誰ぇ!? えぇッ!?」
桃枝に襲い掛かる大男だったが、北上さんが阻んだ。ナイス!
「彼女はあたしの友人です」
「なんだお前は! その後ろのピーチに用があるんだ!」
「ピーチ? 桃枝のことですか」
「そうだ。こいつはとんでもねえハッカーなんだ!」
「あなたは何者ですか。桃枝になにか恨みでも?」
「あれは三日前だ。謎のメールが届き、ピーチの情報が載っていた。対馬にいるとな! だから俺は必死に探した。ようやく見つけたんだ、この悪魔を!」
なんか目が充血しているし、ブチギレてるし……。ありゃ、相当な恨みを買ったな。桃枝のヤツ、いったい何をしたんだか。
「えー、私知らないしー」
「んだとぉ!? ふざけんな、このアマ!!」
大男はとうとう手を出した。右ストレートが北上さんに向かっていた。彼女ならきっと余裕で受け止めるだろう。だが、その前に俺が止める。
俺は飛び跳ね、大男の拳を右手で受け止めた。
「やめろ」
「――――ッ!?!?」
男の拳を握りつぶすように握力をフルパワーにした。
「やめろと言った」
「ぐ、ぐぉおおおおおおお!?」
痛みにもだえる男。
イカツイのは見た目だけかな。
「哲くん、ありがとう。カッコいいです!」
「さすがてっちゃん。惚れちゃうって! まあ、もうとっくに惚れてるけどねっ」
そう褒められると照れるって。いや、照れている場合ではないな。この男をどうしてやろうか。
「理由を話せ」
「いでで……! ピ、ピーチは俺の金を盗んだんだ! ハッキングで!」
お、おいおい! そりゃマズい。俺は桃枝に視線を向ける。
「いやいや、てっちゃん。私は一般人には手を出さないよ。その男は性犯罪者。前科いっぱいあってヤバいヤツ。半年前に仮出所したという、名前は
ニヤリと笑う桃枝は、相手の男のプロフィールのほとんどを晒した。その手にはスマホが。いつの間に調べていたんだよ!
なんだ、とんでもない野郎じゃないか!
「ぐ、うぅ……」
「私は被害者に送金してあげただけなのさ」
なんだ、桃枝は良いことしていたんじゃないか。
しかし、どうして桃枝の居場所が分かった? 謎のメール? どこから送られてきたんだ、それ。
そのメールとやら解明した方がよさそうだ。
俺は大男からスマホを拝借することにした。
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