隠し子を作りたい北上さん
空は闇に染まった。けれど月明りのおかげで視界は良好だった。
夜の海というのも悪くない。
プチデートなので雑談をしながら散歩だ。
十分な気分転換になったのでホテルへ帰還。事件に巻き込まれることなく帰れた。どうやら、気配は気のせいだったらしい。
だからと言って油断はできないが。
部屋へ戻ると桃枝が俺のベッドの上でノートパソコンをいじっていた。シャツ一枚の姿で。
「おかえりー。てっちゃんと絆ちゃん」
にゃはーと猫のような表情で出迎えてくれた。あまりに可愛いので癒される。
「ただいま」
「ただいまです」
俺もベッドへ。北上さんは椅子に座った。
あれから時間も経った。なにか情報を掴んでいるといいが。
「桃枝、なにか進展は?」
「うーん、成果は得られませんでした!」
「ダメか」
「だぬー。てか、お金たっぷりあるんだし、人生をゆっくり楽しむのもいいじゃなーい」
一理ある。なにも考えず、大金でリッチな生活を送る。でも、それは日本では無理だ。もっと安全な国へ移住してからでないと。
「まずは国を選定してからだ」
「いやぁ、日本で少しは豪遊しようよ~。夢の国とかUSJとか行こうよぉ」
桃枝は遊びたいらしい。女の子はそういう場所が好きだよなぁ~。いや、別に否定しているわけではない。俺もどちらかと言えば行きたい派だ。だけど勇気がない。
今までは相手がいなかったから……!(泣)
抵抗がありすぎる。
「すまん。行きたいのは山々なんだが……耐性なさすぎて楽しめなさそうだ」
「あー…。てっちゃんって元々は陰キャだもんね」
「今でも本質は変わらんと思う」
「いやいや、さすがに変わったって。こんな大所帯でさ」
それもそうか。あんまり実感はなかったのだが。
「あ……あたしも行きたいです!」
すっくと立ち上がる北上さん。まさかの賛成派!
「え、北上さんって夢の国とか興味あったんだ」
「もちろんです。本場生まれですから!」
そうだった。ハーフなのは知っているが、アメリカ育ちだったんだよな。なんとなく聞いたことがあった。
それでノリがいいわけか。
「みんなのケガが治ったら考えよう」
「分かりましたっ」
「分かったよぉ~」
北上さんも桃枝も納得してくれた。夢の国かぁ……いつか行けるといいな。まあ、日本にこだわらなくとも海外にもあるし、いつでも約束は守れるか。
「俺は温泉行こうかな」
「あ、てっちゃん」
「どうした、桃枝」
「そういえばさ、櫛家のことなんだけど」
「なんだ、動きがあったのか?」
「うん。某掲示板によると、私らのこと血眼になって探してるみたい。やっぱりアレだね、万由里ちゃんをやっちゃったのはマズかったねー…」
千年世が容赦なくぶっ放したからなぁ。止める暇もなかった。とはいえ、あの状況は仕方がなかった。
爆弾を身につけ、みんなを人質にしていたし。
「しばらくは櫛家に命を狙われるわけだな」
「んだね。気を付けた方がいいよ~」
調べ疲れたのか、桃枝は眠った。……そこ、俺のベッドなんだけどな。いいけどね。
「哲くん。あたしが櫛家を紹介したばかりに……」
「気にすんなって。櫛家の援助がなければ俺たちは神造島でまともに戦えなかった。それは事実だ。裏切られるとは思いもしなかったけどね」
「本当に申し訳ないです」
「いいってことさ。俺は温泉に入る」
「了解しました。途中まで護衛します」
「大丈夫だよ。今のところガチでヤバイって気配は感じないから」
「ダメです。哲くんにもしもの事があったら……泣いちゃいます」
本気の眼差しを向けられ、しかもちょっと泣きそうな感じになられ、俺は激しく動揺した。――まてまて。北上さん、こんなキャラじゃなかったよな!?
かつてのクールビューティーはどこへいった……。
「どうしたのさ。なんか変なものでも食ったのか?」
「違います。本当に心配しているんですよ」
「そりゃ嬉しいけど」
「やはり、子供を作っておくべきです。もちろん、あたしとの!」
「――なッ」
以前も言っていたな。そこまで求められると俺も本気になってしまいそうになる。
俺の身にもしもがあっても子供に託すことができる。北上さんだけでなく、天音たちも安心できるかもしれないな。
将来を考えても――いや、冷静になれ。早すぎるって。
一応学生なんだがッ!
「今後は大人のゴムはナシにしましょう」
「ぶはっ!! 真面目な顔でなにを言っている!!」
「赤ちゃん、作りましょ」
「………………」
これほど身も心も、脳も停止したことがない。
北上さんがあまりに真剣すぎて、俺は石化するしかなかった。…………どうすりゃいいんだよ!?
作るしかないのか……。
「隠し子くらいは必要でしょう」
「そんなグイグイ来られても! ちょ、おい……俺の股にィ! 手をォ!」
はぁはぁと興奮気味の北上さん。なんか発情してないか? やばいやばい、俺襲われちゃう……!
「哲くん……あたし、今日は危険日なんです」
「余計ダメだろ!!」
などという俺の叫びも虚しく、抱きつかれてしまった。……やべ、北上さんの腕力強いから抜け出せないんだよな!
「愛していますよ、哲くん……」
「ちょ、お!? うお、うおおおおおおおおおおおお!?」
脱がされるううううううう!!
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