デレる北上さんとプチデート

 ホテルへ戻り、今は療養に専念する。

 俺たちは神造島でずいぶんと消耗した。憔悴しょうすいしきっている者もいる。今は休む時だ。無理をしてもつまづくだけだ。


 ラウンジで椅子に座り、スマホとにらめっこする俺。


 なかなか活気があるので家族連れの観光客もいた。子供が騒がしいが、たまにはこういう場所で調べものをするのも悪くない。


 画面をタップあるいはスクロールしていると、背後から気配を感じた。

 なにかが俺の背中を包む。


「なにをしているのですか、哲くん」

「……や、やわらかっ! じゃなくて、北上さんか」

「ええ。あなたの姿が見えたもので」


 そんな恋人みたいに“ぎゅっ”とされるとは、不意打ちを食らった。だけどこれは良いサプライズだ。

 北上さんは温泉に入っていたのだろうか。石鹸の良い匂いがした。


「移住先を調べていたのさ」

「なるほど。ですが、根を詰めすぎてはいけませんよ」


 そう言いながら北上さんは俺の頭をなでた。


「ありがとう。でも時間がないからな」

「八咫烏、ですか」

「……そうだ。それに、なんだか見られているような気がするんだ」

「あたしもです。このホテルにはすでに何者かが入り込んでいるかもしれませんね」


 俺は、仲間以外が信用できなくなっていた。

 周囲の観光客が敵に見えてきていた。……一般人のはずなのに。いや、その中に紛れ込んでいるヤツがいるとは思うんだ。

 気のせいだとは思いたい。

 でも――。


「警戒はしておこう」

「険しい表情をしていますよ、哲くん」


 俺の前に立つ北上さん。

 白のワンピース姿で、肩や足を大胆に露出していた。健康的な白い肌。男の目を引く豊満な胸。そして黄金のように美しい金の髪ボブカット


 アメリカ人のハーフであるせいか、宝石のようなエメラルドグリーンの瞳が星のように煌めく。……ふつくしい。



「……北上さんのおかげで気が抜けたよ」

「見とれましたか?」



 わずかに微笑む北上さん。普段は軍隊アーミーな服装だとか装備をしているのに、ワンピース姿になれば女の子らしさしかない。可愛すぎて困った。



「俺を誘惑しているのかな」

「そうですよ。天音さんたちに負けたくないですし」

「今がチャンスというわけね」

「ええ。なのでプチデートしたいんです」

「ハッキリ言うね。俺もだよ」

「ありがとうございます。あ、ちなみに野外プレイは禁止ですよ。お気にの服が汚れてしまうので」


「――なッ! ラウンジでなんてこと言うんだ!?」

「冗談です」

「冗談かよっ」



 てか、外でするかッ!

 こんな観光地でイチャイチャできる場所なんてありゃしない。どこもかしこも人だらけだからな。


 それにしても“視線”を感じるなぁ。

 いったい誰なんだろうな。

 俺たちを監視しているヤツは。

 いずれ炙り出してやるさ。



 日が沈む前にホテル周辺を歩く。

 さすがにこんな女の子モードの北上さんを連れ歩いていると目立った。……そうか、視線は俺ではなく、北上さんへの注目だったのかも。



「どうしました?」

「いや、なんでも」

「大丈夫です。いざとなればサイホルスターに仕込んである銃で応戦します」



 サイホルスターって『股』の部分に装着するヤツだよな。確か、レッグホルスターとも言うんだっけ。そんなものを装備しているとは……さすがすぎる。



「へえ、ちゃんとしているな」

「ちなみに、SIG SAUER P365SASです」

「やっぱりアメリカ製か」


 昔プレイしていたFPSのゲームに登場していたので覚えていた。


「半分はアメリカ人なので」


 えっへんと北上さんは胸を張る。ホント、可愛いなこの人。

 最近は感情を出すようになったし、笑うようにもなった。今が一番良いぞ。



「そうだったな、絆」

「ちょ……突然、名前で呼ぶのは卑怯です。嬉しいですけど」



 頬を赤らめる北上さんはガチで恥ずかしそうに照れていた。……なるほど、名前で呼ぶと照れるのか。知らなかったぞ。


 てか、めちゃくちゃ照れてるな。


「いいじゃん。俺たちの仲だろ」

「そ、そ、それはそうですがっ……」


 後退する北上さんは、足を滑らせた。って、珍しいな。コケるなんて。



「大丈夫か、北上さん」

「……う、うぅ。ごめんなさい」


「それより、パンツ丸見えだ」

「えっ……! み、見ないでください。恥ずかしいです!」



 北上さんは、ばっとスカートを押さえる。いいものを見れた。それと本当に銃を仕込んでいた。

 俺もなにか仕込もうかな。

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