闇医者の病院にて

 ホテルから片道十五分ほどで病院に到着した。

 病院といっても、闇医者の類であるから“表”は【居酒屋】という看板を出していた。ここが本当は病院だなんて思わないよな。


 正面から入れば居酒屋だが、裏にある地下室へ向かうとそこは病院だ。


 扉に近づけば自動でロックが解除された。

 どうやら向こうが気づいて開けてくれたようだな。


「相変わらず凄い場所にあるな」

「天音さんのお父さんの知り合いのようです」


 北上さんの後をついていくと細い通路が見えた。そこを下へ降りていく。

 しばらくして広い部屋に到着。


 ベッドがいくつもあり、そこには天音たちがいた。



「見舞いにきたぞ、天音」

「早坂くん! 来てくれたんだ……!」



 目尻に涙を溜め、喜ぶ天音。良かった、無事だな。


 千年世、リコ、よもぎルナヒカリ、雷……みんな元気そうで良かった。



「ケガの具合はどうだ?」

「おかげさまで良くなってきた。遠見先生があと二ヵ月で退院できるって」


「マジか。思ったよりは早いな」



 遠見先生は、この病院の闇医者。普通ならできない治療を請け負っているらしい。もちろん、費用が掛かるが。

 幸いにも知り合いということで金額はまけてくれた。


 天音は左腕に重症を負ったが、遠見先生の力で死は免れた。俺は心の底から安堵した。……良かった、本当に。


 ホッとしていると千年世が俺の右腕を引っ張った。


「早坂くん。わ、わたしも……足をケガしました」

「千年世、大丈夫か?」

「はいっ、おかげさまで歩けるようになりました」


 微笑む千年世は可愛かった。

 照れていると、桃枝、北上さんにリコや艾、ルナヒカリ、雷……まで俺に殺到。


 ――って、雷、男のお前はいらん!



「てか、雷。まともに話すのはこれが初めてだな」

「そうだったな。改めて自己紹介しよう。俺はルナヒカリの『兄貴』で織田おだ いかづちだ。宝島事件のことは知っている。全部聞いた」


「味方、なんだよな」

「あたりまえだ。でなければ、とっくに裏切っている。ルナヒカリがお前を信用しているんだ。俺も信じる」


 雷は沖縄でルナヒカリをサポートし、神造島でも全力で俺たちを支えてくれた。おかげで島を脱出できたし、裏のMVPである。


「ありがとう、雷。改めて礼を言う」

「いや、いいさ。妹たちのことを守ってくれた恩がある。こちらこそ、ありがとう」


 頭を深々と下げる雷。意外や礼儀正しいヤツだ。良いやつだな。



 ◆



『――次に、明日の天気は――』



 テレビにはこれといった事件の報道はない。

 鹿児島湾のことは、まったくといって報道されていなかった。神造島での出来事はまるで、なかったことにされているような強い圧力を感じた。


 あんなド派手に戦ったというのに、日本はいつものように平和そのものだった。

 いくらなんでも平和ボケしすぎだ。



「これが八咫烏の権力ということでしょう」

「ん、おおう。北上さん、いつの間に」



 居酒屋の方でテレビを見ていた俺。北上さんが隣に座って水を注文していた。



「次に彼らが取る行動はひとつ。直接、あたしたちを叩く」

「マジか」

「ええ。もう時間の問題でしょう。我々が日本を脱出すると感づいているはず」


 まるで向こうに軍師でもいるかのような言い草だ。俺たちの行動を読み取っているとでもいうのか。超能力とかじゃあるまいし。


 それとも、エドガー・ケイシーのようなアカシックレコードにアクセスできる預言者か……!?

 いやいや、非科学的すぎるって。

 考えすぎだな、俺。


「まさか、そんなはずはないだろう」

「残念ですが、彼らは陰陽道に通じているんです」

「陰陽道って、あの陰陽?」

「そうです。呪術や占術のプロです」

「そんなオカルトすぎるって……」


「なぜなら、八咫烏の正式名称は『八咫烏陰陽道』なのですから」



 俺はそれを聞いてゾッとした。

 調べたらマジでそう書いてあった……。


 だとしても、俺たちが対馬に潜伏しているとか特定できるわけないよな。もし、超人的な力を持つヤツがいるのなら、それに対抗する術はないぞ。



「日本に本当の自由なんてあるのかなー」


 俺の隣の席に桃枝が座った。

 北上さんと桃枝に挟まれた。



「ないだろうな。税金や物価ばかり上がって暮らしは良くならない。少子化にも拍車がかかっている」

「賃金も上がってないよね」



 桃枝の言う通りだ。どのみち俺は普通に働くとか、そういうビジョンが見えなかった。今が理想的ではある。

 大切なみんなと共に生活が出来るのなら、どこへだって行く。


 けど、今は出来る限りは国内を転々とする。可能な限りまでだ。

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