どの国へ移住しよう?
ホテルのそばには、大海原が広がる。
長い防波堤があって結構先へ歩ける。俺は、桃枝をおんぶしながら先へ進む。……う~ん、いい感触。
「天気もいいし、空気も美味しいな」
「そうだね、てっちゃん」
ぎゅぅっと抱き着いてくる桃枝。
彼女は小柄ながらも凶悪な胸をお持ちだ。俺の背中が幸せを叫んでいる。
(イヤッホ~~~~~~~~~~~~~~~~ウ!)
いやしかし、対馬は海が綺麗だな。
気候も穏やかで極端に暑くも寒くもない。今がまだ秋だからだろうけれど。
とはいえ。
時期に寒くなる頃だ。長袖を用意しておかないとなぁ。
「日本にこんな島があったとはな」
「対馬って最近、ゲームでやっと有名になったくらいだもんね」
世界的にも人気を博した某ゲームの舞台にもなっている。あれで知名度が上がったと言っても過言ではないだろう。俺もゲームで知った口だし。
「桃枝はゲーム好きなのか?」
「うん、まさにプレイしていたよ」
「ほ~、ゲーマーだったとは。言ってくれれば対戦相手になったのに」
「今はサバイバルゲームにハマっているからね~」
「そうなのか」
「うん、めちゃくちゃ面白いよ。すぐ殺されるけど」
あはは~と笑う桃枝。なんだそのハードそうなゲーム。どうやら、オンラインゲームのようだが。
「ところで桃枝はさ、家族とか大丈夫なのか?」
「大丈夫。私の家族は海外に引っ越した」
「行動が早いな」
「うん、とっくに日本を脱出したよ。お金たっぷりあげたし」
「送金済みだったか」
「まあね。てっちゃんこそ、家族は?」
「海外旅行をプレゼントした。しばらくはアメリカで滞在だな」
「へえ、アメリカかー」
謎の組織に狙われたり、人質に取られたりしたら……ひとたまりもないからな。
アメリカのグリーンカードを取得したりするのは非常に難しいと聞く。なら、旅行で回ってもらう方がいいと考えた。
みんなも同じ考えのようで、家族を海外へ移住させたり旅行させるという方向で調整中のようだ。その方が安全だな。
八咫烏なんて組織を聞かされてはな。もう日本は安全とは言えない。この国には巨大すぎる裏組織が暗躍しているのだ。もう俺たちの手には負えないレベルだ。
とはいえ、また狙ってくる可能性がある。
……櫛家、それに万由里さんは組織の一員だった。
万由里さんを排除してしまったので、櫛家はきっと怒り心頭。そもそも、俺たちのことなんて“駒”にしか思っていなかっただろうな。利用されるだけされてボロ雑巾のように捨てられる未来しかない――。
「しかし、どの国が良いんだろうな」
「あー、私たちのこと?」
「そそ。俺たちはどこへ移住するかねぇ」
「対馬からなら韓国、北朝鮮、ロシア、中国が近いかなー。特に韓国は近いよ」
「そういえば、対馬にはハングルが多いな」
対馬は韓国と近いせいか、韓国人の観光客も多いようだ。そのせいだろうか、看板にハングル文字も書かれていた。
「結構いるらしいよ~」
「ほー。まあ、周辺はないわな」
「だよね。ホンジュラスにでもしてみる?」
「なんでだよ。治安の悪い国で有名だぞ。殺されるって」
「殺人事件発生率が最も高いんだってね」
メキシコと双璧を成すだろうな。
とにかく、治安がよくて税金が安くて、住みやすい場所がいいなぁ。
どこかそんな最高の国はないものか。
「みんなの意見も吸い上げてからにすっか」
「そうだね、そうしよう」
俺は踵を返した。そろそろ戻ろうと思った。
振り向くと丁度、北上さんが現れた。
「ここにいたのですね、哲くん。桃枝」
「丁度いい。北上さん、これから天音たちの様子を見に行こうと思う」
「そう思っていました。では、車を出すので」
「頼んだ」
北上さんは国際免許証を持つので、レンタカーの運転が可能だ。十八歳だから問題ない。彼女の運転で病院へ向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます