牛丼屋会議

 ホテルをチェックアウトし、周囲を警戒しながら街中を歩く。


「ひとまず、朝食だな」

「いいね、賛成~! そこの牛丼屋さんでもどう~?」


 天音が指さす方向には、大手チェーン店の牛丼屋があった。朝から牛丼とはな……! 悪くはないけど、ガッツリ系で驚く。


「ほ~、天音は朝から牛丼がいけるタイプか」

「よく意外って言われる。でもね、牛丼屋さんには牛丼だけじゃないんだよ」

「ん? まあいいか。北上さんはどうかな」


 一応聞いてみると北上さんは「いいですよ」と言ってくれた。

 決まったところで入店。


 お客はカウンターとテーブルにそれなりに居た。


 俺たちは空いているテーブルへ。


「はい、タブレット」


 テーブルに設置されているタブレット端末を取り出す天音。そうか、このチェーン店はタブレットで注文するんだったな。久しぶりだから忘れていた。


 メニューに牛丼、ねぎ玉、チーズ牛丼、高菜明太、おろし、キムチなどなどあった。どれにしようか悩むなぁ。


「天音はどれにする?」

「わたしは最初から決まってるんだ」

「へえ、参考に教えてくれよ」

「チーズ牛カレー!」

「ほ~、カレーか。悪くないな」

「でしょー! かなり前だけどね、友達に誘われてさ」


 その時、チーズ牛カレーを食べたら、すごく美味しくて気に入ったというわけらしい。へえ、俺は普段は牛丼にしてしまうからな。たまにはカレーにしてみようか。


「あたしは決まりました。朝食セットにします」


 北上さんも決まり、注文したようだ。

 朝食メニューか。

 それも無難でいいな。

 ごはんに味噌汁、それに卵とベーコンというスタンダードな定食だ。もはや牛丼ではないが値段が400円と良心的。


 よし、決めた。


「俺は、おろし牛丼にする」


 これで全員決まった。


 が、タブレットで注文して一分も掛からず牛丼が出てきた。


 早ッ!!


「お待たせしました~、おろし牛丼です」


 もう出てきちゃったよ。

 いや、知っていたけど早すぎるって。

 カップラーメン以上のスピード感だったぞ。


 天音の頼んだカレーや、北上さんの朝食も届いた。飲食店の中では、提供時間が日本最速ではないだろうか。


 箸を配り、俺はいただきますをして、さっそく舌鼓を打っていく。


「美味いっ……!」


 おろしと牛肉の塩梅が完璧だ。こんな美味しいモノを食べられるなんて幸せだぞ。無人島では、草とか虫、獣臭い肉しか食えなかったからなぁ。


「久しぶりに食べたけど、カレーも美味しい~。早坂くん、よかったら少し食べる~?」

「お、いいのか。じゃあ、遠慮なく」

「はい、あ~ん♪」


 まさかの“あ~ん”に俺は驚く。

 天音からしてもらえるのは奇跡のように嬉しい。だが、北上さんとか周囲の視線が……!


「あたしは気にしませんけど」


 その割には顔が笑ってないぞ!

 いや、普段からクールだから分からんけど!


 ちょっと気になるが、俺は天音のカレーをいただいた。……濃厚で美味っ! チーズもトロトロで最高だな。


「美味いよ、天音。牛丼屋のカレーって美味いんだな。知らなかったよ」

「でしょー! 意外と美味しいんだから」


 間接キスとなったスプーンを構わず使う天音さん。最高の気分で朝食を進めていく。



「そういえば、櫛家の件ですが」

「どうしたんだい、北上さん」

「とりあえず、千年世を頼ってみてはいかがでしょうか。やはり、外部の人間は信用なりませんし」

「おいおい、北上さんが櫛家を紹介してくれたんだろう」

「それはそうなのですが、島購入は身内を頼った方がいいと感じたので……」



 北上さんがそう言うのなら、そうした方が良い気がした。


 朝食を食べ終え、俺はスマホを確認。


 千年世から個別のメッセージが来ていた。



 千年世:なにか任務ですか?

 早坂:そうだ、鹿児島にある『神造島かみつくりしま』を買い取って欲しい

 千年世:島をですか? いくらするんです?

 早坂:三億円だ

 千年世:さ、三億円!?

 早坂:信頼できる千年世に三億を預ける。神造島を購入してくれ

 千年世:責任重大じゃないですか……(汗)

 早坂:だからこそ、千年世に任せたい

 千年世:分かりました。がんばりますね

 早坂:それじゃ、海外口座から経由して暗号資産で送る


 今の時代、暗号資産で決済できる店舗が増えている。それに、最近は暗号資産用のATMもある。都心に限るが……。

 千年世には上手く立ち回って貰い、現金を引き出してもらう。もしくは何かしらの方法で決済を進めて貰う。


 千年世:では、進めていきますね!

 早坂:頼んだぞ


 連絡を終え、俺は天音と北上さんにも情報を共有した。北上さんが少し心配そうにするも、納得はしていた。


「千年世が動いてくれたのですね」

「ああ、千年世なら大丈夫だろ。真面目だし、北上さんの一番弟子だからな」

「そうですね。彼女にはあたしの全てを叩き込みました。健気で可愛いですよ、彼女は」


 あの超キツイ軍事訓練にも、弱音を吐かずに耐えていたからな。


 ともあれ、これで島購入の件は進んだ。

 櫛家を頼ろうとしたが、確かにリスクは高い。

 そもそも、ピンクダイヤモンドを要求してきているしなぁ。とはいえ武器を提供してもらった恩もある。


 そうだ、ダイヤモンドの件を伝えないといけないな。

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