三億円の神造島

 ベッドに寝っ転がりながら、天音と無人島を探す――なんて時間が訪れようとは思いもしなかった。


「巌流島、沖ノ島、猿島、八丈小島、知林ヶ島とかどう?」

「おいおい、天音さん。観光でもする気か? そこは人気が多いぞ」

「あー…そっかぁ」


 残念そうな声を漏らす天音。

 他人がいる場所はなるべく避けたい。

 ガチの無人島を選ばないとな。


「この辺りだと『神造島かみつくりしま』とかじゃないか。別名は隼人三島というらしく、本物の無人島だ」


「な、なんだか凄い名前だね。神様がいそう」

「ああ、神様が造った島と言われている」


 俺はここがありなんじゃないかと思った。弁天島、沖小島、辺田小島の三つの島があるらしく、その総称が『神造島』というらしい。

 つまり、島が三つ存在するのだ。

 逃げ場も多いし、リスクも分散できる。


 しかも、かなりマイナーな場所ときた。ここなら見つかりにくいはずだ。



「へえ、神造島かぁ……あれ。今ネットで調べてみたけど、ここって売られているんだね」

「マジ?」


 天音のスマホを見せてもらうと神造島がなんと三億円で売りに出されていた。さ、三億円もするのかよ。いや、買えない額ではないけれど。


「へえ、島って売られているものなんだな」

「結構あるらしいよ」


 島を買い取れば、俺たちが自由に使えるわけだ。しかも、ここなら戦場になっても場所的に問題ない。

 広さも十分だし、アリだな。


「ここにしよう。もちろん、みんなの意見も聞いてからだけど」

「わたしは良いと思うよ~」

「天音は賛成っと。それじゃ、アプリでメッセージを飛ばして聞いておくか」


 俺はグループメッセージで賛否を募った。

 結果は明日以降だな。


「だいたい話はまとまったね!」

「ただ、ロシア人にマークされているからな。俺たちはしばらく動かない方がいいかも」

「じゃあ、千年世に任せる?」

「そうだな。しばらく俺たち以外のメンバーに任せようと思う」


 それまでは国内をあっちこっち回って、ロシア人共の動きを調べる。奴らがどうやって俺たちを追ってきているのか、まずは特定するべきだ。

 でなければ、また無人島にもついてこられてしまうからな。


「了解。……ふぁぁ、眠たい」


 眠そうにする天音は、今にも眠ってしまいそうだった。


「って、天音。ここは俺の部屋だぞ」

「いいじゃん~。一緒に寝よ」


 それでは各部屋を取った意味がなくなるのだが……まあいいか。


「分かった。寝よう」

「やったー! 早坂くんと一緒で嬉しいなあ」


 俺は観念して横になった。

 天音が隣にいて俺も嬉しいけどねっ。



 疲れていたんだろうな、天音は直ぐに眠った。

 気づけば俺も夢の世界へ――。



 幸い、襲われることなく朝を迎えた。

 気持ちの良い青空が広がる。

 ここは六階だから景色も良い。

 博多の街並みが望める。


 鈍った体を解していく。天音はまだ眠っているので、俺は窓辺で景色を楽しみながらも、スマホを覗いた。

 特にこれといったニュースはない。

 メッセージの方は……お、全員から返信が来ている。



 北上さん:おっけーです!

 千年世:私も賛成です~

 桃枝:いいと思う!

 リコ:意義なしよーん

 艾:問題なし

 星:兄様の意見に従います

 月:従います

 大塚:OK

 八重樫:賛成

 ほっきー:〇

 大伊:行けないけど賛成~

 篠山:よきよき

 野茂:どちらでも~



 八重樫など待機・帰省組からも同意を得た。これで問題なし。


 今後の移住先は『神造島かみつくりしま』に決定。


 俺は三億円のキャッシュで島を購入することにした。


 今日はその手続きをしに行く。



「お、北上さんからメッセージだ」



 北上さん:おはようございます、啓くん。そちらへ行っても?

 啓:いいよ、天音もいるから

 北上さん:了解しました



 しばらく待つとノックが響く。

 俺は扉を開け、北上さんを招いた。



「改めまして、おはようございます」

「おはよ、北上さん」

「もしかして、天音さんは昨晩から?」

「そうなんだ。ほぼ寝落ちみたいな形で……」

「そうですか。あたしも行けば良かったです」


 ちょっとションボリする北上さん。


「なぁに、無人島を買えば自由を手に入られるさ」

「三億円ですよね。これから契約を?」

「そのつもりだ。だけど、ロシア人が鬱陶しい。なんとかならないかな?」

「今は他の仲間に代行してもらう方がいいでしょう」

「そうだな。俺や北上さん、天音は顔が割れている。となると、存在が漏れていなさそうな人に依頼する方がいいか


「千年世や桃枝たちを頼っても同じかもです。なので、ここは……そうですね、櫛家を頼りましょうか」

「櫛家か……それしかなさそうだな」


 今日また櫛家を頼ってみよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る