リボルバー式拳銃のスターム・ルガーSP101

 ホテルへチェックインしようとすると、嫌な感じがした。


「……!」

「啓くんも感じましたか」

「北上さんも?」

「ええ。誰かに見られているような」


 キョロキョロと周囲を見渡すが、日本人と外国人観光客が数名いる程度だ。ロシア人らしき人間はいない。


「気のせいかな」

「さあ、どうでしょうね。警戒した方がいいかもです」

「そうだな。だけど、ここは人目も多い場所。そう簡単には襲ってこれないはず」

「駅前なので大丈夫でしょう」


 気にせず受付へ向かい、チェックインした。

 部屋は五階にあるシングルルームだ。

 エレベーターで上がり、到着っと。


「北上さんは505、天音は506、そして俺が507号室だ」

「みんなバラバラかぁ~」

「天音、さすがにこういうホテルで一緒は無理だ」


 セミダブルルームで二人までなら大丈夫なのだが、その場合はひとり省かれることになるからな。だったら、最初からバラバラの方がいいと俺は結論に至ったわけでして。


「そっかー、残念」

「たまには一人の時間があってもいいだろ」

「まあね。じゃあ、あとで早坂くんの部屋へ行くね!」

「それならいいぞ」

「うん!」


 サムズアップを交わし、俺は部屋へ。

 こうして一人というのも久しぶりだな。


 507号室の部屋を開け、俺は中へ。

 重い荷物を下ろし、体を解した。……っと、いかんいかん、北上さんの荷物を渡し忘れていた。いったん505号室へ向かうか。


 部屋を出て、505号室へ。


 ノックをしようとすると扉が少し開いていた。


 なんだ?


 どうして少し開いているんだ……って!



『ガタンッ!!!』



 激しい物音がして、俺は部屋の中で何か起きていることに気づいた。これは嫌な予感がする!!



「北上さん、悪いけど入らせてもらうぞ!!」



 突入すると、北上さんがベッドの上に寝転がっていた。大の字で。なんてカッコだよ。……あれ、でも無事だぞ。



「これはこれは啓くん。夜這いにはまだ早いですよ」

「なんでだよ! 荷物を渡しに来たんだよ。てか、扉開けっ放しでなにしてんだよ」

「扉を開けていた理由は、すぐに啓くんの部屋へ向かおうと思ったからです」

「寝転がっているは? 結構な音がしたけど」

「ええ、実は盗聴器や隠しカメラが設置されていないか、天井のエアコンを探っていたんです。しかし、手を滑らせてしまい……」


 転落してベッドの上に転がり落ちたわけか。

 その音だったわけか。


「大丈夫なのか?」

「大丈夫です。手が滑っただけなので」

「それならいいが。じゃ、荷物置いとくぞ」

「あら、中身は見なかったのですね?」

「勝手に開けるわけないだろ」

「下着だったのに」

「――んなっ!!」


 そうだったのか――って、そりゃそうだろうな。生活用品が入っていると言っていたし。北上さんめ、俺に下着を運ばせていたとはな!


 顔が熱くなってきたので、俺は北上さんの部屋を出た。


 自室の507号室へ戻り、扉を開けると――。



「待ちわびたぞ小僧」

「!?」



 部屋の中に仮面をした男がいて、銃を俺に向けてきた。



「軍艦島以来だな」

「な、なぜここに!!」

「私の名はヴァレンティン。今日はひとつ忠告しに来たのだよ」

「ちゅ、忠告……?」

「そうだとも。お前たちは絶対に逃げられないとな」

「なんだと……!」


 俺は腰に隠していたハンドガンを抜き、ヴァレンティンに向けた。


「ほう、リボルバー式拳銃のスターム・ルガーSP101か」

「さすがに詳しいな。けどな、俺たちをしつこく追い回すな! ここで終わりにしてやる!」


「止めておけ。今、そこで引き金を引けば隣のお嬢ちゃんたちの命が一瞬で尽きることになる」

「なに……?」

「緊急手配したMiG-29の攻撃でこのホテルが吹き飛ぶことになるぞ」

「ミグだと!? 戦闘機じゃねぇか!!」


 マジかよ……!

 このままではみんなに危険が及ぶ。

 男の話を素直に聞くしかないか。


「どうするかね?」

「……抵抗はしない」


 銃を地面に置き、俺は両手を頭の後ろへ。



「素晴らしい判断だな。まあいい、今日のところは挨拶代わり、また近い内に会おう」

「近い内に?」

「いずれ分かる。今言えることは、ただひとつ。お前たちをいつも・・・見ているぞ・・・・・



 俺の横を通り過ぎていくヴァレンティン。この男……何が狙いだ? なぜ、俺の目の前に現れた?

 どうする、このまま男を取り押さえるか?


 いや、だめだ。


 無線で戦闘機を呼ばれたら、天音と北上さんだけじゃない……関係のない民間人を巻き込んでしまう。そうなったら、もう戦争しかなくなる。


 ここは気持ちを抑え、俺は男が去るのを待った。


 しばらくしてヴァレンティンの気配が消えた。


 すぐに天音の元へ向かった。



「天音、開けてくれ!!」

「なーに、早坂くん」



 扉を開ける天音は、ほぼ下着姿だった。わっ、大胆だな。



「緊急の話がある。今すぐ北上さんの部屋に集合だ」

「え? ええ~!? わたし、服着てないよぉぉ!」

「いいから、直ぐ!」

「ちょおおおおおおおお!!」


 俺は、赤面して暴れる天音の手を引っ張り、北上さんの部屋へ。

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