掲示板の怪しい書き込み

「みんな、今のところは『オーハ島』にするつもりだ」


 無人島であること、かつて逃亡犯が利用していた経緯を説明した。すると、みんな納得してくれた。


「沖縄かぁ。海も綺麗だし、いいじゃん!」


 リコが賛成と手を上げる。

 同調するようにみんなも手を上げていく。

 決まりだな。


 引越しのための作業を進めていく事になった。


 いよいよ無人島へ向かうんだ。

 学校はまだ再開するか未定のようだし、それまでの隠れ家にする。


 そうして俺たちは一日かけて荷物をまとめた。



 * * *



 最低限の荷物を持ち、俺たちは別荘を出た。

 港まで車を走らせる必要があるが、天音の専属執事が現れてマイクロバスに乗り込んだ。


 おかげで大人数で移動できることに。


 熊本の別荘から鹿児島にある港へ向かう。

 昼頃には鹿児島に入った。


「ここから鹿児島港へ向かうみたいですね」


 俺の隣の席の北上さんがつぶやく。

 恒例のじゃんけんに勝ち、俺の隣に座る権利を得た結果、こうなった。


「桜島も見えるかな」

「ええ、近くなので見れるかと」

「へえ、詳しいね」

「観光に来たことがあるんですよ」

「そうだったのか」


 ちょっと意外というか、なんというか。


「ところで、この人数で本当にオーハ島へ?」


 北上さんは少し心配そうに言った。

 分からんでもない。

 この大所帯でゾロゾロと沖縄は逆に目立つ気がする。だが。


「可能な限り一緒にいるべきだ」

「しかし、入院している方達はどうしましょうか」

「ああ、八重樫か」

「篠山さんと野茂さんもです」


 八重樫は相変わらず入院中。

 篠山と野茂は、そんな八重樫の面倒を見てくれている。


「心配すんな。彼女たちはむしろ安全なはず。天音が紹介してくれた信頼できる病院だし、大丈夫さ」


 一応、護衛もつけてくれたしな。

 いずれは合流するさ。


 今は財宝をいったん無人島へ運び、それから現金化をしていくべきだ。


 そう考えていると――。



「ああああああああああ!!」



 後ろの席の桃枝が叫んだ。何事ぉ!?



「どうした、桃枝」

「て、てっちゃん! 大変、大変、大変、大変だよおおおおおおおおお!!」

「お……落ち着け。なにがあった?」

「こ、これだよ。これ見て」


 ノートパソコンを覗く。

 どこかの掲示板らしい。

 そこにはこう書かれていた。



 Anonymous XX/XX/XX(Sat) 00:10:37 ID:KGB


 島の生還者に告ぐ。

 我々はついに財宝の在り処を見つけた。

 少年少女よ、隠れても無駄だ。

 必ずやお前たちの前に現れ、財宝をいただく。

 いつもお前を見ているぞ。



「こ、これは……海外掲示板の書き込みか」

「うん。見ていたら偶然見かけてさ……」


 悪戯の可能性もあるが、しかし、注意するに越したことはない。これが警告だとすれば、近い将来なにかあるかもしれないな。


 いや、既にあった。


 俺と天音、北上さんはロシア人らしき暗殺者から狙われた。


 そうか、もうすでに始まっていたんだ。


「早く無人島へ行かないとな」

「それにね、愛ちゃんの別荘に念のために隠しカメラを設置したの」

「おう?」


 再び画面を見る。

 すると、そこには別荘の映像がいくつかモニターされていた。よく見ると怪しい黒服の男が侵入している様子が映し出されていた。


「これってヤバくない?」

「な……ウソだろ。場所を特定されていたのか!?」

「そうみたい。これ、追われてるってことだよね」


 ここまで近づいてきているのか。ということは掲示板の書き込みは信憑性がかなり高い。俺たちを狙っているということだ。


「まずいですね。早く沖縄へ向かう方がいいでしょう」


 隣で映像を見ていた北上さんがそう言った。


「別荘を出て正解だったわけだ」

「ええ、素晴らしい判断でした、啓くん」


 褒められて俺は照れた。

 その間にも、天音や千年世、リコたちが驚いていた。


「ウソ……別荘に不審者がいたの?」

「危なかったな、天音」

「怖すぎでしょ……」


 青ざめる天音。

 あの別荘はもう空になっている。俺たちの痕跡はまるっと消えている。だが、居場所まで突き止めた連中だ。こっちに迫ってくるのも時間の問題だろうな。



「もしかして、内通者が?」

「う~ん……お父さんの会社って大きいから、従業員もたくさんいるし」



 分からないと、天音は声を沈めた。

 疑いたくはないが、もしかしたら天音の関係者に裏切者が……としか思えない。別荘の場所まで特定だなんて、普通は無理だ。


 きっと誰か情報を漏らしたに違いない。



「とにかく、沖縄まで行くべきだ」

「そうだね、早坂くんのおかげで命拾いした。ありがとね」

「いいってことさ」


 いよいよ鹿児島港が見えてきた。

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