無人島へ移住?

 荷造りをしていく。

 必要なものだけをリュックや手提げカバンに詰め、部屋も綺麗にした。この部屋には随分と世話になったしな。


 それに、北上さんのススメで、天音は別荘を閉鎖。いずれは競売に出すという。

 そうだな、それがいい。

 痕跡を残さず引っ越す方が何かとリスクが少ない。


「今日はここまでにしよ~」


 まだ荷物をまとめられない天音が疲れた顔で言った。


「天音、まだ荷物がたくさんあるじゃないか」

「あとは引越し業者に頼むから」

「仕方ないな。ちなみに、次はどこへ?」

「無人島かな」

「……へえ、無人島か。って、無人島!?」

「うん。だってさ、それが一番良くない? 誰にも狙われないし、安全だしさ」


 住み慣れているし、と天音は付け足した。

 まさかの『無人島』かよ。

 そりゃあ、宝島とか北センチネル島での経験があるけどさ。

 わざわざ無人島へ行くこともないだろうに。

 いや、けど一理あるな。

 逃亡犯が無人島で長期潜伏に成功していた例もある。


「オーハ島ですね」


 俺の心を読んだかのように北上さんは、その名の島を口にした。いや、天音から聞いていたのか。


「まさか……マジ?」

「天音さんはそのつもりのようですよ、啓くん」



 マジかよ!!

 オーハ島……沖縄県島尻郡久米島町にあるという無人島だ。

 逃亡犯が潜伏していたことでも有名になった島である。

 まさか、本当に行くつもりだったとは。


「ちょい、天音。それ本気か?」

「ダメだった?」

「ダメじゃないが……むぅ」

「大丈夫だって。財宝を隠す為だから」

「なるほど、それなら仕方ないか」


 本州に置いておくよりは安全か。

 それに、オーハ島なんて行こうと思う奴、そんなにいないだろうし。


「決まりですね。では、明日に備えて寝ますので」


 北上さんは俺のベッドに潜り込んできた。天音も同様に。



「じゃあ、みんなで寝ますか」



 細かいことは明日に考えよう。

 今は眠たい……。



 * * *



 目覚めて体を起こす。

 すんなり起きれて俺は驚く。

 いつも天音も北上さんも俺にベッタリなのに、今日は不在。

 部屋に俺ひとりだけだった。


 珍しいこともあるものだ。


 ベッドから飛び降り、寝室を出るとリビングがなにやら騒がしかった。


 気になって向かうと。



「オーハ島よりも対馬がいい!」


 この声はリコか。


「なんでそんな目立つところなの」


 呆れている方は天音らしい。

 珍しいなこの二人が言い争いだなんて。



「おはよ。どうしたんだよ」


 挨拶をすると、リコも天音も俺の方へ駆け寄ってきた。



「ちょっと聞いてよ、啓くん!」

「早坂くん、オーハ島でいいよね!?」



 二人とも、こっちを選んでと目線を送ってくる。……こ、これは困ったな。どっちを選択しても不機嫌にさせてしまう。

 喧嘩はさせたくないな。

 てか、リコの言う対馬は無人島ではないけどな。


 そうだ、こうするか。



「北上さんはどう思う?」

「あたしに振りますか。……そうですね、強いて言えば『青ヶ島村』ですね」

「東京じゃないか。しかも、かなり離れた島じゃん。そりゃ、観光にはいいかもしれないが、却下だ!」

「ちぇ~」


 なぜか不貞腐れる北上さん。

 行きたかったのかよッ。

 だが宝を隠すには向かなすぎる。

 あと金も掛かり過ぎるし。


「私はホノルルがいいです」


 俺の横でボソッとつぶやく千年世。


 ハワイじゃねぇか!


 みんな観光がしたいのだろうか……。


 これは決まりそうにないぞ。

 こうなったら俺がビシッと決めるしかないか。

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