命を狙われている

 混乱していると北上さんが耳打ちフォローしてくれた。


「啓くん、端的に言って口紅のことですよ」

「な、なるほどな」


 なんとか言語化できた俺。

 焦りつつも天音と北上さんの欲しいものを買ってあげた。二人は喜んでくれたので――結果オーライ。あぶねぇ……危うく失神するところだった。


 溜息を吐きつつも、お店の外へ。


 俺みたいなハイブランドと無縁のヤツが入る場所じゃなかったな。ちょっと後悔した。けれど、天音も北上さんも大喜びだし、この笑顔が見れただけヨシとしよう。一応、おまけのお土産もこっそり買ったし。


 お店を出て次の目的地へ向かおうとした――その時だった。


 建物の物陰から男が現れ、懐から何か取り出した。……え、まさか。


 そのまさかだった。


 男は、サイレンサー付きのハンドガンを取り出し、天音に向けた。彼女は驚いていたが、その前に男は引き金を引いた。させるか……!


 俺は、お土産のハンドクリームを投げつけて銃口を弾いた。

 弾丸はそれて空へ打ち上がる。

 風を切り裂くような音が響くと同時に、天音が尻餅をついた。


「北上さん、天音を頼む!」

「了解」


 俺は、北上さんから学んだ格闘術『ディフェンドゥー』を使った。男の前に素早く移動し、掌底打ちを食らわせた。



「ぐあぁッ!?」



 中年の男が倒れるものの、体勢を整えて逃げ出す。野郎、受け身を……プロか。

 追いかけようとすると別の方角から弾丸が飛んできて、俺の頬を掠めた。あっぶね!



「啓くん! 建物の屋上にスナイパーがいるようです!」

「マジかよ。仲間がいるっていうのかよ」


 すぐさま男の落とした銃を回収。北上さんに天音を背負ってもらい、俺は周囲の警戒する。とりあえず、この場を離れないと狙撃されてしまう。


 直後、弾丸が降ってきて周囲の店の窓ガラスを破壊した。やっべ……。完全に俺たちを狙っていやがる。


 けど、相手の場所は分かった。


 車の陰に隠れ、壊れたサイドミラーを使った。手にしたサイドミラーが狙撃され、破壊された。……なるほど、さきほど入店していた店に対面しているビルか。


 距離にして約80メートルといったところか。


 それにしても、周囲は騒然となっている。人々は異常事態を察知して逃げ惑い、ちょっとしたテロ事件になっていた。まずいな、このままでは警察も来る。早い内に退散しないと。

 だが、事件を面白がってスマホのカメラを向ける馬鹿共がいた。こんな時に撮影しているとかアホか! 巻き込まれたら死ぬぞ!


 いや、それよりだ。


「天音、ケガは?」

「だ、大丈夫。はぁ……びっくりした。いきなり銃を向けられるとか」

「良かった。天音になにかあったら、俺生きていけないから」

「……え、早坂くん、それめっちゃ嬉しい。もう一度言ってくれる?」

「ば、馬鹿……今はそんな場合じゃないだろ。って、北上さん……どうして膨れてるの!?」


 ジト~っとした目を向ける北上さん。ちょっと病みつつあるし、まずいな。


「…………むぅ」

「不貞腐れるなって。今は協力すべきだ」

「仕方ないですね」


 そういって北上さんは、プリーツスカートをなまめかしく、たくしあげた。白いふとももがまぶしい。


「ちょ!」

「どこを見ているんですか」

「いやいや、北上さんが見せてきたんじゃないか!?」

「というのは冗談で、この武器を隠し持っていたんです」


 取り出したのは小型拳銃『レミントン・デリンジャー』だった。あぁ、映画とか漫画でよく使われている銃か。掌サイズで暗殺用に使われやすい。まさか、フトモモに隠し持っていたとは。いわゆる、レッグホルスターだな。


「そんなのを持っていたとは」

「しかし、これは装弾数がたったの二発しかありませんので」

「心もとないが、ないよりマシか。しかし、相手はスナイパーだぞ」

「大丈夫。啓くんの腕ならスナイパーを仕留められます」

「んな無茶な」


 凄腕のガンマンじゃあるまいし。むしろ、北上さんがサイレンサー付きを使うべきだが……いや、だけど俺は二人を守るって決めたんだ。だから――。


 考えろ俺、この窮地を脱する方法を。


「ねえ、早坂くん」

「どうした、天音」

「このリップグロスを使って」


 それはさっきお店で買った……なるほどな。これしかなさそうだ。とりあえず二人を救える。


 やってやらァ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る