第六部:財宝現金化

百万円デート

 帰国して三日が経った。

 宝島のお宝騒動のニュースは次第に終息し、世間の話題から姿を消しつつあった。所詮、噂も七十五日。人々の記憶から忘れ去られようとしていた。


 俺たちにとっては好都合で助かる。


 高校はぼちぼち再開するようだ。おかげで夏休みがなくなりそうだが、仕方ないだろう。非日常から日常へ戻ろうとしていた。


 しかし、俺たちは高校中退も視野に入れていた。

 今日はそのことを相談すべく、天音と北上さんを連れ出して俺含め三人でカフェへ。俺のおごりでフルーツ盛りの『スペシャルミックスフラペチーノ』をご馳走した。


「で、天音はどう思う?」

「ん、どう思うって?」

「いやだから、学生生活のことだよ」

「あー、それね。う~ん、卒業はした方がいいと思う。だって、中卒になっちゃうじゃん?」


 ストローを咥える天音は、上目遣いで俺を見た。相変わらず可愛い……ではなく、ウムム。そうか、天音は卒業を考えているか。


「北上さんは?」

「あたしはどちらでも。啓くんについていくだけです」


 俺次第ってわけか。


「千年世や桃枝、他のみんなにも聞いてみるか」

「その方がいいでしょう。みんなで話し合って決めるべきです」

「そうだな、そうするよ。すまん」

「いえ、謝る必要はありません。今は結束の時ですから、一人でも欠けない方がいいのですよ」


 北上さんの言う通りだ。少しでも信頼できる味方がいる方が効率や安全性も違うし、それに、困難を一緒に乗り越えてきた仲間だからな。見捨てることはしない。全員を幸せにしてこそ、本当のゴールだ。

 その為にも早めに移住先を決定しないと。けど、高校を卒業する必要があるなら、もう一年半は掛かるわけだが。



「よし、それじゃ帰ってから……」

「まった」

「どうした、天音」

「せっかく日本に帰って来たんだから、少しは楽しもうよ」

「というと?」

「デートしよって言ってるの」


 期待の眼差しを俺に向ける天音。これは断れないな。それに、俺自身も少し遊びたい気分があった。今まで食人族だとかテロ組織を相手にしていて遊ぶ暇なんてなかったからな。いいタイミングだし、天音と北上さんを連れ回すか。



「分かった。少し遊ぶか」


「「賛成!!」」



 天音も北上さんも即答だった。

 二人とも遊びたかったんだ。



 カフェを後にして、二人に腕を組まれるこの状況……周囲から視線が集中しまくっている。こんな可愛い美少女二人から囲まれていれば、そりゃ嫌でも目立つわな。



「うわ、あの兄ちゃんスゲェな」「あんなアイドルみたいに可愛い娘をはべらせて……」「うらやましいなぁ、オイ」「金髪のコ、美人だなぁ」「なにをしたら、あんなモテモテになれるんだよ……」「ふざけんな、爆発しろッ!」



 ――とまぁ、男共からの羨望や憎悪が向けられまくっていた。そんな目で俺を見ないでくれッ!


 街中を歩き、ブランド店へ入った。



「え、早坂くん。こんないい店入って大丈夫なの?」

「心配するな。秘密裏に財宝を売った金があるんだ。キャッシュを隠し持っている」


 懐から百万円を取り出すと、二人とも驚いていた。



「ちょ……帯封付きとか!」

「いつの間に現金化していたんです!?」



 俺は、織田姉妹の知り合いに頼んだことを二人に話した。


「え、ルナちゃんと、ヒカリちゃんが?」

「そ。あの姉妹の親は、ニューヨークで美術品や宝飾品、骨董品やブランド物を扱うオークション会社を経営しているようだ。そこにお願いしているよ」


「なんだか凄いね」


 天音はポカーンとしていたが、北上さんは興味深そうにしていた。



「なるほど、あの姉妹が」

「なんだい、北上さん。なにか思うところが?」

「いえ、何でもないのです。それより、なにか買ってくれるのです?」

「もちろん。香水とかどうだ」


 あんまり詳しくないのだが、ここは『ROID』とか大手ファッションブランドを取り扱っているお店だ。どれも一万を超える高級品ばかりだ。数日前、千年世が雑誌を読んでいて目に入ったので、女子なら喜ぶかなと思ったのだ。


「いいですね。ちょうど切らしていたので」

「そりゃ、良かった。天音は?」


「わたしはリップグロスかな。 ホログラフィックが好みなの」


「…………」



 リップグロス?

 ホログラフィック?


 天音は何語を喋っているんだ!?


 やべぇ、男の俺には女子の世界なんて分かるわけなかった。滝のように汗を流す俺。心臓もバクバクしてきた。


 身の丈の合わない場所に入って、俺は今更後悔した。


 なんてところに入ってしまったんだあああああああああ!!

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