さらば北センチネル島! 一週間の船旅

「――――ハッ」


 本当に気絶してしまった。

 気づければ俺は部屋のベッドに横たわっていた。左右には柔らかい“何か”がある。……なんだこの感触。


 ふにゃふにゃして肌みたいな感触……って、天音と北上さんの肩だ!


 二人とも俺に寄り沿って眠っていた。しかも下着姿で。


 な、なんて大胆な。

 けど、そうか……船は動き続けているようだ。まだ日本には到着していないらしい。


 どうせ長旅なんだ、今はこの状況を満喫するべきだ。


 また何かトラブルに巻き込まれでもしてみろ。こんな風に女子を抱くなんて出来ないぞ、俺よ。


 そんな風に言い聞かせ、俺は天音と北上さんを堪能していく。



 * * *



 気持ちいほどの朝陽が昇っていく。

 俺は船の甲板に上がり、夜明けの海を眺めていた。


 隣にはノートパソコンを広げる天才ハッカー・桃瀬の姿が。どうやら、彼女は早起きのようだ。ハッカーって夜更かしなイメージがあったが、そうでもないらしい。


「朝早いね、てっちゃん」


 親しくなってから、桃瀬は俺のことをそう呼ぶようになっていた。


「桃瀬こそ」

「私のことは『桃枝ももえ』でしょ」


「あ~、悪い。桃枝も早いんだな。ハッカーなのに」

「徹夜しているハッカーなんて時代遅れだよ。今は新時代だから、鮮度が重要。波に乗り遅れたら後の祭りだよ」


 よく分からんが、そういうものかね。

 桃瀬改め桃枝には、ホワイトウォーターやストラトフォーを探ってもらっていた。ヤツ等、また俺たちを狙い始めているからな。用心するに越したことはない。

 今のところ海外掲示板は静かなものらしいが――果たして。


 しかし、あの北センチネル島での出来事はネットニュースにすらなっていないという。もみ消されているのか。


「なあ、桃枝。アメリカはどう動くかな」

「う~ん、やっぱり、てっちゃんの資産を奪いにくるんじゃないかな。だって、向こうには情報が漏洩ろうえいしているんだから」


 そうだ。そうでなければ、今回の北センチネル島での事件も起きなかったはず。情報が洩れていたからこそ、俺たちは巻き込まれたんだ。


「むむぅ」

「とりあえずさ、さっさとマレーシアでも何でもいいから海外移住して隠居した方が身の為だと思うよ」


「そうだな。みんなを幸せにする方法はそれしかない」

「みんなねぇ」

「なんだよ、その顔は」


「あの北センチネル島で拾ったアベリアって子も含まれてるのかな~って」


 桃枝は、悪戯っ子のように笑って聞いてきた。


「あのな。これ以上、取り分を減らしてたまるかってーの。アベリアは、日本に帰ったらきちんと大使館経由でアメリカに帰すさ」

「素晴らしい心掛けだね。さすが、てっちゃん!」


 褒められても何もでないけどな!


 アベリアは事件に巻き込まれただけの可哀想な女の子だ。俺たちを除けば一般人で唯一の生存者。つまり、彼女を帰せば噂くらいにはなるはずだ。


 北センチネル島で何かあった――と。


 そうなれば組織も動きづらくなるはず。


「――で、日本まであとどれくらいだ?」

「それは船長のリコちゃんに聞いて」


 そういえば、今はリコが船長を務めているな。船の操縦も上手いもので、ぜんぜん揺れもないし安定している。


 どれ、様子を見に行くか。


 俺は船内へ戻り、操舵室へ。


 そこにはいつもより凛々しく見えるリコの姿があった。金髪をポニーテールにしちゃって、なんか可愛いな。



「おはよ、リコ」

「ん……って、啓くんじゃん。やっほ~」

「眠そうだな。交代しようか?」

「いや、大丈夫。次は姉さんに交代してもらうから」


 なるほど、交代で運転しているわけか。なんだか任せっきりで申し訳ないが、俺がリーダーとしてみんなをまとめねばならないからな。


「そっか。ところで、あとどれくらいで到着だ?」

「さすがにまだ掛かるよー。途中、最寄りの島国で燃料も補給しないといけないし」

「それもそうか……」


 となると、フィリピンや香港、台湾あたりに寄っていくのかな。


「シンガポールにある北上さんの知り合いを使うよ」

「シンガポール!? まだそんなところだったのか」

「高速船とはいえ、そんなものだよ~」


 思ったより時間が掛かりそうだな。

 日本まであと数日は掛かりそうだ。


 船旅はまだまだ続く。


 リコの言う通り、シンガポールにも寄った。少々危険な橋を渡りつつも、燃料も無事に補給。船旅が続く。



 そうして、他の国にも寄りながらも一週間が経ち――。



 俺たちは、ようやく日本に帰国した。



 熊本県にある天音の別荘へ辿り着いたんだ……!

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