よわよわハート

 ぼんやりと明かりが見えてきた。

 あれは船の照明に違いない。きっとリコたちがあそこにいるはずだ。足を滑らせないよう、慎重に進む。


 やがて、船から手を振る人の姿が見えた。



「おーい! 啓くーん!!」

「そこにいるのはリコか!!」



 ライトを向けると、そこには見覚えのある顔が。リコで間違いない。それに、桃瀬と艾がいた。どうやら、この三人が迎えに来てくれたようだな。助かったぁ。


 これでようやく北センチネル島とおさらばできる。



「みんな無事で良かったー!!」



 滝のように涙を流して歓喜する桃瀬。その隣で艾も飛び跳ねていた。



「桃瀬ちゃん、艾ちゃん、ありがとねー!」



 手を振る天音。俺もつられて手を振っていた。やっとこの地獄から抜け出せると思うと、自然に笑みが零れた。


 そのまま船に乗り込む。



「到着っと」

「待っていたよ、啓くん」

「おう、リコ。こちらは、俺、天音、北上さん、千年世……そして、この島で出会ったアベリアさんの五名だ」


「アベリアさん?」


「ああ、旅客機に乗っていた生存者のひとりだよ。アメリカ人なんだ」

「そうなんだ。じゃあ、大丈夫だね」

「彼女は大丈夫だ。ここまで共にしてきたけど、信用できるよ」



 もともとはトムと友達だったようだけど、彼女は巻き込まれただけだろう。さっきは人質にされていたし。


 アベリアは、ひとまず日本へ連れていき、それからアメリカへ返してやろう。



「よ、よろしくお願いします」

「へえ、アベリアさんって日本語が分かるんだ」



 リコは、アベリアと挨拶を交わした。

 それから桃瀬と艾も同じように。



「リコ、直ぐに出発できますか?」

「もちろんだよ、姉さん。交代で操縦して帰ろう」

「なるほど、その方がいいですね。啓くんもそれでよろしいです?」


 北上さんが俺に意見を求めてきた。


「もちろんだ。さっそく出発を頼む」

「了解です」



 ついに船は動き出した。

 短い間だったが、この島でも色々あったな。さらば、北センチネル島。



 * * *



 しばらくの間、船内にある寝室で眠ることにした。

 この高速クルーザーは、天音が所持している船。個室が四つもある。俺はその内の一部屋を借り、まずはシャワーを浴びることに。


 浴室へ向かい、扉を開けると――――あ。



「……え。は、早坂くん!?」

「ちょ、天音! ハ、ハダカ……」


「きゃあっ……見ないでよぅ」



 顔を真っ赤にする天音は、しゃがみこんで必死に体を隠していた。相変わらず、細くて綺麗な体だな……って、見ている場合じゃないな。



「す、すまん。まさか天音が入っているとは……」

「ほ、ほら……わたしって綺麗好きだから」

「そうだな。天音って一日に二回は風呂に入ってるよな」


「そんなことよりも……うぅ」

「あぁ、すまん」


 俺は謝りながらも扉を閉めようとしたが、天音が俺の腕を掴んだ。



「天音……?」

「……一緒に入ろっか」


「…………マジか」


「うん。ただし、バスタオル必須で」

「それならいいか。分かった」



 その条件を飲み、俺は天音と一緒にお風呂に入ることに。とはいえ、シャワールームはそこまで広いわけではない。結構な至近距離で対面することになる。


 俺のよわよわ心臓ハートが持つかどうか……。

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