帰れるかもしれない

 見える敵は全て排除した。

 トムは食われてズタボロだ。見る影もない。


 これでもう脅威は過ぎ去った――そう信じたい。


「北上さん、これで終わりだな」

「ええ。あとはリコたちの迎えを待つだけですね。――おや、噂をすればなんとやらですね。スマホに着信がありました」


 スマホをタップして電話に出る北上さん。相手はリコか。

 スピーカーに切り替えてくれた。



『どもー、姉さん。ただいま、北センチネル島の南側に到着しましたぁ』



 ああ、そうだ。

 リコは、北上さんのことを“姉さん”と呼ぶようになっていた。昔はあんないがみ合っていたのにな。今は互いを認め合っているようだった。



「助かりました。では、装備を整え次第向かいます。リコ、あなた方は十分に用心してください。敵勢力が残っているかもしれませんので」


『りょうかーい! 姉さんたちも気を付けて。あ、もしかして、啓くんもいる~?』


「今、隣にいますよ。話しますか?」

『うん、少しだけ』



 俺もリコと少し会話がしたいと思っていた。



「よう、リコ。本当に助かったよ、船だよな?」

『もちろん。今回はちゃんとした頑丈な船だよ。もう沈没なんてないからね!』

「そうだと助かるよ。もう漂流はこりごりだ」


『だから、船舶免許だって取ったんだからね~。操縦は任せて』



 今や俺たちのチームは、あらゆる資格を取得していた。おかげで大抵のことは出来るようになった。人間、がんばれば沢山の技術を詰め込めるものだな。


 北上さんの地獄のような訓練のおかげで、車やバイク、船や飛行機、あらゆる乗り物に乗れるようになった。だから、リコも今やプロの軍人に近いスキルを持ち合わせている。


「じゃあ、頼んだぞ」

『待ってるからね! 気を付けて』



 そこで電話は切れた。

 これ以上は探知される可能性もあるからな。


 敵は一応、テロ組織だ。油断しない方がいい。



 * * *



 最上階へ戻り、天音たちと合流した。


「早坂くん! ……って、凄い返り血だね……」

「せっかく風呂に入ったんだがな」

「下の方で何があったの?」


「トムは生き残っていた食人族に食い殺された。その食人たちは、俺たちが……」

「そっか……」


「とにかく、これでもう敵はいない。しかも、さっき電話があってな。リコがこの島に到着した。船が着てくれたんだ」


「ほんと!?」

「ああ、帰れるぞ」



 そう伝えると天音や千年世、アベリアも喜んだ。

 歓喜してみんな俺に抱きついてきた。



「うあああ、やっと!!」

「やりましたね、早坂くん!」

「家へ帰れるんだ!!」



「わっ! みんな、そんなにベッタリ……まあいいか」



 今は喜ぶべきだ。

 もう敵はいないし、あとは日本に帰るだけなんだから。


 そうだ、もう帰ろう。

 いったん日本に帰って、それからまたマレーシアへ行くべきか考えればいい。



「では、装備を整えて行きましょう」



 北上さんがペンライトを配る。

 今はもうすっかり深夜で外を歩くのは危険なのだが、一刻も早くこの北センチネル島を離れたい。もしかしたら、まだ食人族やテロ組織の残党もいるかもしれないからな。


 銃や食料を持ち、監視塔の最上から去っていく。


 念のため扉のパスワードロックをし、電源も念のため落とした。


 ここへ来ることはもう二度とないと思うけど。



 一階まで降り、いよいよ外へ。



 もちろん、外は真っ暗で視界が悪すぎる。いくら星々が輝いているとはいえ、それほどたいした光量ではない。月なんて見えないし、あるのは天の川銀河だけだ。


 おっと、夜空にみとれている場合ではないな。



 ライトを点灯。

 明かりを頼りに先へ進む。


 先頭はもちろん、俺。


 二番目に天音。北上さん、アベリア、千年世という順となった。



「天音、大丈夫か?」

「う、うん。わたし……あんまり役に立てていないけど……」

「そんなことはない。天音は美味い飯を作ってくれたり、面白い話をしてくれたりするじゃないか。それに……俺を癒してくれるし」


「……良かった。早坂くんの役に立ているのが特に嬉しい」

「戦闘面は仕方ないさ。北上さんや千年世が強すぎるんだから」

「ごめんね。わたしももっと強くなるから」


「いや、天音のことは守らせてくれ。これからも」

「早坂くん……馬鹿。そんなこと言われたら、嬉しくて泣いちゃう」



 そんな風におしゃべりしていると北上さんがジトとした目線を送っていた。なんで、そんな目で俺を見るかなぁ……。



「久しぶりに刺していいですか?」

「ヤメレ!」



 顔がマジだからヤバイ。

 ホント、いつか俺刺されるな。


 ゾッとしながらも俺は先を進む。位置情報はもらっているから、正確に進んでいるはずだ。あと少しでリコたちを会えるはず。


 ようやく帰れるんだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る