爆破スイッチを奪い取れ!

 トムが不敵に笑っていた。

 なんだ、コイツ……最後の悪あがきか?


「……フフフ、早坂。これで勝ったと思うなよ」

「どういう意味だ」


「こんなこともあろうかと、この監視塔には爆薬が仕掛けてあるのさ。どうせ殺されるなら、この爆破スイッチを入れてやる」


 懐から小さな端末を出すトム。まさか……!


 千年世が銃を構えるが、俺は止めた。


「爆破されたら俺たちも死ぬぞ。千年世、ヤツを見逃すしかない」

「……っ」


 北上さんも爆破スイッチの奪取を考えたようだが、距離があるし、押す方が早い。



「おっと、それ以上近づくなよ!! 俺を見逃せ!!」



 ……ええい、仕方ない。

 言われた通りにするしかないだろう。


 俺はみんなにトムを撃たないように指示を出した。ヤツは隙に乗じて逃げ出していく。


「……すまない」

「いや、正しい判断でしたよ、啓くん」


 北上さんが励ますように俺の肩を叩いた。そう言ってもらえて少し気が楽なった。けど、まだ油断はできない。


「北上さん、この場所に留まっていては危険だ。外へ行こう」

「そうですね。いつ爆破されるか分かりませんし」


 と、そのまえにアベリアの様子を見た。


「アベリア、大丈夫かい?」

「……あ、ありがとうございます。でも……まさかトムが犯罪に関わっていたなんて……」


「知らなかったのなら仕方ないさ。とにかく、塔を爆破される前に脱出しよう」

「分かりました。ついていきます」



 必要な荷物を持ち、俺たちは最上階を去った。

 だが、階段を降りる途中で意外な光景を目撃した。


 中間地点の寝室に閉じ込めていたはずのアドハムが飛び出して、トムと揉み合っていたんだ。な、なぜ!?


 アドハムの部屋はきちんと施錠してあったはず。



「こ、この裏切者が!! お前の部屋を開けてやったというのに!」



 そうか、トムが開けていたんだ。

 一応、奴らの仲間だからな。

 でも、アドハムは意外にも反抗したようだな。


 アドハムは、なにか英語で叫んでいるようだ。



「北上さん、彼はなにを?」

「アドハムは、今のうちに爆破スイッチを奪えと」



 あのテロ組織の男が……まさか、俺たちの味方をしてくれるなんて。だが、チャンスだ。俺は突撃してトムの手から爆破スイッチを奪った。



「くそおおおおおおおおおおお!!!」

「へへっ、ざまあみやがれ! トム!」



 抵抗を続けるトムは、アドハムを突き飛ばす。



「ちくしょう、ちくしょう!! どいつもこいつも俺様を馬鹿にしやがって!!」



 観念したのかトムは下まで走り去っていく。

 涙目の敗走をした。


 ……これでもう爆破されることはない。あぶなかった。



「アドハム、無事か! オーケー?」

「……No problem大丈夫だ


 よかった、ケガはないらしい。

 彼のおかげで爆破スイッチを奪えた。俺はアドハムをまったく信用していなかったけど、戦闘員の中にはこういう良い奴もいるんだなと認識を改めた。



「追撃しますか?」



 北上さんから指示を仰がれる。

 そうだな、このままヤツを生かす道理はない。排除しておかないと、また俺たちを狙うだろう。



「天音、千年世、アベリア、アドハムは塔で待機。俺と北上さんで様子を見に行く」



 天音が心配そうに俺を見つめる。



「早坂くん、本当に大丈夫?」

「ああ、ちょっと様子を見に行くだけだ。天音、最上階で備えていてくれ」

「うん、分かった」



 四人を再び最上階へ向かわせた。

 俺と北上さんは下へ。


 階段をひたすら降りていく。



「なあ、北上さん。これで終わりだと思うか?」

「少し嫌な予感がしています。気のせいだといいのですが」



 一階の出入り口へ向かうと、そこには恐ろしい光景があった。


 ……な!?



「北上さん!!」

「……そんな」



 トムが食人族に襲われて食われていた。


 食人族に生き残りがいたのか……!


 全滅していたわけじゃないんだ。



「ぎゃ、ぎゃあああああああああああ……助けてくれえええええええ!!!」



 手足をボリボリ食われていく。

 これはもう助からない。


 こうなったら食人族共を排除するしかない。俺と北上さんは銃を構えた。

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