暗殺銃『ウェルロッド』

 全てはトムの計画であり、今までのカタコトも演技だった。

 コイツは俺の宝を奪うために旅客機をハイジャックして多くの人の命を犠牲にしたのだ。なんて卑劣……悪魔。


 この北センチネル島の占領もそうだ。


 食人族とはいえ、現住民たちは閉鎖的な空間でのびのびと暮らしていたはずだ。俺たちが来なければ平和だったはず。なのに、このテロ組織共に壊滅させられてしまった。



「トム、ウソだよな……そう言ってくれ!」

「全て事実さ。……さあ、早坂。命が惜しければ金を寄越せ。お前にはあるはずだ……宝島で手に入れた何百億もの金がな」


 コイツ、その情報をどこで……!

 けど、ここはとぼけておく方が得策だ。


「なんのことだ。俺はただの高校生だぞ」

「惚けても無駄だ。貴様のことは全て調査済み。ヤツから……『マーカス』から報告を受けている」



 マーカスといえば、北上さんの知り合いだった軍人の男。だが、奴は裏切っていた。その結果、命を落としたが。


 北上さんは少し困惑していた。

 まさか、ここでマーカスの名が出るとは思わなかったようだな。俺もだが。


 なんにせよ、マーカスがトムに情報を流していたことは間違いない。


 ということは……。



「そうか、トム。お前は『ホワイトウォーター』か」

「ようやく気付いたか。そうだ、正解だよ、早坂。だが、今更気づいたところで意味はない。さあ、アベリアや女共の命が惜しくば金を出せ」



 くそっ、金目当ての軍人かよ。

 まだ強盗の方が可愛いものだ。

 しかし、このままではみんなの命が危うい。


 特にアベリアは一般人。


 このままでは……。



 焦っていると北上さんが耳打ちしてきた。



「早坂くん、あたしと千年世で戦闘員を全員排除します。トムは、あなたと天音さんに任せます。いいですね」



 つまり、北上さん、千年世でテロ組織のメンバーを倒すってことか。俺と天音は最後に残る予定のトムと勝負。だが、アベリアが人質に取られている。

 そこは天音に任せよう。


「分かった。合図を送る」

「……了解」


 こっそと手渡されるハンドガン。

 こ、この筒状の銃はまさか……イギリスで開発されたという暗殺銃『ウェルロッド』ではないだろうか。


 まさか、こんなモンがあるとはな。


 ウェルロッドを背中に隠し、俺はいつでも撃てるようにセットした。


 それから、トムに対して交渉した。



「トム、金が欲しいならまずはアベリアを解放しろ」

「そうはいかない。コイツは保険なのだからな!」


「そうか。なら、こうしよう……」

「なに?」



 俺は“合図”を北上さんたちに送った。


 次の瞬間には銃弾が飛び、テロ組織の戦闘員四名が命を落とした。


 北上さん、天音、千年世による銃撃だ。



 俺はそこからウェルロッドを構え――引き金を引いた……!



『――――ドンッ!!』



 消音機能があるウェルロッドは、それほど大きな音を立てずに弾を放った。一発の弾丸がトムの頬をかすめていく。


 驚いたトムはバランスを崩して倒れそうになっていた。



「いまだあああッ!!」



 俺は突撃してアベリアを救出。

 戦闘員が落とした銃を拾い、トムの頭に銃口を向けた。



「…………く、くそっ」


「観念しろ、トム」



 ラウルもひざまずき、両手を挙げて降参していた。どうやら、本気の北上さんに負けたようだな。勝てるわけがない。



「こ、これで勝ったと思うなよ、早坂!」

「うるさい、黙れ。トム、悪いが俺たちの邪魔をする者は容赦なく排除する」



 俺の背後で銃声が聞こえた。

 北上さんではなく、千年世が容赦なくラウルを撃ち殺していたのだ。



「これが我々の答えですよ、トムさん」

「……こ、この悪魔が!」


「あなたの方が悪魔ですよ。旅客機を落とすし、現住民を皆殺しとか人間の所業ではありません。さあ、罪を償う時間です。懺悔はさせませんよ」



 ニコリと笑い、リボルバーを向ける千年世。

 その前に俺はトムを排除しようとしたのだが……む!?

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