天音さんと特別なデート②

 コマダ珈琲を出て、そのままショッピングへ向かった。駅前にあるディスカウントストア『モンキーホーテ』へ。


 現在拠点にしている天音のマンションも近い。

 近くまで歩いて行くと、目の前からフードを被った人が歩いてきて――突然、俺の頬に触れてきた。



「ぬわっ!?」

「やっぱりここでしたね」


 フードを脱ぐその人物の顔を見て、俺も天音も驚いた。



「「き、北上さん!?」」



 まさか、こんなところにいるなんて。



「驚きましたか」

「いや、まあ……近所だから会わないこともないか」

「そういうことです。偶然ですよ」

「なるほどね」

「お二人はデートですか」



 見透かされているなあ。

 正直に言った方が良さそうだ。その方が刺されないし。



「そんなところだ。だから、今日は許してくれ」

「…………ふーん」


 この目はイカンな。無人島時代では、散々刺されかけたからな、思い出しただけで震えるぞ。



「ダメか? この前、北上さんともしたじゃないか」

「それはそうですが……。分かりました、今日のところは妨害はしないでおきましょう。そういう約束ですからね」



 なんだ、素直に撤退したぞ。

 約束? なんの約束なんだ。



「天音、北上さんと何か約束したんだ?」

「あ~、実は“じゃんけん”でどっちが先にデートするか決めててさ。妨害しないって前提で」


「そういうことか。ああ、それで三日前は……」



 あれはあれで充実したデートだったなぁ。あっちこっち歩いて回ったし、最後は良い思い出も作れた。



「というわけで、今日はもう二人きりだからね!」

「分かったよ。まずは買い物を済ませようか」



 マンションには千年世や桃瀬……仲間が多く住んでいる状況だ。みんな、家へ戻れなかったり、家を失った者もいる。事情は様々だ。


 食料や必要な雑貨品を買いまくって――いったんマンションへ戻った。物資を置き、また外へ。



「これで買出しは完了っと。早坂くん、これからどうしよっか?」

「そうだな、映画とかカラオケ……水族館もありかな」

「じゃあ、カラオケにする?」

「そうしよう。ゆっくりまったり歌うのも悪くない」



 本州へ戻って来てから、歌を歌うなんてしていなかった。そもそも、俺は誰かとカラオケへ行くなんてしたことがなかった。一生、ヒトカラ人生かと思ったんだがな。

 女子と一緒にカラオケかぁ……夢のようだ。


 歩いて近所にあるカラオケ店へ向かった。


 道中、チラチラと顔を見られているような気がした。……ニュースはまだ続いている。遭難者である俺たちを探そうとする輩もいるらしい。


 島の情報を手に入れる為に。


 けれど、財宝の地図は俺の『脳』の中。その事実を知る者は、仲間しかいない。だから、そう簡単に財宝を手に入れることはできないのだ。



 だが、すれ違いざまに男が天音の腕を掴んだ。



「きゃっ!?」

「大人しくしろ!」



 な、なんだ……急に!



「おい、お前。天音から手を離せ」

「やっぱり、アイドルの天音か。特徴がよく似ていると思ったよ」

「なんだと……? お前、まさかファンか」



 歳上の男が俺を睨む。

 多分、社会人っぽいな。



「そうさ、俺は天音さんのファンだ。ずっと彼女を追いかけてきた……なのに、一ヶ月以上も姿を現さず……。ニュースにもならずに消え去ろうとしていた。そんなのは許さん」


「許さんって、天音の事情もあるだろうが」


「ふざけるな。こっちはグッズとか握手券の為に何千万と金をかけてきたんだぞ!!」



 これはいわゆる、ガチ恋勢ってヤツか。

 刺激すると厄介かもしれない。


 けど、デートの邪魔はさせない。

 俺は天音とデートしたいんだよォ!!



「グッズ? 握手券? 俺はとっくにそれ以上の権利を獲得している。金ではなく努力でな」



 俺は天音の手を握り、そのまま走った。



「助けてくれてありがとう、早坂くん!」

「このまま交番に入るぞ」

「うん」


 男が追いかけてくる。

 やっぱりな。俺の読みは正しかった。


 交番に入ると、男が発狂して殴りかかってきた。



「てめええええ!! 天音さんに何をしたあああああああああああ!!」



 拳が俺の顔面に向かってくるが、回避。それが丁度おまわりさんの顔に激突してしまった。あ~あ、やっちまったな。



「なにをしている貴様ァ!!!」



 直ぐに取り押さえられた憐れな男。

 発狂しまくっていたが、数人のおまわりさんに取り押さえられ――あえなく御用となった。馬鹿な奴め。



 俺は、おまわりさんに事情を話した。直ぐに解放され、俺と天音はデートの続きに。



「……ふぅ。まさか天音のファンと出くわすとは」

「ごめんね。こんな変装してるのにバレるだなんて思わなかった」



 一応、天音は髪型を変えたり、サングラスをしていたのだが……それでもファンにはオーラで分かってしまうらしいな。さすが現役アイドルだ。



「天音が無事でよかったよ」

「ううん。早坂くんが守ってくれたから……。その、あのね……カッコ良かった。好き」


 どんどん声が小さくなる天音。けれど、俺の手を握ってくれた。



「……天音」

「早坂くん、こっち来て」



 大通りからそれて、裏道へ。

 天音が正面から抱きついてきて、俺の唇を奪ってきた。身長差があるせいか、かかとを必死にあげて……可愛すぎる。



「そ、その……まさかキスしてくれるとは」

「さっきのお礼。もっとしよっか」



 俺は夢中になって天音とキスをした。

 時間を忘れて、全て忘れて――ただ、天音を求め続けた。

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