寝取ろうとしないでよ!

 彼岸花ひがんばな 理瑚リコの友達である『草埜くさの よもぎ』が俺を腕を引っ張っていく。


 無人島の大自然の中を二人きりで歩いていた。


 彼女は千年世に次ぐ小柄で、可愛さの塊しかない女の子だ。ふわふわしているし、危なっかしいところもある。でも、彼女は見た目に反してシッカリしている。

 一言で言えば“お姉ちゃん”みたいだなって感じた。


 黒髪の内側に見えるグリーンのインナーカラー。園芸部の自然をイメージした色を表現しているのだとか。ネイルも緑色に染まっているし、結構おしゃれな部類だ。


 こんな俺とは、まず接点なんてないと思うのだが――人生とは不思議なものだ。


 こうして今、先導してくれていた。



「草埜さん、みんなを置いてどこへ行く気だい?」

「草埜じゃないよ。よもぎって呼んで」

「……で、でも」

「呼んでくれないと、好きって言わせちゃうゾ~?」


「それ、俺にメリットしかないような……。分かったよ、二人きりの時は“艾”って呼べばいいんだな」

「うん、それでいいよ。啓くん」



 艾が俺の名前を呼ぶ。

 最近、女子から名前を普通に呼ばれるようになってきた。最初は死ぬほど照れ臭かったが、慣れてきてしまった。こう女の子と過ごす時間が多いと順応してきてしまった。

 俺はもう、ちょっとのことでは動揺しなくなっていたのだ――というのはウソピョンで、いつもドキドキしっぱなしだ。


 なんでこの無人島には美少女しかないんだかね。


 気づけば俺は崖に連れられていた。高さもあるし、まさに崖っぷち。落ちたら死ぬな。


「ここは?」

「ナイショのスポット。ここ、二人きりで来てみたかったんだよね」

「そういうことか。けど、イイ感じの草むらがあるし、寝そべって海を一望できるし、最高じゃん」


「でしょでしょ。だからね、こんなキレイな場所なら気兼ねなく啓くんと……出来るかなって」


「へ?」


 艾が頬を赤らめながらも、なにかつぶやいた気がする。


「そ、そのさ……啓くんだって興味あるよね!?」

「なにが!?」


「…………え~とぉ」



 悩ましそうにする艾だったが、俺に馬乗りになって抱きついてきた。……うわ、いきなり! 大胆すぎるだろう。艾。



「……な、な、何事ぉ!?」

「啓くんをスッキリさせてあげようかなって」

「なんでそうなる。てか、俺と艾はそういう関係じゃないだろう?」


「え? 啓くん、なに言ってんのさ。わたしは啓くんのこと好きだけど」

「そんなアッサリ~! 俺のどこがいいんだよ」

「うーん。全部」

「できれば具体的に」


「だって、この無人島に男の子って啓くんしかいないもん。めっちゃ頼りになるし~、面白いし。あと、啓くんって、わたしのココをたまに見てるよね~?」


 悪魔っ子のように笑う艾は、胸元を大胆にアピールしてきた。み、見えそうだぞ。


「そ、そりゃな。艾は俺にとっては太陽みたいな存在だ。本当なら手の届かない女の子だと思う。高校生活を普通に送っていたら、こうして話すこともなかったはずだ」


「そうだね、きっとそう。でも、これが運命だった。それに、わたしは啓くんを好きになっちゃったから……気持ちに嘘はつけない」


 艾が俺のズボンのベルトを外していく。


 ……ま、まさか!


 ドキドキしていると茂みの方から気配が。



「ちょっと待ったあああああああ!!」



「「!?」」



 俺も艾もビックリして離れた。

 しかも、奥から現れたのはリコだった。

 おいおい、つけていたのか!?



「リコ! なんでいるんだよ!」

「啓くんは黙っていて。それより、艾ちゃん。なんであたしを裏切ったかな」



 鋭い目つきで親友を睨むリコ。

 おいおい、友達なんだろうに。



「リコちゃんは相変わらずストーカー気質だよね」

「そ、そんなことないもん。艾ちゃんこそ、勝手にあたしの彼氏を寝取ろうとしないでよ!」

「人聞きの悪い。ていうか、勝手に彼氏とかおかしいでしょ。啓くんはフリーのはず」



 いかん。このままでは、いつしかのようにバトルになってしまう。そうなる前に俺が場を鎮めるしかないだろう。腕を捲った俺は、二人の間に割って入った――!

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